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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪6 終録帳の覚醒
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親友に誓う

 翔太の寄りたい所は、多分有村君のお墓だと直ぐに分かった。

あたしも本当は病院まで行こうと思ったけど、優子さんに止められた。

何をしに行ったのかまでは分からないけど、多分有村君に似ている犯罪者についてだろう。

今のあたしに出来る事は、翔太の退院祝いの肉料理を、優子さんと作る事(退院祝いになっているかどうかは疑問だけど、優子さんの機嫌が悪そうだったからきっと何かあったんだと思う)。

それが終わったら、あたしも動こう。

何が出来るかじゃなくて、何をやりたいか。

あたしの答えはもう決まってる。



 華音ちゃんは口元を震わせ、久遠をただ見ていた。

だが何故だ?

何故ここにいる?

反射的にポケットに手を伸ばそうとしたが、久遠は拳銃を突きつけていた。

「確かめたい事が、あっただけ」

 スマホに手を伸ばそうとする心理まで良く読まれ、先回りされた。

「兄さんは、亡くなってしまった筈です」

「……なるほど。とすると、彼女は妹、と言う訳か」

 華音ちゃんは今の状況を飲み込めていない筈なのにこうも冷静なのは、きっと本番舞台で演奏をする秀介を見てきたからだろうと思った。

「貴方は、どちら様ですか?」

「久遠、正義」

 華音ちゃんは俺と久遠をゆっくり見た。

「何かいわくありっていう気が、していた。こう言う事、だったわけか」

 答える事無く久遠は秀介の墓を見た。

要するに、俺の奴に対する表情の理由を確かめに来ただけらしい。

本当にそれだけなら、だが。

満足そうに頷き、拳銃を仕舞い、久遠は踵を返した。

「僕は未来を、止めに行く。君は今を、止めると良い。吉野、翔太」

 俺の返事も待たずに久遠は歩いて行った。

心を支配したのは悔しさ。

「また、いずれ会おう」

 その悔しさは、捕まえられなかった悔しさじゃない。

あんな奴を、秀介に重ねてしまった自分の未熟さ。

「翔太さん」

 あいつは久遠正義。

現在指名手配されている連続殺人犯だと言う事を華音ちゃんに説明した。

「そう、ですか……」

 華音ちゃんは墓をチラッと見て、目を閉じた。

「少なくとも、あの人は兄さんではありません。 ……そんな事をする人ではありませんから」


 華音ちゃんの笑顔に、そうだねと笑顔で答えた。


 墓の前にしゃがみ、線香と花を添え、ただ祈った。胸の痛みを誤魔化すように。


 ただ誓おう。何があってもお前は俺の親友だと。


 ただ誓おう。華音ちゃんに残酷な嘘をついたと。


 ただ誓おう。あいつは絶対に俺が捕まえると。


 それは揺るがぬ決意か叶えたい願いか。

それを決めるのは、俺自身だよな。

秀介。



 久遠正義の特別捜査チームが結成された中。

成果が上がらない事にメンバーは苛立ちを隠せないでいた。

勿論私もその内の1人。

こんな形の異常犯罪が今まであっただろうか。

自分に降りかかった不幸に対する殺害は、動機として理解出来る。

だが、このケースに至っては理解にさえ苦しい。

それなのにも関わらず、殺人手法の狡猾さと残虐さ。

……久遠の足取りが掴めない以上、私は奴の過去に焦点を当てて捜査する事にした。

特別捜査室には、私1人だけ。

吉野君の通報で、皆駆けつけて行ったからだ。

吉野君に少し拘っている気さえする久遠。

雑念を振り払い、捜査を進めよう。

深呼吸で仕切りを直し、資料に再度集中する事にした。



 帰ってきた翔太は、テーブルに並べられた肉塗れに少しだけ顔をしかめながら、部屋へと引き篭ってしまった。

料理にうんざりした訳……もちょっとはありそうだけど、どうしたんだろう。

翔太の部屋をノックすると、返事は返って来た。

それはどこか上の空で。

元気付けようと部屋に入ろうとすると、翔太から話し掛けてきた。

「……秀介の両親は、飲酒運転で家族を殺されたんだよな」

 そう、翔太から聞いたけど、あたしは結局あの遺書を読んでいない。

遺書を読んだのは、翔太だけなんだから。

「そうだったな」

 何かあったの?

単刀直入に聞いた。

面と向ってなら話さない事も、扉越しになら、日常的な直ぐ忘れるような会話として。

或いはここであたしがどこか行くかもしれないから、誰も聞いてないかもよ?

「秀介に、会って来たんだ」

 そうだろうとは思った。

入院中何を考えていたのかは聞かない。

「華音ちゃんも偶然いた。んで、久遠がそこに来た」

 え!?

「華音ちゃんが兄さんはそんな事する筈無いって。俺、大嘘ついちまった。それがちょっと……な」

 ……。

そっか。

言わない方が良いと思ったのは、あたしも同じ。

でも、果たしてそれが正しい事なのかは、分からない。

優しい嘘は、時が経てば経つ程に、残酷な事実となってしまうと思うから。

「秀介に誓ったけど、それでもさ。後ろめたさって言うのが……さ」



「あの時した約束、覚えてる?」

 トランプ館での事だろうか。

って言うか結局ばっちり聞いてんじゃねーかよ。

「ここから先、危険があっても守ってくれる?」

 言うまでもねーじゃねーかよそんな事。

敢えて聞く辺り何と言うか……。

「なら、あたしも」

 え?

「このまま、ただいるだけは嫌。力になりたい」

 でも、何すんだよ。

「考える」

 言うや、突然襖が勢い良く開き、驚いて振り向くと由佳が言いたくなさそうな表情をしていた。

「退院、おめでと」

 襖が勢い良く閉まった。

……。

まあ、何かやるんなら、俺から何か言う事も無いだろう。

そうだ。

色々あってやれてなかった。

結局夏休みは殆ど出来なかったし、病院でも何でやらなかったんだろう。

スマホを取り出し、ゲームに勤しむ事にした。

やりながら、色々考えよう。

めまぐるしさから開放されたから、少しだけ疲れた。

……晩飯をどう切り抜けるかも、考えなければならない。



 秋の海岸は良い。

誰かがいると言う事が極端に少ない。

吉野、翔太。

0の世界を造る大事なピースとなるだろう。

それは誰もが目指す楽園なのだ。

だが、理想と現実の狭間に捉われる事で、人は容易く悪に染まってしまうのが人としての感情の通常であるだろう。

水平線にはまさに太陽が沈まんとしていた。

そう。

長い夜は、いずれは朝日が昇り、光が差す。

悪無き0の、世界。



 この時の俺の認識の甘さを嘆いた所で、どうにもならないと思った。

異常思想の悪が、気付かれる事無く動こうとしていたのだから。

 怪6、終録帳の覚醒。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

開始から3ヶ月、ほぼ休まず書き続けて疲れました(笑

しかし、ランキングに載ってるような方々は半年以上も毎日書き続けておられて凄いと思います。

これからも、頑張って行くのは当たり前だと思いながら、やっていこうと思います。

それも読んで下さっている皆様のお陰でございます。

今後とも、宜しくお願い致します。


第1部はこれで終わりです。

今後、これらは纏めてしまおうかと思っていますが、その方が探しやすいのかもしれませんし、

タイトルから怪3とかで見つかれば、『怪1もあるのか』と見つけられるのかもしれません。

文章も1行1行で改行を行った方が、ネット媒体は見やすいかもしれません。

そう言った諸々の事情を考慮し、今後どうしようかは決めたいと思います。


第2部からは、更なる不可能犯罪や悪人も増えて行き、どうなる事やらな展開になって行くと思います。

皆さんも、是非トリックを考えてみてください。

ミステリー小説って、それが一番の醍醐味ですからやはり。

ワクワクさせるような小説を書けるよう、精進していきます。


では、長くなってしまいましたが、第1部。

読んで頂きありがとうございました!

物語は第2部へと進んでいきます。

アップまで暫くお待ち下さい。


2017/08/10 追記

「カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~」に纏めさせて頂きました。

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