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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪6 終録帳の覚醒
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断罪開始

 それにしても着いたらノートを渡すなんて珍しい。

私は敢えて問いかけた。

まだどうしてここに来たのか、分からない人もいるから、

「遺産相続って言ったら、それでも来る価値があるわよ。ね?」

 そう言った女性は隣に座っている久遠の腕を抱いた。

……夫婦。

かしら?

「そうだね」

 大半は遺産相続。

だけれど、お互いは多分初対面。

何なのかしら。

この矛盾だらけの会合は。

佐久間はまずい事があって仕方なく来た?

今野はそもそも何の為に呼ばれたのか、分かっていない?

そして私達は殺人予告。

その時声が響いた。

「ようこそ。崖の城へ」

 機械で作られた不快な声。

全員が天井を見上げた。

部屋の4隅にはスピーカーがあった。

「夕食の時に、お話しましょう。まずは夕食までのひと時をお楽しみください」

 この機械声が呼び出した張本人……と考えて間違いはなさそうね。

「……声の主と面識はありますか?」

 メイドは静かに首を横に振った。

「誰だかは分からない、と言う事ですか」

「ごちそう様でした」

 たまたまここに観光に来た女性はそそくさと部屋に戻って行った。

たまたま何の為に来たのか。

本当の事を話したとは思わない方が良さそうね。

「お楽しみは後に……って所かな」

「ま、金が入んなら儲けもんだし」

「私達も戻ろ?」

「はいはい詩鶴」

 ぞろぞろと部屋から出て行く全員を、翔太君はジッと見ていた。



「どうして?」

 部屋に戻ると、由佳が開口一番俺に尋ねて来た。

本当の事を言わなかった理由。

また由佳の顔が気持ち悪くなりそうだが……。

俺達が殺人予告を受けてここに来たとあの時に言っていたら、全員どうしていたと思う?

「……身を守る為に行動するんじゃないの?」

 そうなったら、犯人にとっては都合の悪い事になる。

そしたら多分由佳。

お前が狙われる可能性があるんだ。

ほらすぐ気持ち悪い顔にな痛い痛い痛い!

「それに、黒いノートが皆に配られていた。書いてある内容がそれぞれバラバラだった」

 そして俺達3人は当然知り合い。

久遠夫妻も夫婦だから当然。

それ以外の面々は全くの初対面だった。

この状況で、誰が誰を殺す?

「……動機?」

「これだと、全員が犯人だと決め付けて常に行動を監視するしか手は打てないわ」

 出来たらの話、だが。

倉田さんがいれば詳しい事を話せば納得してくれるかもしれなかった。

黒いノートの差出人は、かなりの頭脳。

油断していたらやられかねなかった。



 崖の城の入り口向かって左側にはガレージがあった。

そして当然のようにワゴン車が止まっていた。

由布佐貴子が乗って来た、在り来たりなレンタカー。

そこに2人の男女が倒れていた。

久遠正義と久遠詩鶴。

「さあ、断罪の時間だ。せいぜい、死体となって踊れ」



「お待たせしました。いよいよ始まります」

 それは突然にやって来た。

俺達より早く、御堂さんはやって来ていた。

3階から他の人達も。

「まずは食堂にお集まり下さい。内容を説明させて頂きます」

 内容を説明?

久遠夫妻がいない?

後ろ髪を引かれながらも俺達は食堂へと急いだ。



 食堂には由布さんがいた。

部屋に入ると同時にまた不気味な声が響いた。

「断罪の開始を宣言します」

 断罪?

それよりもあたしは理解出来なかった。

どうして由布さんが拍手をしているのか。

「最初のターゲットは、久遠夫妻」

「くそ! やっぱりいない!」

 翔太の言う通り、久遠夫妻の姿が見えない。

「死ぬまでの時間は5分。詳しい事は、彼らのノートに記入しておいた。確認してくれたまえ」

 最後まで聞かず、翔太は走った。



 頼む!

2階の突き当たりの扉を叩いた。

おい!

いるんだろ!

返事が無い。

鍵も掛かっている。

俺が言うよりも素早く、カードキーを渡したのは由布さんだった。

「こちらを」

 ……一体なんだ?

このメイドは……。

頭を切り替え、カードキーを差し込む。

開けた部屋の中は、必死に抵抗したのだろう。

争ったとしか思えないような形跡が目立った。

備え付けの机は綺麗に整頓されていた。

そして窓にはノートが開いた状態で貼り付けられていた。

文章に戦慄した。


 17時35分 久遠正義 久遠詩鶴 崖の城。

ガレージの車で崖から転落死。


 壁に掛けられた時計。

17時32分。

まずい!

「後3分しかないよ!」

 ガレージはどこだ!

由布さんに怒鳴った。

「玄関を出て右にございます」

 予告殺人?

恐ろしい事が脳裏を掠めた。



 黒いノートに名前を書くと死ぬ。

そして特定の時間以内に死亡原因を指定する事が出来る。

そんなもの、この世にある訳が無いわ。

けれど、急がなくてはならないのは確実。

私は翔太君の後を追いかけ、玄関を出た所で見てしまった。


 目の前をワゴンがゆっくりと走っていた。


「おい!」

 全速力で走って行く翔太君を追いかけた。



 後300m程しか無い!

俺は何とか追いつき、ガラス越しに中を覗き込み、叫んだ。

久遠夫妻が乗っていた。

毛布を顔以外に掛けられ、目を閉じていた。

おい!

返事してくれ!

おい!

どうしてフロントパネルにまで毛布が掛けられている?

力いっぱいウィンドウを叩くがビクともしない。


 残り150m。


 殺されている?

眠らされている?

割れろ!

叩くが返事が無かった。

転びそうになるが何とかサイドミラーにしがみ付き、叫び、叩き続けた。

ガードレールが目の前にある事に、気付かなかった。

手を引っ張られ、抱き締められた。

ガードレールを突き破り、ワゴンは落下した。

強く抱き締められた。

ワゴンの爆音が轟いた。

俺を抱き締めていたのが楓だったと気付いた。

全員が追いついて来た。

あいつは秀介じゃないって頭では分かってる。

なのに、どうしてこうも心が痛む?

俺は叫んだ。


「有村秀介君に似た久遠正義。それはあたし達にとってはただの他人の死とは思えない。最悪な形でこの連続殺人事件は、幕を開けてしまった」


 時刻は17時35分だった。

タイトルから、第1部を取りました。

怪7以降もここに入れた方が見やすいと思いました(超今更


もう少しでお引越し作業が終わります。

この位の方が読みやすいのか?

色々模索しながらの作業で、読者の皆様にはご迷惑をお掛け致します。

この位が良い!

とかございましたらコメントでも何でも頂けると嬉しい限りでございます。

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