風船の村
こんにちは。
怪5、連載開始です。
お陰さまでシリーズ累計2000PV。
ありがとうございます。
少しずつ頑張って行きたいと思います。
サッカーのワールドカップとか、オリンピックとかで、風船を大量に飛ばすあれ、ありますよね。
その風船は気圧が下がると膨らみ、やがて割れますが、その風船の破片はどこに落ちるのかと思っていました。
特定の場所があるとは思いません。
ですが、そう言う破片が全て落ちてくる、架空の村があったら面白いよねと思い、
今回の事件を思いつきました。
思いついたのは怪1を書く前ですが。
翔太の怪1以前に何をしてたのか。
両親とか家族は?
とか。
そう言った部分をこの辺りで書きたいと思っていました。
それでは、お楽しみ下さいませ。
楽しそうに話しながら、歩いて来る親子がいた。
女の子の手には風船が握られていた。
街中で配られていたもの。
それをきっかけに会話が弾む事は、ままある事。
突然風が吹き、女の子の風船が飛ばされるのも、ままある事だった。
悲しそうに空を見上げる女の子。
しかし、空を彩る風船は、一体どこへ行くのだろうか。
科学的に言うならば、上空に上がると同時に気圧が下がり、風船内部の気圧が勝る事により風船が膨らむ。
同時に気温が下がる事でゴムが弾力を失い、ガラスのように砕けやすい性質に変わる。
そして最終的に割れると言った所だろう。
なら、割れたゴムの破片は?
どこに落ちるのか。
風の流れに乗って行き、どこかへ落ちるのだろう。
しかし、世界中の割れた風船の破片が、ある1点に落ちる。
そんな場所があったとしたら?
地上からそれを見上げたら、一体どんな景色に見えるだろう。
誰かの思い。
魂の欠片が流れ着く様子に例えられ、その場所は流魂と呼ばれた。
翔太は何でも出来ない出来ない。
情けねえ。
「だって……そんなの無理だよ……」
世の中ってのはな。
無理な事ばっかりなんだ。
無理無理言ってたら何も出来なくなるぞ。
「それで良いもん」
それでも男か翔太!
良いか。
無理な事なんてこの世にはねえんだ。
良いな?
「そんな事無いもん。 ……逆上がり、僕は無理だもん」
だー!
女かお前は!
そうだな……。
無理だと思うんなら、出来るように変えてみろ!
「どうやって?」
そいつを考えんのがお前だよ。
見方をまずは変えてみろ。
無理な理由じゃねえ。
出来る方法を考えてみろ。
「……うん」
もっと言葉を纏めて言うとだな……。
纏める理由?
お前がでかくなっても、そいつを覚えていられるようにだ。
5歳のお前が何年経とうが、魂に刻んじまえば嫌でも変わってくってもんだ。
翔太。
不可能を可能に組み上げろ。
……。
思い出したくもない夢を見た。
それをきっかけに、勉強をする訳でも運動を頑張る訳でもなかったが、頭を使った遊びは良くやった。
だけど俺にそんな言葉を残した爺は、婆と仲良く事故死した(殺人とか抗争ではなく、ごく普通の事故だった)。
それをきっかけに俺と姉ちゃんは組を抜け、今住んでいるマンションに引越しをした。
頭がいなくなった状態で、俺達姉弟に気を使ってくれた人がいた。
勿論2人とも働ける年齢ではなかったから、仕送りをして貰いながら。
でも姉ちゃんは、いつまでも甘えていられないと、奨学金で高校を主席で卒業後、すぐに職に就いた。
そんな感じで、俺は何不自由……とまでは行かないが、家事全般をこなす事を条件に今の普通の生活をしていた。
引越し先のお隣さんが由佳。
そして同じクラスには秀介がいた。
バカをやりながら、何故かウマがあった。
動物恐怖症は、秀介のせいだった。
そんな秀介がヴァイオリニストだと知ったのは、中学に入る前の春休みだった。
ハムスターの被り物をしながら、天才ヴァイオリニストだと言った。
移り変わる窓の外を見た。
規則正しい電車の振動に、いつの間にか寝てしまっていた。
「もう、10年になるのね」
隣に座ってる姉ちゃんが、呟いた。
1年に1回。
お盆の季節。
電車で揺られる事2時間。
『次はー風舟村―風舟村ー』
駅を始め、建物の至る所に風船が飾り付けられている。人の出入りは多くも無く、少な過ぎない。
何も変わっていなかった。
駅の傍が森林で覆われているのも。
……俺とは対照的だった。
しばらく歩くと見えてくる、昔ながらの商店街も。
店頭に並ぶプラスチックのストラップも。
そして……いた。
去年から、売り子の手伝いをしていた。
「真白ちゃん、久し振りー!」
振り向いた、身長が低い女の子。
星崎真白が目を見開いた。
「優子さん……と、翔太?」
「翔太じゃねえか!」
肩を叩き、ヘッドロックをして来たのは真白のお父さん、健司さ痛い痛い痛いタップタップ!
「ちっともかわんねえなお前も!」
余計なお世話っていい加減に離して死ぬからお願い!
しばらく行けば、大きな和風の屋敷。
グラサンをかけた恰幅の良い男。
普通の人間は入り口を見ただけで後退りするだろう。
そんな空間をあたしと翔太は素通りしようとしたが、声を揃えてお帰りなさいませの嵐を受けた。
そうして歩いて行く。
和式畳が見える廊下奥に、巻藁が見えた。
今日位やらなくても良いのにと思う。
大広間を入ると、胴着姿のおっさん。
正座して目を閉じていると、オーラが凄い。
目を見開いた瞬間には、4つの巻藁は全て真っ二つ。
おっさんも腕は訛ってないみたい。
真剣を納め、あたし達を見た。
翔太は既に逃げていた。
「ぼっちゃあああああああああああああああああああああああああああん!」
文字通りおっさん……柳生弦は翔太に向かって飛んで行った。
「お変わり無いようですねええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「やめてえええええええええええええええええええええ!」
おっさんは、凄く熱苦しい人だ。
まだ弦さんはしつこく抱きつこうとしてくるから、姉ちゃんがぶん殴って止めさせた。
「いやー1年振りですからハッスルし過ぎました! どうですか? お変わりありませんかお嬢も!」
変わり無いといえば変わり無かったが、連れ回されている事。
殺人事件に巻き込まれている事。
それを解決してから、ちょくちょく警察に協力をしている事を話すと、弦さんは血相を変えた。
「何ですと坊ちゃんお怪我はしておりませんか第一何でそんなに巻き込まれていらっしゃるんですか組員全員連れて行きますから遠慮無く!」
「おっさん止めなさい!」
殴られても、それがまた嬉しいようで、顔がキラキラしていた。
何をしても俺達がいる事が嬉しいようだ。
「……こちらは何も変わり御座いません」
真顔になった弦さんは、10年前よりもオーラが増している気がした。
二代目吉野会の会長。
初代は吉野晴芳と吉野憐子。
俺達の両親その人だった。
「そうだ坊ちゃん。こいつは幹部連中から聞いただけの話なんですがね」
弦さんは俺をジッと見た。
文字通り飛んで来ないか激しく不安だった。
「坊ちゃん達が去年お帰りなさった後に、血生ぐせえ事件があったそうですぜ」
え?
1年振りに見た翔太は、ちょっと大人っぽく見えた。
……組長の息子って事で、最初は話すのが怖かったけれど、話してみたら、ちょっと頭が良くて泣き虫な。
ただの男の子だったのを覚えている。
そんな翔太と勝気な性格だった優子さんは、2人とも義理堅くて優しかったから、友達が沢山いた。
でも、両親が事故で死んでしまってから、優子さんと翔太はこの村から去ってしまった。
どうしてだろうと思ったけど、会長が変わったから、多分色々あったんだと今では思ってる。
それなのに毎年この時期に帰って来るのは、やっぱり2人とも義理堅い性格だからかもしれない。
「あいつ、頭だけは妙に良かったな」
遠慮がちに、私達は助けられたりもした。
それなら、1年前に起きた殺人事件も、話した方が良かった?
「あいつらの用事が終わってこっちに来たら、話したらええ」
未だに犯人が捕まっていなかった。
私達の大事な友達。
森下花澄が殺された事を。
今日がその1周忌だった。
少しだけ小高くなった丘に、2つの墓はあった。
両手を合わせ、爺と婆を思い出した。
爺は女のあたしに武道を仕込み、男の翔太に結果的に頭脳を仕込んだ。
普通逆だろと思ったから、もっと女らしい仕事がしたかった。
だけれどOLの受付は鳥肌が立って無理。
それに接客は変なお客相手に蹴り飛ばしそうだったから、婆仕込の趣味の料理を仕事に選んだ。
今は不良客層の相手と料理を半分ずつ位だが、まさか爺と婆の教育が、100%発揮できる職があるとは思わなかった。
不本意だけど、10年経った今になってしょうがないから感謝する。
翔太は、何を考えているのか分からなかった。
おっさんは手を合わせ泣いていた。
泊まるように言われた(抱きつかれた)が丁重に断り、俺は行きたい所があるからと、山道を歩いていた。
田舎の娯楽と言えば、昆虫採集や川だが、そう言うのは総じて苦手だったから、必然的にあの屋敷と学校内で遊んでいた。
蜩の鳴き声が夏の夕を煩く告げる中、開けた土地へと辿り着いた。
見上げたそれは無数にひらひらと落ちて来た。
全て破片。
ゴム特有の匂い。
蜩の鳴き声。
地面を彩る様々な色は、花園塔を思い出させた。
魂が流れるように、世界中で飛ばされてしまった全ての風船の流れ先。
理由は知らない。
全ての風船の欠片は、ここ流魂に流れ着く。
村の名前も大昔は違っていたが、この世にゴムのリサイクルと言う概念が誕生した後、急速にとは行かないまでも栄えるようになった。
風船にちなんで風舟。
だから俺が生まれるちょっと前位に風舟村と改名された。
そんな流魂の中心に、人が何人か集まっていた。
手を合わせている様子が遠目に見えた。
とても興味深い電話が掛かってきた。
翔太君にしか教えた覚えは無かった。
まあ、無断で教えられていても怒らない間柄ではあるから気にはしないけれど。
そこまでして電話を掛けて来た用件は興味深かった。
扉を開け、絶妙な室温に設定された室内に、落ち着いたBGM。
客足も、都合良く1人だけだった。
その1人が立ち上がり、私を見た。
いつものように、向かい側に腰を落ち着ける。
前回来た時は、翔太君も一緒だったわね。
そう言えば。
呼び出した本人。
由佳ちゃんは、私が座るのと同時に座り、私を真っ直ぐに見た。
頼んでいたのであろうカプチーノは、既に冷えているようだった。
「翔太に何をさせようとしてるんですか?」
いきなり来た事に半分興奮。
もう半分はそろそろ来る頃と思っていた喜び?
違うわね。
真白の他にも、昔良く遊んだ懐かしい面子ばかりだった。
坂田紅葉はふわふわぽわぽわした、所謂不思議ちゃん。
風林卓の描く絵は凄く、小学生の時に何度も賞を取っていた。
榎田健文は普段は無口だが、誰よりも皆の事を気にしていた頼れる兄貴分。
身長もかなり伸びていた。
堀川信久は情報通。
恋の噂にやたら詳しかった。
本人には一向に彼女が出来ないと良くぼやいていたが。
因みに真白は無表情だから分かり難いが、俺達と遊ぶ時は良く笑っていた。
そんな、皆が集まっているからこそ分かった。
……後1人足りなかったから。
「翔太じゃん! 久し振り!」
「年1じゃなくてもっと来いよな翔太」
卓が涙を拭いていた。
……。
悪いとは思いながらも、折角関係をリセットしてくれた(所謂堅気に戻った)のだから、頻繁に来るのは躊躇われた。
「翔太君だー。かっこよくなったねーえへへー」
紅葉は相変わらずだな……。
直に確認しなかったのは、現実を認めたくなかったから。
「花澄の、1周忌」
真白……。
通常、花が添えられた場所で、亡くなったと考える。
流魂で、不幸な事故が起こる?
……まさか。
「誰かに殺された」
流魂に来てからの情報が、収束してしまった。
拳を握り締めた。
「どうしてそう思うの?」
楓さんから情報をどうやって引き出そうか。
考えてないわけじゃなかった。
でも、この人が正直に話す姿を、どうしても想像できなかった。
だから今日は奥の手を使う事にした。
途轍もなく恥ずかしい行為だが、翔太を危険な目に逢わせないようにするのとどっちが良いか。
……かなり迷った。
あたしは10cm四方の箱を取り出し、楓さんに見えるように開いた。
「……なるほど。交換条件というわけね?」
そう。
これは楓さんしか応じない、ある意味で闇の取引。
楓さんはそれでも表情を変えなかった。
……どうして?
楓さんは、ファイルを取り出し、あたしに差し出した。
捲って唖然とし、顎が外れるかと思った。
な、な、何で楓さんも翔太の寝顔写真とか色々既に持ってるんですか貴女はあれですかストーカーですか何なんですか!
「いえ、由佳ちゃんもこれ位はしているかと思って対抗心を……」
燃やすないや燃やせば良いかそうじゃないでしょ犯罪ですよ貴女は翔太の女でもないのにあたしの許可無くってあたしも犯zそうじゃなくて!
楓さんは不適に笑った。
「取引、しない?」
……。
子供の頃の写真だけは渡しませんからね?
それ以外なら。
死因は絞殺との事だった。
明るい、ムードメーカーだった花澄。
殺された?
どうして!
土地の風景は変わっていなかったのに。
「どうして殺されたのかも、分からないんだ。翔太」
「探しましたよ。風林君?」
振り返った先に、中年の2人組みがいた。
……誰だ?
「お断りしますと言った筈です! 帰ってください!」
卓?
「君にとっても良い話だよ? 頼むからさ」
卓の表情を見て、2人組みとの関係がある程度だが分かった。
無言の卓に肩をすくめ、2人組みは笑いながら歩いて行く姿を、全員が睨んでいた。
嫌な予感がした。
健司さんが経営している旅館に格安で毎年泊めさせて貰っていたのは、いつまでも甘えたくなかったから。
その代わり、あたしか翔太が売店を手伝う事で、少しでも恩返しが出来ればと思っていた。
いや、恩返しをするのに不良客を蹴り飛ばしはしないけど、健司さんからは遠慮無くやって良いと言われているから迷う。
その一線は超えないように気をつけてはいる。
真白ちゃんを始め、何故か美人が多いから危害が及べばそこだけはあたしが行くけど。
由佳ちゃんも私と同じく変態だった。
まあ、好きな男の子の写真は何枚持っていても嬉しい。
それだけの量とは思わなかったから、ちょっと欲しいでもないけれど。
「何がおかしいんですか」
おかしいに決まっていたが、今は置いておく。
取引。
別に由佳ちゃんの理由に答えたくない訳ではないけれど、目的を教えるのであれば、協力関係は結んでおきたかった。
「……教えるから協力しろ。って事ですか?」
端的に言えばそう。
その為に、翔太君は必要不可欠と私は考えるから。
「話を詳しく聞かせて下さい。協力するかどうかは」
その後?
であれば私が何かをしようとしている。
そして、貴女のいない所で私が翔太君を誘う。
貴女は仕方なくついていき、そして貴女の私に対する疑念が膨らんで行く。
今まで通りの関係を続けるだけ。
「どんな手段を使っても翔太を行かせないと言っても?」
それは貴女には不可能。
想いを寄せてしまっている時点で、私も貴女も。
心をどうにかする事は出来ないから。
私は納得して貰うように誘うから。
「……」
どうする?
由佳ちゃん?
おじさんが宴会場を貸しきりにしてくれた。
姉ちゃんに花澄の事を話した。
強引な姉ちゃんと元気な花澄は、声と物理的に喧しかった。
皆笑い、惹かれて行った結果、輪が出来た。
姉ちゃんは只管ビールを飲んでいた。
「皆まだまだあるからな!」
かく言う俺も、サラダを只管貪っていたのだが。
「翔太君食べ方汚いよー」
一体誰が。
何の目的で?
料理うめー。
「今日は優子さんが作ってくれた」
ごちそうさ痛い痛い痛い死ぬ死ぬ首絞めやめパンダらめええええええええええええええええ!
「こいつめー!」
空元気だった。
お互いに。
暗い表情の皆を、もてなしてくれたせめてもの。
落ち着いた所で聞いた。
やって来た2人組は誰なのか。
お互いを見合い、皆が口を噤んだ。
「松井龍斗に城川春樹。去年、翔太と優子ちゃんが帰るちょっと前にな。美術館が出来たんだ」
追加料理を持って来たおじさんが、どっこらせっと腰を下ろした。
「飾ってある絵は、有名な絵じゃなく、将来有望な若者の、だがな」
だから卓を誘っているって訳か……。
それにここに来た時期。
いや、何かあれば弦さんが黙っていないだろう。
吉野会は、会と言っておきながら、外部からの犯罪を防ぎ、村の治安を守る役割を担っている。
村の管理役を担っている。
会なんて呼び方をしているのは、単にカッコいいからと言うのは弦さんが両親から聞いた言葉。
アホだ。
しかし、それが外部からの犯罪抑止に結果的に繋がっているのだからそうも言い切れない。
が、気になるのは事実。
後で弦さんに聞いてみよう。
そろそろ酔い潰れるだろう姉ちゃんを運ぼうと見ると、窓から風船を飛ばしていた。
おい姉ちゃん何やってんだよと言った。
「良いじゃないのよーここから飛ばした風船、全部あそこに行くんだから!」
すっかり暗くなった空には月が雲に隠れていた。
「花澄ちゃんへの、せめてものお祈り」
……全く。
悲しい時位、素直に泣けば良いのに。
可愛げの無い姉だった。




