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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪5 風舟村の再会
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どこかから変わって行く

 核爆弾級の恥ずかしさを曝け出したのに、いとも簡単に手玉に取られてしまった事が悔しかった。

楓さんの言葉を思い出す。

花園塔で、翔太に危ない事をさせるつもりではないと言っていた。

それに、トランプ館にメイドとして潜り込んだ理由は何?

何のために翔太を事件が起こった場所に向かわせているんだろう。

あたしは、取引に応じて良いの?

あの後すぐに帰った楓さんは何も言わなかった。

翔太に相談。

……。

取引の経緯を話さなくちゃいけなくなる可能性があるから無理。

目を瞑った。

翔太と優子さんが隣に引っ越して来てから、色々あった。

どうして両親がいないのかとお母さんに聞いたら、何も話してくれなかった。

子供ながらに聞いてはいけないと思った。

あれから10年。

最近は特にめまぐるしかった。

沢山の死を目の当たりにした。

想い、願いを知った。

翔太の本当の能力が開こうとしていた。

少しずつ、その能力を知る人が増えていった。

あたしは、ただ見ているだけは嫌だと思った。

翔太の意図しない所で、あたしも少しずつ変わっていってる?

なら、あたしはどうしたい?



 明日から始まる風舟祭。

組み上がった櫓があるのみで、人は既にいなかった。

そんな深夜の暗闇を、松井龍斗は歩いて来ていた。

組に囲まれた人里離れた村は格好の場所だと思った。

うっかりばれたとしても、罪を全て被ってくれるから。

既に少しずつ侵食し始めている。

こうなってしまえば組の動きにさえ注意していれば、ばれる事は無い。

その為の、美術館。


 それは突然やって来た。

奔る激痛と、霞む視界。

……お前。

この為に……。

言葉は声に成らず、松井龍斗はその場に崩れた。

再会を果たしてしまった。

片隅の記憶が、同一を告げた。

祭を。

手向けよう。


「建物は変わらず、人の内面が変わって行く。それは悲しい現実として、目の当たりにする事となった」



 美術館があると言う通りを、歩いていた。

「1年前に突然やって来たんですよ。そして血生臭い事件でしょう? ……一応は組のもんに調べさせたんですがね。これと言った収穫は無かったんです」

 弦さんの情報網を持ってしても、異常が無い。

風舟村の情報は、その殆どが会の元へと収まる。

それは、村を守るため。

普通なら善良な市民が、若者の飛躍を助けるための施設。

そう考えるのが妥当。

学校なんて1校しかない、こんな村で?

それこそ卓以外に将来有望な芸術家が実際に出ている訳でもないのに?

辻褄が合わない。

それこそ都会の方が都合が良い筈なのに。

何故?

逆に考えれば、何かが公になった場合、罪を被ってくれる都合の良い組があると考えれば、説明がついてしまう。

中に入ろうとすると、卓が出て来た。

「翔太? どうしたこんな所で」

 咄嗟に村を見て回っていたと、無難な嘘をついた。

何をしていたのか。

卓は答えてくれるだろうか?

俺が普通通りに生活していたのなら、素直に聞けなくなっていたのかもしれない。

人には事情がある事を、知ってしまっているから。

でも、嫌な予感を、放置しても良いのか。

人の事情を鑑みないでも、自分の事情を貫く事が、後悔しないと言うものだろうか。

「どうした?」

 俺は卓に話を聞く事にした。



 昨日の今日で、由佳ちゃんに呼び出された。

こんなに早く返事をしたいと言って来た。

答えは分かりきっていたから、私は直接見て貰った方が早いと判断し、由佳ちゃんを招待した。

答えがNoなら、返事をしたい何て言わずにその場で断ってしまえば良い。

或いは返事をせずに、今まで通りの生活の中で、本人が言った通りどんな手を使っても私を拒絶すれば良いのだから。

森田さんの案内の元、神妙な面持ちで入って来た由佳ちゃんは室内を見回していた。

「何ですか? ここ」

 PCモニターが8つ置いてある部屋なんて、そう言えばそうそう無いわよね。

「何をしようとしてるの? 貴女は!」


 私も、翔太君と同じ考えなのよ。

「え?」

 それを、ただ実行に移しているだけ。

翔太君だって実行に移しているでしょう?



 飛んで行く風船は、きっと建物のどこかにつけられたものが風に飛ばされたのだろう。

小学校へ続く畦道を、卓と2人歩いていた。

ここからは、飛んで行く風船がたまに見える。

台風が来たとしても。

強風に晒されても、欠片は全て流魂に還って行く。

だから風船を気軽な装飾品として、村中で使う事が出来る。

「夕方のここが、一番綺麗だよな」

 ああ。

夕日に反射して僅かに見える、

風船の欠片。

今は色の判別が出来てしまう。

色が光に見える芸術を。

卓らしい考え方だと思った。

合掌していた時、卓だけが泣いていた。

何故?

他の皆は心では泣いていたかもしれない。

友達だから。

でも、堪えきれずに異性の死を悲しむ理由が、俺は1つしか思いつかなかった。

ただの推測だったけれど。

卓は立ち止まり、息を深く吸い込んだ。

「大好きだったんだ」

 瞬きもしない、虚ろな笑顔に。

ただ頬が透き通っていった。

「殺されるなんて、あんまりだよな」

 ……。

どうして花澄は殺されたのか。

どうしても体に力が入るのを止められはしなかった。

ただ、卓に謝った。

「俺も変わらないといけないのにな」

 変わって、お前はどうするんだ?

全てを忘れるつもりなのか?

聞けなかった。



「この世に生まれる犯罪を、全て防ぎたいって、思った事は無いかしら?」

 ……。

楓さんは、笑うでも怒るでも無く、あたしを真っ直ぐ見ていた。

別の誰かさんが同じような表情をしていたのを、何度も見た。

「1年の内に発生する犯罪の数は、認知されているだけで7桁に近付くわ。 ……認知されている犯罪数は、だけれど」

 何となく分かる気がした。

メディアの発達のためかどうかは知らないけれど。

以前よりも認知されている犯罪自体は増えたのは、理屈としては分かる。

「じゃあ。検挙率はどうなのかしら?」

 ……そんなの知る訳無かったから、無言を通した。

楓さんはそれを気にする様子は無かった。

「大体が4割未満程度に落ち着いているつまり、およそ60万の犯罪は、検挙さえされていないと言う事。 ……解決しているかどうかは、別だと思うけれど」

森田さんが運んできたアイスティーの氷が、嫌に煩く響いた。

「認知されている犯罪の数が増えて行く一方で。どうして検挙に至る割合が横一線に留まるのか。興味が湧かないかしら?」

 ……。

翔太なら聞きそうな話を。

どうしてあたしにするのか。

「犯罪が複雑化しているから。私はそう考える。なら、それを止めたいと私は単純だけれど、行動に移しているのよ」

 ……あたしに、協力しろって言うの?

「捜査協力をお願いするのではないわ。ただ、翔太君を支えてあげて欲しい。それだけ」

 ……あたしに、翔太を止めるなって事。

つまり。

「私に権利は無いから、お願いになってしまうのだけれど。どうかしら?」

 PC画面には、犯罪の検挙。

解決。

それらの報告らしき文章がチャットに流れていた。

……今ここで話している間にも。

人知れず闇に葬られようとしている犯罪が、次々に解決されているのだろう。

あたし達以外にもいるであろう協力者の手によって。

それを、楓さんも恐らく自ら足を運び、必要であれば解決して行っているのかもしれない。

翔太はともかく、事件が起きた時の妙な手際の良さは。

そんな理由があったから。

「返事は今すぐじゃなくても良いわ。でも考えて欲しいの。犯罪が0になる事で。この世界がどうなるのか」

 世界?

「正しい事を正しいって言えない世界なんて、嫌だと思うの」

 楓さんを見てハッとした。

……泣いていたから。



 今までの体験を変える事は出来ない。

それでも人が変わって行こうとするのは、意思があるから。

そしてその意思は、こうしたいと言う欲望。

その欲望は、感情に起因する。

感情は、人が生まれながらに持っている防御本能。

生まれたばかりの赤ちゃんは、高い所を無意識に避ける。

自分の命を守るために必要なもの。

考えてみれば当然だが、卓の思いを聞いた。

心がずっと止まったままでも前に進まなきゃと卓が思うのは。

そうしないと心が壊れるからと、本能が警告しているからだと思った。

「似合ってるわね真白ちゃん」

 さっきから褒めちぎる姉ちゃんに、真白は俯いて顔を隠していた。

半分遊んでいる。

そんな事を考えながら、俺達3人は浴衣を着て、年に1回開催される『風舟祭』への道を歩いていた。

「花澄の事、考えてる?」

 真白の言葉に、ただ頷いた。

友達が殺されて黙っていられる訳が無かった。

……あ。

好きだったとかそう言う訳ではない。

念の為。

「分かってる」

 個人的な恨みで殺されたとはどうしても思えなかったから。

だとしたら考えられるのは口封じ。

死体は伝える事が出来ない。

「翔太。解決しなさい。あんたが」

 姉ちゃんに言われなくてもやるさ。

「……解決?」

「こいつ、探偵……とは言わないけど、色んなとこに行って殺人事件を解決してるの」

 真白は目を見開いて俺を見ていた。

解決なんかどうでも良かった。

惨めに犯罪を防ごうとして出来なかった、その罪滅ぼしと思われても仕方が無い行為。

「翔太、花澄を殺した犯人、見つけて」

 ハッとした。

真白はボロボロ泣いていた。

「お願いします」

 敬語に本心を見た。



 正しい事をした人が何故損な役に回ってしまうのか。

私はそれが許せない。

秩序を保つために、どうしても必要。

そんな事は分かっている。

そんな秩序を、いい加減に壊して良いと思うから。

そしてその為には、力を持った、使える人間が。

そう思う事が必要不可欠。

そんな思いに至った事を、今は幸運に思っている。

花の王の桜が、春に咲く不変を壊し、季節違いの紅葉を、庭先から眺める。

例えるなら、そんな自由な世界。

「……どうぞ」

 お礼を言い、私はいつの間にか出た涙を受け取ったハンカチで拭った。

「トランプ館に行った理由は、殺人を止める為ですか?」

 いいえ。

キラークイーンと言う実在しない正体を、突き止める為。

そしてそこに翔太君と貴女が来た。

「花園塔も、ですか?」

 1フロアに1部屋しかない状況で、幽霊の声が聞こえる理由。

その噂がそのままにされている理由を突き止める為。

だから貴女達を誘った。

事件が起こるとは予想していなかった。

何かが起こる前触れがあった事は黙っておいた。

「翔太を危険な目に逢わせる訳では、無いんですね?」

 聞かれるのは2回目だった。

決して違う。

結果的にそうなってしまう可能性があったのは事実だけれど。

由佳ちゃんは目を閉じ、溜息をついた。

「……翔太は、知らないんですよね」

 ええ。

PCの動く音が響く中、由佳ちゃんの返事を待った。

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