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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪3 自動人形の願い
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消えた凶器

「何!? 目撃者がいないだと? そんな筈は無い探すんだ!」

「はい……はい……。 そうですか。毒の入った何かは見つかりませんでしたか。また何か分かったら連絡下さい」

 朝の7時半。

慌しく連絡を取り合っている部下達の中、いつもの席。

おしるこの缶を片手に資料を目に通し、考えた。

蓮見紫音38歳。

料理研究家。

死因は薬物によるショック死。

しかし、何とも奇妙な事に、目撃者の情報等が一切無かった。

今、職場や彼女が通っていた料理教室の人間を調べている最中だった。

嫁さん欲しい……。

おっと何でもない。

 スマホの着信音に、もしもしと話すと、驚きの事実が分かった。



 ダメだ分からん。

ただの間抜けって事にしとこう。

その内警察が捕まえてくれるだろう。

それにしても、悪かったな昨日は。

隣を歩く由佳に告げると、何か表情が気持ち悪……いや嬉しそうだったからクマを閉まってスマホから!

「優子さんちっとも変わってなかった」

 そりゃあ、あの姉は何があったって変わらない。

武道が得意と思いきや怖いのは全部苦手。

早く誰か貰ってやれよ……、

「吉野君、ちょっと良いか?」

 脇に止まった車から倉田さんが声をかけて来た。

あ。

もう犯人捕まったのか。

流石早いな警察は。

「昨夜、一人の女性が亡くなった」

 目を見開いた。

……事故なら、わざわざ誰かに言う必要は無い。

殺人事件。

両小指を絡め、手を口元に当てた。

身近な所でまで、殺人事件が起こるなんて思っていなかった。

「……密室殺人、そして容疑者7人全員にアリバイがある……」

 俺には関係無いと、秀介がいたら思っていたかもしれない。

身の回りの人間と楽しければ、それだけで良かったから。

でも、もう秀介はいない。

この世のどこにも。

「花園塔の事件を解決した腕を見込んで、悪いが協力してくれないか?」

 ナニカを守りたい思いだけは、秀介によって残された。

でも、それがナニカを。

明確に見つけられていなかった。

だから、それを求めて人は動くのかもしれないと、漠然と思った。


 由佳。

先生には休むって言っといてくれ。


 俺は車に乗り込んだ。

「気をつけなさいよ」

 由佳の声が小さく聞こえたような気がした。



 眠そうにしていたり、朝からトランプやってたり、別の人のノートを必死になって写したり。

いつもの教室の光景だった。

事情を話すと先生は『はぁ!? あいつが?』と心の叫びを聞かされ、警察の頼み事なら仕方ないと、我に返って告げられた。

翔太の推理力が、少しずつ多くの人に知られていっている。

授業のロジック問題さえ、一瞬で解いてしまうような頭脳が開花し、そして一人、また一人と目撃していく事だろう。

 でも、芯は変わるなよ。

絶対。

あんたはただの高校生なのだから。

変わったら、元に戻してやるから。



 極めて普通の1戸建てだったが、玄関にはテープが張られ、他の家との違いは一目で分かった。

先程聞かされた状況から、どうして警察は自殺と断定しなかったのか。

証拠を見せてくれると倉田さんに言われ、『蓮見』と書かれた家に足を踏み入れた。

 リビングを見て回る。

几帳面な性格なのか、中は隅々まで掃除が行き届いていた。

「郵便受けにこんなものが入っていた」

 人形?

……精巧に作られているのが分かる。

今にも動き出しそうな。

そんな気がした。

「御丁寧に『自動人形の願い』と書かれた手紙が箱に入っていた」


 なるほど。

自殺する人間がそんなものを用意する必要が無い。

……殺人事件と断定せざると得ないと言った方が良いのだろうか。

「被害者は蓮見紫音38歳。死因は薬物によるショック死」

 この麻婆豆腐に毒が入っていたのだろうか。

1人分の料理。

そして、容疑者全員にアリバイ。

死亡推定時刻は昨晩の20時から20時半。

何だろう。

被害者以外誰もここにいなかったような、そんな印象。

 しかし自動人形?

オートマタ? だったか。

良いイメージは無い。

気味が悪かった。


 蓮見さんの旦那さんは、執拗な取調べに参っている様子だった。

あの人が嘘をついている。

その可能性は十分にあるが、自分の妻を、あんな人形を残してまで殺すのだろうか。

本当に行われた痕跡を隠すためのものだとしても、余りにも手間がかかるのではないだろうか。

……最も気になるのは、食事が1人分しか出ていなかった事。

誰かが実際にいたのなら、食事は2人分以上出るはずなのだ。

「そうか……片付けたにしても、被害者の食器も片付けるだろうな」

 これらの事から考えられる事。

毒を料理に入れたのは、蓮見さん本人だった可能性が高いと言う事。

しかし、自殺するのに人形なんて用意しない。

毒と知らずに蓮見さんが毒を飲んだ。

「だとしたら、毒は何に入っていたか」

 毒物反応が出そうな所を全て調べる必要があるが、倉田さんは俯いた。

「……流しにあった調理器具、排水溝、それと、料理の中……だけだ」

 ……。

何に毒が入れられていたのかが分からない……と言う事か。

ファミレスの(流石に男2人で喫茶店に入りたくないと言う、倉田さんの希望)テーブル。

グラスの氷が揺れた。

証拠無き殺人。

手紙が入った人形。

巧妙さに、恨みの深さを見た。



 放課後のチャイムが鳴り、部活に行く人。

遊びに行こうと話している人。

どんどん教室内の人数が減って行く中、あたしは結局戻らなかった翔太を待っていた。

高校生を連れ出したのだ。

よほどの事件なんだろうって想像した。

だけれど、何故だろう。

家ではなく、ここに来るって思ったのは。

あたしの所に来ないのであれば、きっと楓s……腹立つから止めよう。

……安堵した。

両小指を絡め、手を口元に当てたまま、翔太が入って来た。

どうだったのかと聞いた。

「分からない事が多過ぎる」

 翔太は思いついたように私を見た。

ん? どしたの?

何を思ったのか、翔太はあたしの手を掴んだ。

へ? 何?

「お前に話せば考えがまとまりそうだ。 ……ちょっと付き合ってくれ」

 ちょっとちょっと顔がにやけるけど待って待って!

男子の歓声とかキャーキャー叫んでる女子もいるしあたしも叫びたいけどちょっと待って!

翔太は至って真顔だった。



 由佳以外の誰にも聞かせる訳には行かなかった。

由佳は嫌そうな声で俺の手を振り払ったが、顔が……殴られるから止めておこう。

「それでどうしたの?」

 そうだった。

俺は由佳に事件の内容を話した。



 容疑者を絞れたのは幸運だった。

蓮見紫音は、フリーの料理研究家だったから。

特定の人物との交流をする事は無かったのだ。

その中で唯一、特定の人物達と交流する機会があった。

週に1度の料理研究会。

様々な職の人物が集まり、特定の分野の料理を研究しているそうだ。

それでも、まだ調べていない事があるのは事実だった。

可能性の一つに過ぎないかもしれない。

しかし、料理に毒物が入っていたのと彼女が料理家である事の繋がりが、頭から離れなかった。

堀川篤美、平野湖夜美がいるのはここか……。

高級ホテルの総料理長と補佐。

2名の名前を再度確認し、こう言う所でまだいない嫁との食事を楽しみたいなと言う想いを振り払い、ホテルへと入って行った。



 そっか……。

「問題は何に毒が入っていたのか。そしてどうやってその容器を渡したか。 ……不可能を可能にする方法……あーくそ!」

 翔太。何かおかしい。

……何だろう。

今までに出会った事件を、翔太は、解決はして来た。

だけど、それはそうせざるを得なかったから。

……そっか。

最初から解決が目的になっているから、おかしいと思ったのか。

翔太のスマホが鳴る。

「倉田さん」

「今から容疑者全員に会いに行くか?」

 倉田さんは10分で着くらしい。

電話を切った翔太は忙しなかった。

だから、言える内に言える事を言っておく方が良いと思った。

あたしは走って行こうとする翔太の手を握った。

「由佳?」


 絶対に防ぎなさいよ!


翔太!



 2階建てビルの小さな料理研究会の看板を見上げた。

俺は由佳に虚を突かれた思いだった。

……確かに警察である倉田さんに頼まれて、こうやって動いているが、俺の目的は、ナニカを守る事だった。

危ない。

由佳に心でお礼を言い、両小指を絡ませ離し、倉田さんと小さなビルへ向かった。

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