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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪4 夢幻城の泡沫
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死んだ社長の謎

 年間、どれ程の顧客が望めるのか、興味は尽きなかった。

倉田さんからの依頼を快諾した理由は2つあった。

1つは、翔太君がどのように事件を防いでいくのかを見てみたかったから。

もう1つは、このゲームセンターの実態を出来る限り知りたかったから。

ゲームセンターと言う狭義のアミューズメント業界は、年々減少傾向にあるとされている。

にも拘らず、何故このような孤島に、大規模なゲームセンターを建てようとしたのか。

その意図を、本人の口から聞きたかった。

上空からだったから良く見えなかったが、かなりの数の顧客が確認できた。

しかも、多分見間違いではないだろう。

3世帯の家族連れがその数を圧倒していた。

通常であれば、恐らく顧客は10代から30代。

……その年齢幅を拡張……ああ。

なるほど。

要はゲームセンターと言うよりも、遊園地に近い考え方なのかもしれない。

こう言う場所で子供が駄々をこねれば、そのまま売り上げに繋がる。

そして島には有料の公園もあるらしい。

遊びに飽きた小さな子供も遊べるように。

島の中だから子供連れなのは、事前に分かっている事だから。

はしゃいでいる子供をゲーセンに置いて、ここで休む大人も多いらしい。

これだけだと有料に首を傾げるが、砂場、地面の砂が特殊なのが興味をそそられた。

キネティック・サンドと呼ばれる砂を用いる。

そして空気で膨らませた遊具。

島の領地を無駄なく収益に変えているって所かしら。

中々非情な事を考えるものね。

そして屋上にはプール。

何をするかは確認していなかったけれど、そんな事をよく実行までこぎつけられたと舌を巻く。

……後は実際に目と耳と足で確認する事にしましょう。

ヘリポートから降り、待機していたワゴンに乗り込んだ。



 楓さんは終始ご機嫌なようだった。

翔太が理由を聞くと、この施設自体に興味があるからと言っていた。

確かに、孤島にゲーセンを建てるなんて、普通はどうかしている。

だからここまで発展した理由を知りたいのだと。

確かに、車から見える至る所に人。

まるで町でやっている大規模なお祭りのよう。

こんな大勢の前で、本当に殺人事件なんて起こるのだろうか。

「ありがとうございます。琴塚さん」

 運転しているから、琴塚さんと呼ばれた人は振り向かなかったが、さっき見た印象はかなり若かった。

でも、琴塚って……もしかして息子さんなのかな?

「いえいえ。わざわざ桜庭さんの紹介で来て頂いた方ですから」

 本当にごめんなさい。

遊びに来たわけじゃないですけど、待遇がおかしいですよね(お客さんはまず豪華客船での船旅を楽しむらしいから、待遇は逆に悪い?)。

そんなあたしを琴塚さんは取り繕ってくれた。

「2人に簡単な説明はしていますわ」

 空気が変わった気がした。

どんな風にかは上手く言えないけど、多分、痛い?

「……親父は恐らく殺された」

 分かった気がした。

よくよく考えれば、警察に任せれば良いものを、どうして楓さんが翔太を誘ったのか。

いても立ってもいられなかったんだ。

父親を殺した人物を見つけるために。

何となく、翔太に似てる気がした。

普段は取り繕う所とか。

「犯人を突き止めて欲しいんだ」

 車のスピードが上がった気がした。



 自分の大切な人が殺された。

いても立ってもいられなくなる気持ち。

何としても協力したいと思うには、俺にとっては十分だった。

しかし正弘さんの父親の死。

それはこの連続殺人事件のプロローグですらなかった事を、この時に気付ける筈はなかった。



 ……ゲーセンってこんなに人が集まるんだな。

それでいて子供が異常に多くないかと思った。

ゲーセンって言う常識はどこにあるのか分からないが、少なくとも、ここにおいては考えない方が賢明だった。

正面入り口を入って行くと、UFOキャッチャーが何台あるのか分からない程には人がいた。

凄いな。

1プレイ100円だとして、大体30秒でプレイが終わると仮定しても、左右両方、目に見えるブースは全て埋まっている。

となれば、一体分単位でいくらの収益になるのだろうと、そんな場違いな事を思った。

琴塚さんは意に介した様子も無く、入り口正面のエスカレーターへと進んでいった。

宝石キャッチャーなんてのもあるんだな。

あ。

良く見ると店員がお客さんに話しかけてる。

……俺に出来るのかなぁと、目に入った光景に不安だけが募った。



 現場にいた刑事に聞き込みを任せたのは、1人で考えたかったから。

琴塚次狼の現場を見回した。

注目しなければならなかったのは扉の鍵。

カードキーを用いた、ホテルにはオーソドックスなもの。

お客の安全のためではあるが、それ以上に社内秘を徹底した防犯対策だと聞いた。

内外の開施錠をPCでログに保管している。

ログ参照の結果は、外側からの施錠。

自殺では無い?

だが、鍵以外に自殺を否定する根拠は無かった。

だとしたら、何故鍵をわざわざ掛ける必要があったのか。

2つの事実が互いに相反している。



 営業型アミューズメントパークと宣伝されていた。

営業とは何か。

自分から売り込みに行く事。

お客に呼ばれて行くのは対応なのだ。

だから営業型と謳っているのだと。

確かに何度かゲームセンターに足を運んだ事はあったけれど、動きが後手だった印象はあった。

その後手に、時間的苛立ちを感じたのは確かだった。

そこに目をつけて、スタッフから行く本来の『営業』を行う。

更には子供から老人まで幅広い。

多分だけれど、顧客を『個人』と見てはいないのかもしれない。

子供があれをやりたいと言えば、孤島ではある程度許されもするだろう。

そして子供が遊んでいる間、大人は別のゲームをして時間を潰す。

或いは、時間潰しの間に大人がゲームに嵌る事だってあるだろう。

良く出来ている売り上げシステムだった。

翔太君と由佳ちゃんも、ゲームセンター自体は来た事があるだろう。

ここはもはや、ゲームセンターとして考えない方が良いとさえ思った。

「すっげえ人だよな……」

「ゲーセンってこんなに混んでたっけ」

 琴塚さんは、待ってましたと言わんばかりに笑った。

「それはそうですよ。普通のゲームセンターではありませんからね。 ……言い方はあれですが、泊り込みでお金を使いまくって頂くんです」

 2人とも、あまり分かっていないようだったけれど、それで良いわ。

あなた達は事件を防ぎに来たのだから。

私はそうね……資産家令嬢としての義務を果たしているだけって言えば聞こえは良いのかしら?



 2階にはアーケードゲームとフードコート。

アーケードは照明が暗く、一見ミスマッチなようだったが、アーケードゲームは音ゲー何かもあり、立ちっぱなしの状態でプレイする状況が多いからと言うなるほど納得な理由だった。

しかしここにも多くのお客。

そしてフードコートの品揃えも、軽食からファーストフード、ヘルシーコーナーと、首を傾げるようなものまで。

異常と言える程に豊富だった。

正直働くのは不安で仕方なかった(働くのが目的じゃないし)が、琴塚さんは何でも無いように笑顔。

「おはようございます正さん!」

 良く通る声でやって来たのは、琴塚さんと同い年位だろうか。

……ゲーセンの店員が年老いた爺婆は嫌だろうしな(一瞬親を爺婆と呼んでいる姉ちゃんを思い出した)。

「お疲れ! 連れて来た」

「宜しくお願いします! 美園です!」

 元気に挨拶してきた美園さんに丁寧に挨拶する楓に釣られ、慌てて挨拶をしたが、俺達は何をさせられるんだろうか。

「じゃあ、行こうか!」

 はは……。



 3階にはメダルゲームがずらりと並んでいた。

どうして2階にメダルゲームが無いのか聞いたら、メダルを持ち出されないようにするためなようだ。

メダルゲームは優子さんと一緒にやった事はあるけど、手が汚れるのが唯一の難点だと思う。

……あ。

そうか。

衛生的にも良くないんだ。

汚れた手をちゃんと洗ってって事か。

こうして考えるだけで、各階のレイアウトまで理由があるんだなーと納得する(他のゲーセンも、入り口に近い所にUFOキャッチャー、奥にメダルゲームがある所がほとんどだと思う)。

「このラインナップ、苦労なされたのではないですか?」

 フォーチュントリニティ?

だって2台も置いてある所なんて見た事無いし、昔懐かしいゲームらしいものまで置いてある。

楓さんの詳しさに驚いた様子の美園さん。

詳しい事はあたしには分からないけど、力の入れ具合は伝わった。

「だから、俺達が頑張る。それだけ」

 簡単な事のように言うが、翔太は引きつっていた。

「接客の基本は、お客様に些細な事も説明してあげる事。そしてここは、営業型アミューズメントパーク。対応型では1月持たない」

 どう言う事か全く分からなかった。

もしかして、美園さんはあたし達が何の目的で来てるのかを知らない?

「お客様が呼ぶ前に自ら行く」

「おー。分かってるじゃん。なら、どんどん行くから今日中に覚えてね!」

 はは……。



 改めて1階からの業務説明をしてくれる美園さん。

売り上げの基本は、プライズコーナー(UFOキャッチャーではなく、業界用語でそう言うらしい)が大半を占めるとの事だが、なるほど納得できる。

見渡す限り、開いている台が全く無い。

メダルはここだと1000円で300枚。

300枚で例えばメダルゲームを遊んだとして、大体1時間。

つまり1時間で1000円。

しかしプライズコーナーでは、ものの30秒で100円。

それが左右にあるから1分で400円。

収益に差が出るのは当然だった。

美園さんについて行く中で、女の店員とお客が話している様子が見えた。

「あのお客さんは、とっつき難いけど毎年のように来てくれてる。村田がお気に入りなんだ」

 女の店員、村田さんを通り過ぎ、尚も接客の基本を俺達に叩き込んでいく姿は説得力があったが、俺、どうすれば良いんだ?

「なあ良いじゃん貸してよ」

「こ、困ります……」

 何か小声で話してる人もいた。

そう思った時に、既に美園さんはお客の背後に立っていた。

「どうかされました?」

 ビクッとして振り向くお客に、安堵してそそくさと立ち去る従業員。

……早いな。

何でも無いと嫌そうに言いながら、100円硬貨を投入口に入れた。

……プロってすげえ。

「あの人は奥川って言うんだ。注意しといてね」



 翔太君と由佳ちゃんは疲れ切っているようだった。

だけどまだここのゲームセンターには屋上がある。

詳細を調べなくて良かった。

今からわくわくが止まらないから。

階段を上った先に見えた光景は、スタジアムだった。

一体何人を収容しようというのか。

万はあろうかという観客席から、中央にある10m四方の黒いスペースを見下ろす。

あれは、プールなのだろうか。

確かプールがあるとは聞いていたけれど、それらしきものは無い。

美園さんは、笑顔で手を上げる。

何と、黒いスペースが横に開いていった。

……大した装置。

それに、蓋付きのプールなんて他にどこにあるのだろう。

観客席下のテントから、2人の女性が出てきた。



 2人の女の人は、何か言い合っているようだった。

片方は不機嫌。

それをもう片方が宥めているように見えた。

「もう本番で成功するから良いじゃん」

「ショーがメインなんだから……」

 美園さんが2人に駆け寄った。

「渉。お疲れ」

 名札には『世良愛莉』と書かれていた。

世良さんは、躊躇無く美園さんに抱きついた。

何か、楓みたいだと、何となく思った。

「御園さん……」

 もう一人(名札に朝霧湖乃華)が、美園さんに何か言いたげな視線を送っていた。

「世良さん。練習続けて」

 美園さんはそう言っただけだった。

嫌々ながらも同意し、美園さんから離れた世良さんは、10mはあろうかという飛び込み台の方へ向かった。

飛び込みプールなのか。

プールを見下ろすと、流石に深い。

っと危ない。

蓋が閉まっていく。

開閉式のプールも驚きだが、しかしそれ以上に美園さんのここでの立場に気付かない筈は無かった。

凄い。

その一言だった。

「何か凄く出来る人って感じです」

 何だよ俺だってやる時はやるんだぞ。

ちょっとちくしょーだ。

「良く言われる。 ……最後にここが、夢幻城の目玉。飛び込みショーが4時から開催される」


 ……それにしてもここ、ゲーセンだよな?

そこにプールって……普通は無い……よな。

「楽しませる意味では一緒でしょ?」

 そうかもしれないが、もう止めた。

ここは普通のゲーセンじゃないからお客が多い。

それだけだ。

「あら。さっきの方」

 楓が指差した飛び込み台を見ると、人が立っていた。

世良さん……だっただろうか。

閉まったプールの蓋が開き、人一人位のスペースが開いたのと同時に、世良さんは飛び込んだ。

ちょっと!



 そんな狭い場所に、10m先から飛び込めるのかと、目を見開くだけだった。

何でも無い事のように大きな水飛沫と、浮かび上がってくる世良さん。

そしてそのタイミングでようやく蓋が全開になった。

……実際のショーでこの飛込みを目の当たりにしたら、興奮するのは間違い無いと思う。

翔太も拍手していた。

「何だその飛び込みは!」

 美園さんの怒鳴り声にビクッとした。

流石に迫力が違った。

「集中しろ怪我するぞ!」

 怪我だけでは済まないから、これだけ強く言っているのだと思った。

必要な怒りは、効果的に防衛本能に訴えかけると何かで読んだ気がする。

「ごめんよ。ここの演技は一番の収入源だから。妥協はダメなんだ」

「いえ。当然の事ですわ」

 分かってくれて嬉しいと、美園さんは笑った。

「さ、これで説明は終わり。今日はゆっくり休んで。従業員用の部屋はホテルの15階から上だから」

 時刻は7時を回っていた。

明日の仕事と、事件、様々な不安が過ぎった。



 美園さんに車で送ってもらい、入ったホテルにも人。

ホテルで過ごすのも良さそうだった。

遊技場にカフェ。

案内板を見ると上の階にはプールやレストランまであるらしい。

そしてここに来るまでの移動は豪華客船。

……一体いくらかかるのか、とても想像できなかった。

その人ごみの中に、見知った人を見つけた。

倉田さんは待っていたかのように俺に合図を送り、歩いて行った。

そうだ。

目的は殺人を防ぐ事。

まずは色々と調べる、考えるべき事があった。

俺は荷物を由佳に託し、倉田さんの後を追いかけた。


 ホテルの鍵は、内側と外側両方から掛けられる。

そして開施錠の履歴まで残される。

そんな事まで分かるのかと思ったが、従業員の部屋もある。

防犯対策を徹底させるためだそうだ。

最後に使われたのが外側からの施錠。

誰が使ったのかは分からず、フロントに預けられていた。

倉田さんから案内された部屋を見る。

ドーナツ型の円卓机。

中央に死体があったのだろう。

テープが引かれていた。

紐まで犯行当時のままにされていたが、痕跡らしきものは無し。

傍目に見たら自殺だろう……。

しかし、フロントに預けられていたカードキー。

スペアは無いと言われた。

それもそうだろう。

ここまで防犯対策を徹底しておいて、カードキーにスペアがあった何て事は無いだろう。

……他殺の可能性が高い。

一般的に判断すればそうだろう。

だが、気になるのは予告状。

琴塚さんを殺害した犯人が予告状を送ったとしたら、2ヶ月経ってから送ったのは何故だろうか。

……自殺にせよ他殺にせよ、矛盾が生じる。

今は結論を出すのは早計だと判断し、倉田さんに自殺の可能性を聞く。

「実際の運営は息子の正弘がやっていた。会社で居場所は無かったかもしれない……」

 動機がある可能性はある……か。

よし。

後は、どうやって殺人を行おうとしているのか。

検討しよう。



 気まずい空気が伝わって来た。

さっきから由佳ちゃんは目線をこっちに合わせようとしなかった。

私から相席を申し出た。

こんな状況じゃなかったら、この2人で食事をする事など一生無いだろうから。

それはそれで、珍しい体験だと思えたから。

だけれど、相手はそうは思っていなかったみたいだから、挑発をしてみようと思った。

まさか2人で食事する事になるなんて。

「楓さんから誘ったんでしょ!?」

 でも、断る事だって出来た筈。

だから、お互いに話したい事があるという事。

クスッと笑うと由佳ちゃんはつまらなそうな表情を浮かべた。

高級レストランに、女二人で何を好き好んで食事をしているのかはさておき、彼女の表情の変化は、この場に似つかわしくなく面白かった。

「悪かったですね! 翔太じゃなくて!」

 翔太君の、どこが好き?

私は変化球が嫌いだから、率直に言った。

だけれど、率直に言う相手は選ぶ。

目の前の相手は、言うべき相手。

言う事を私が許す相手。

「別に何とも思ってません」

 なら、私が何をしても構わないかしら?

本当の気持ちがこんな所で聞けるとは思わない。

だけれど、本心を確かめる事は出来るから。

「止めた方が良いですよあんなものぐさ。ゲームして寝てるだけのアホですから」

 私はそう言った彼を殆ど見かけない。

例え私の知らない所で翔太君が別の顔を見せていても(犯罪をするような人では無いし)、私の目の前で起こっている事を信じるだけ。

人に表と裏があるなんて、誰もが知っている時代でしょう?

「……そうして下さい」

 ぶっきらぼうに言い、それで会話は終わった。

奇妙な食事が、私は嫌いじゃない。



 屋上のプールには、ナイター設備が完備されていた。

練習は営業終了後にしか出来ないからだ。

しかし、流石に本番さながらにやると、死亡事故につながる恐れが高いため、蓋は開けっ放しで行われている。

その代わりに、屋上から見えるように、プールの底に円形にテープが貼られる。

世良愛莉は、飛び込み台に立っていた。

何千回もここから飛んだ所から、プールを見下ろすのは気持ちが良いと思っていた。

そしてプールサイドには、美園渉と朝霧湖乃華がいた。

まるで2人を配下にしたような気分にさせられると、馬鹿みたいな事を考えた。

深呼吸し、一気に飛び込んだ。

貼られたテープの円の中にすっぽり納まる。

目を瞑ったって出来た芸当だったが、美園や正弘はそれを許さなかった事が少し嬉しかった。

渾身の気持ちを込めた飛び込みは、美園を拍手させた。

ただ一言、オッケーと。

夕方はそう、気分ではなかった。

それでも事故を起こさない事を目的としていると、美園の怒りから感じた。

それを払拭できた事が嬉しかった。

プールサイドに上がり、真っ先に抱きついた。

それが明日の活力になるから。

しかし美園は愛莉をゆっくりと剥がし、そっけなく上がって良い事を告げ、その場を後にしてしまった。



 15階の自室に戻り、ベッドに横になってひたすら考えた。

どのようにして殺人を行うのか。

思えば、殺人が起こる前から殺人がどのように行われるかを考えるのは初めてだった。

しかし、予告状が来てから動いているのは、後手に回っていると言う意味では前回と何も変わっていなかった。

何かきっかけが無いと動けない事に苛立ったが、ならば殺人を防ぐとはどう言う事なのか。

考えた事など無かった。

この世に生存している人の内、何人が明確な殺意を実行に移そうとしているのだろうか。

その感情をまずは突き止めなければ、殺人を防ぐなんて出来ないのだから。

……脱線しているなと溜息をつき、目の前の事に集中する。

どんな方法で殺人を行うのか、考えないといけない。

立ち上がり、無駄に広い室内を右往左往するが、結論は出なかった。


 ぐぎゅるるる~。


 ……派手に鳴った。

飯を食っていなかったんだそう言えば。

そしてタイミングが良いチャイムに、首を傾げた。

11時にもなって、一体誰だろうか。



 朝霧湖乃華は苛立っていた。

ここに来てからいつだって愛莉に振り回されて来たから。

彼女の晩酌に付き合わされ、気がつけば11時を回っていた。

勝手に寝てしまった愛莉に心底苛立ちを覚え、誰も聞きやしない独り言をつぶやいた。

「愛莉の奴、何よあの我侭!」

 湖乃華の怒りと誰かの忍び足のせいで、湖乃華は後ろからゆっくりと歩いて来る人影に気付いていなかった。

「振り回されるこっちの身にもなって欲しいわ! あの時だって……」

 尚も出て来る愚痴は、その何者かによって遮られた。

湖乃華は激しく抵抗したが、意味を成さなかった。

更に両手で湖乃華の口を抑えていた布を抑え、湖乃華は抵抗しなくなった。


 楽しいショーのはじまりだと。

人影は誰かに向かって告げたのかもしれなかった。

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