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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪4 夢幻城の泡沫
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彼女達の秘事

 さあ翔太君。

どこから調べるのかしら?

手伝いをすると言ったからには、最大限のお手伝いをさせて頂くつもりだった。

けれど、プールの水が一瞬にして無くなったのと同時に離れた場所で起こった2つの不可能犯罪。

どのように解決してくれるのかは私には分からなかった。

今分かっている事と言えば、4人目の犠牲者、田島さんの死体落下がゲームセンター関係者でなければ出来ないと言う事だけ。

その翔太君について行き、今はゲームセンターにいた。

機械が止まっている空間は、とても静かだった。

ここが、3万人の集客数を誇る世界最大のゲームセンター。

全く違う世界に来たように錯覚させられた。

そんな場所を、掃除している人は村田さん……だったかしら?

汗を拭いながら振り向いた村田さんはこちらに気付き、走って来た。

……今は警察の監視体制にある筈だけれど、ちゃんと倉田さんに許可を貰ったらしい。

「放置すると直ぐに汚くなっちゃうから」

「聞きたい事があります」

 首を傾げながらも、座って話しましょうと村田さんは促した。



 警察の目の前で、4人もの人間が殺害された。

自分達の組織としての機動力に、悔しさしか感じられなかった。

ゲーセンには最低限の人間を配備し、客には待機をお願いしたが、騒ぎ始めている客も出始めていると、先程から何度も報告を受けていた。

殺人が起こった場所に2日間。

いつまで持つか分からなかった。

そんな中、ただ1人の高校生に事件解決を任せるだけの今の立場のままではいけなかった。

警備体制の今後を考えながら、調べた結果を纏めていた。

自分自身の頭で理論を組み立てる助けに。

そして、奥川殺害現場の詳細を記し、吉野君に見せるため。

容疑者は4人。

代表取締役である琴塚正弘。

普段はホテルから出る事は殆ど無いそうだが、世良愛莉の転落があった際には、観客席に視察に来ていた。

たまに視察には来ているそうだが、事件当日にいたと言うのが気になる点ではあった。

桜庭君を通して吉野君に事件解決の依頼をしていたからかもしれないが、容疑者である事に変わり無い。

 ゲーセンのフロアリーダーをしている美園渉。

彼の働き振りを鮎川君から聞いていたが、相当なもの。

奥川大樹が殺害された時に、ホテルにいた。

警察を嘲笑うかのような犯行。

美園渉自身がホテルに移動する事を予測する事は可能なのかもしれない。

 フロアスタッフの村田麻紀奈。

彼女も同様だったが、転落があった時にはフードコートで作業していると言う完璧なアリバイがある。

だが、屋上にいなかったとすれば、何らかの策を講じる事は出来るかもしれない。

 そして最後にお客の細貝重蔵。

容疑者の中で唯一全ての事件でのアリバイが無かった。

店を知り尽くしているお客だからこそ、田島の転落を可能にする何らかの方法を考えられるのかもしれない。

今の状況では誰もが怪しい。

誰もが怪しくない。

……頼むぞ吉野君。

ベランダに出て、直ぐ近くに見えるゲーセンを見た。



 村田さんは、奢りだと言ってあたし達に飲み物と食事を出してくれた。

そう言えば事件が起こってからろくに食べていなかった事を思い出す。

……ってこら翔太!

ピザのサラミをあたしの上に乗せんな!

腹パンをかまし、盛大に溜息をつくと、村田さんは笑った。

「仲、良いのね」

「勿論ですわ」

 こら楓さん!

翔太に抱きつくんじゃないの!

ぎゃあぎゃあ言い合っているのを、村田さんが手を叩いて止めた。

……すみません。

引き止めたのはこっちなのに。

「何か用?」

 翔太は飲み物を飲み、村田さんに向き直った。

「美園さんが言ってたんですけど。朝霧さん、こう言うのが無くなればなぁって。どう言う事か知ってますか?」

 村田さんはああーと言い、苦笑いをしていた。

「愛莉の我侭に嫌気が差すのは分かるから、あんまり注意も出来なかったのよね」

 そうだったんだ……。

楓さんが言ってた失礼な言葉を思い出した。

「どこにいたかとか、何をしてたとか、分かりますか?」

「公園かカフェにいたわね。決まってボーっとしてて、あたしが行って慰めて、渋々戻るって感じだったわね」

 翔太は両小指を絡め、口元に手を当てた。

「村田さん以外の人が探した事もあった……。 村田さんがいつも動ける状態にいる訳ではない……。 そして事件当日は田島さんと倉田さんが捜索に当たっていた……」

 翔太は何かぶつぶつと言い始めた。

不可能を、可能に組み上げる。

……普段からそうなら良いんだけどと言っても、翔太は聞かないだろう。

「美園さんはいらしてないのですね」

「え!? うん。 ……俺も行くって言ってくれたんだけど、あたしがやりますって断っちゃった」

 この広い空間を一人で?

……美園さんの凄さは十分過ぎる程に理解したけど、やっぱり凄い人を見て来た人は凄くなるんだと実感した。

「美來さんは一人でやってたから」

 村田さんの言葉には、確たる心が込められていた気がした。

「あたしはまだまだだけど、いつか美來さんみたいに、優しくて、かっこ良くて、美人な人になりたいなーって。 ……って、まだまだかっこ悪いけど!」

 細貝さんも言ってたっけ。

昔は渡瀬さんと美園さん。

リーダーが2人いたって。

2年経っても尚、村田さんの中には渡瀬さんが生きていた。

……それだけでも渡瀬さんと言う人物が見えてくる気がした。

「……なれますわ。絶対」

「俺もそう思います」

 頑張っている人にはそうなって貰いたいと言う願いで終わるかもしれない。

だけど、それでも応援させて貰いたいと心から思った。

照れながらありがとうと言う村田さんは、美人と言うよりも可愛いと思った。



 村田さんが徐に飲み物を飲む様子を見た。

ストローで飲むのがどうして流行り、日常に浸透したのかは分からないが……。

ハッとした。

前に、テレビで見た事があった。

そうだ。

あの時に考えた。

どうしてプールの。

風呂場の水が抜けるのか。

それをきっかけに考えたのを思い出した。

……断崖絶壁の孤島。

子供向け遊具があると言う公園。

ゲーセン、いや、夢幻城だからこそ思い浮かぶ方法なのかもしれない。

ストローをきっかけに。

俺自身の記憶を元に仮説が組み上がって行く。

そうだ。

だとしたら、世良さんが事故死したと言う状況だけだと殺人が行えない。

……予告状の通り、これはあくまで犯人にとってはショーだった。

そのショーを、最後まで実行するのは、犯人にとっては必要条件。

拳を強く握った。

だからこそ2つで1つの不可能犯罪を、どうしても実行する必要があったと言う可能性が高い。

ならば、表舞台ではなく、舞台裏。

そして最も重要な部分を担う所になら、証拠はあるかもしれない。

……倉田さんにも確認する必要があった。


 村田さん!

この島って、地下水路ありますよね?


「え? 分かんないけど……社長に聞けば分かるんじゃない?」

 飲み物を飲み干し、奢ってくれた村田さんにお礼を言って俺は走った。

2つの不可能犯罪を繋ぐ場所。

容疑者が証拠隠滅を出来なかったであろう場所に急ぐ。

……どうして気付けなかったのかを考えるのは、全てが終わった後で良いと思った。

去り際に心配そうに俺を見る由佳と何故か高揚した表情の楓が見えた。



 翔太君が何かに気付いて走って行った。

それは事件が収束に向かう合図。

興奮が抑えられなくなりそうだった。

追いかけようとしたけれど、村田さんに止められてしまった。

……あくまで私達は翔太君のサポート。

翔太君が警察の手伝いをしている間、私達が盾になって行動を妨げないようにするしかなかった。

「悪いわね。2人とも」

 不満を口に出来なかったが、村田さん1人でこのゲームセンターを掃除させるのも忍びなかった。

それに、今までの仕草。

そして先程の反応から、確認したい事があったと言うのもあった。


 村田さん、美園さんの事が好きなのですか?


 とぼける様に村田さんは聞き返したが、由佳ちゃんも分かっているようだった。

「今の麻紀奈さんを麻紀奈さん自身がかっこ悪いと思ってるから、美園さんに見られたくなかったんですよね?」

「そう言う貴女達だってどう思ってるの? 吉野君の事」

 質問を質問で返したと言う事は、図星だと言う事。

私はそれを利用したいと思っていた。

「別にあたしは」

まだそう言うのね。

だからこそ、この機会を利用したかったから。


 好きですわ。


 由佳ちゃんは私を見た。

貴女が動かないのなら、私は遠慮無く動いて行くだけ。

「1つの事に直向きになる翔太君。躓いても立ち上がる、かっこ悪い、それでカッコ良い翔太君が好きです」



 持っていたモップに、無意識の内に力を込めていた事に気付き、掃除に集中するように自分に言い聞かせるが、揺れ動く心を止める事は出来なかった。

「……言えたら良かったんだけど。あたしも」

 村田さんにも何かあったのだろうか。

村田さんの物憂げな横顔に、続きの言葉を躊躇った。

「よし。さくさく終わらせましょ」

 黙々と掃除をする村田さんをジッと見た。



 琴塚さんに協力をお願いし、ホテル前にやって来た。

地下水路を見たいと言うと、琴塚さんは首を傾げたが、事件の為だと言うと表情を変え、案内してくれた。

それは、予想した通りの所にあった。

朝霧さんの首に巻かれていたロープが、何故か地上の木に結び付けられていた、そのすぐ傍に。

人工芝を琴塚さんが捲ると、マンホールの蓋が姿を現す。

ホテルに視線を移した。

水道管がすぐ傍にある。

……見つからなかった理由も、これで条件が揃う筈。

蓋を開けると、淵には何かが擦れた跡を確認した。

良し。

後は中を確認すれば良い。



 流石夢幻城だと思った。

地下の水道施設はしっかりと作られており、真水に近い形にして海水へ戻す。

その出口からは、少しずつ(と言っても足が漬かる位の量はあるが)水が滝のように流れて行っていた。

「最後にここで滅菌。勿論届けを出して定期的な水質検査も受けているよ」

 絶対に何かある筈。

通路。

水路。

くまなく探す。

そして、出口の近くに擦れたような跡。

「おかしいな。最近来た時にはこんな傷は無かったはずだけど……」

 琴塚さんが最後に来たのが1週間前。

見つけた。

1つだけ確認をしたかった事を琴塚さんに言った。

「……そりゃあ、増えるよ。台風が直撃する事もあるから、そうなっても良いように作られている」

 だからプールの水を抜いた。

……これなら、あのプールで起きた不可能状況と、首吊り死体の同時殺人が可能になる。

両小指を絡め、手を口元に当てた。

残る問題は、奥川殺人と動機。



 掃除を終えた頃には、すっかり日が暮れていた。

ホテル前で会った翔太は臭かった。

下水にいたんだからしょうがないだろと言っていたけど、そんな所で何をしてたのか、皆目見当がつかなかった。

だけど翔太の表情を見れば、何かを掴んでいるように見えた。

「私が体、洗ってあげるわ」

 だから楓さん!

抱きつくのを止めなさい!

鼻の下を伸ばしている翔太にアイアンクローをかます。

どうしてちっとも懲りないのだろうか。

自分の体を気にしながら、琴塚さんも村田さんとホテルへ戻って行った。

「あーツーンと来る柔肌爽快感!」

 うるさい!



 奥川殺人の状況を詳しく聞かせて欲しいと吉野君から頼まれ、15階の吉野君の部屋にいた。

世良愛莉、朝霧湖乃華の殺害方法が分かったと聞いた時は、まさかこの短時間でと驚いた。

……一体彼の推理力はどこから来ているのか。

誰譲りなのか。

一般的な推理と言う考えからかけ離れた所から理論を組み上げる様子から、昔から探偵などが好きと言う訳では無いのだろうが……。

余計な考えを振り払い、吉野君に殺害状況を伝えなければ。

死因は絞殺。

死亡推定時刻は午前11時頃。

奥川大樹がゲーセンの事務所から逃げたその直後に殺されたと考えるのが妥当だろう。

部屋には鍵がかかっており、鍵は最後に内側から施錠された事がログによって確認された。

そしてそのカードキーは、部屋の入り口前に落ちていた。

……普通の鍵であれば、紐か何かを使って外側からでも鍵を掛ける事は可能かもしれないが、カードキー。

紐を使って鍵を掛ける事は不可能。

吉野君は両小指を絡め、手を口元に当てた。

また電話が掛かって来た。

……騒ぎ出したお客を止めるため、吉野君に半ば押し付けるような形で部屋を出る事に罪悪感を覚えた。

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