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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪2 花園塔の劫火
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今だから出来る事

 黒田さんは、どれだけのものを背負っていたのだろう。

私は、何を背負っているのだろう。

翔太は有村君を背負って生きている。

なら、私は?

支えるだけではダメなのだろうか。

……自分がどれだけ恵まれていたかって痛感した。

「何だよ急に」

 黒田さんの話を聞いて、ただ聞いてるだけしか出来なかった自分が悔しかった。

あの状況で、あたしはいてもいなくても同じだった。

背負うものが無かったら、やっぱり人は強くなれないんだよね……。

せめて翔太みたいに、お姉さんと2人暮らしだったら、少しは分かるのかな?

「あの人を救えるのは月花さんだけだ」

 そうなのかな。

……分からない。

でも、このままじゃいけない気がしている。

「それに、昔から今までの歴史の中で、幸せに生きて欲しいって言う願いの結果が由佳だろ? お前の両親だって、不幸になるお前は見たくないだろ」

 ……。

「出来る事、見つけりゃ良いじゃん」

 それ、あたしが翔太に言った事じゃん。

そっか。

翔太は貰うばかりが嫌だから。

必死に1つずつ返そうとしている。

そしてあたしは返された。

……ああにやけが治まらないけど、とりあえずバカと言っておこう。

 嫌味の様な高そうなリムジンが、ガードレール越しに止まった。

出て来たのは変態だった。

「ありがとう。翔太君」

 この人。

何か有名な財閥のお嬢様らしい。

花園塔からの帰り道。

パトカーの中でしれっと言われた。

あたしからしてみれば、ただの変態お嬢様。

「……本当に令嬢だったとはな」

 止める暇も無く楓さんは翔太に抱きつく。

止めなさいってだからこの変態!

「これはお礼」

 あー!

何翔太のほっぺに何何してんの!

何でこんなに強く抱きついてるのよ!

「またお会いしましょう」

 またしてる!

さっさとリムジンに乗り込んでどこか行っちゃうし!

あんの女……。

 翔太のほっぺをハンカチで乱暴に拭き、腕を引っ張りカフェに向かう。

何であっさりついて行ったのよ本当に!

「吉野君!」

 次は何よ!?

……倉田さんだった。



 黒い塔の1階部分。

丁寧に煤を取り除いて行くと、セメントで埋められたらしき継ぎ目。

そうして壊した先にあったのは、2階への階段だった。

「……上の様子はどうでした?」

 吉野君のその表情。

想像した通り、一目見ただけでは分からない地獄だった。

高級家具の至る所にあったおもちゃ。

拘束器具。

それが目に見えた塔の、本当の中身だった。

それと、使われていた形跡がまるで無いエレベーターの扉。

そしてそのような部屋が6つしか無い。

殺したくても、殺せないようになっていたのだろう。

「自分達が狙われないように……酷い」

 田村、ニ尾部、新谷。

幹部達が地下の部屋を。

事故が起こり、閉鎖後もばれないよう、ニ尾部が管理人を続けたんだろう事は良く分かった。

そしてほとぼりが冷めた所で、異様な宿泊施設として維持していった。

更に証拠隠滅のためだろうか。

近くの森から何人もの白骨死体も見つかった。

「何でそんな事が出来るの」

 鮎川君は怒りに満ちていた。

私にも理由は分からない。

やり場の無い感情を、持つ事しか出来なかった。

「もう、そんな事は起こらない。いや、起こさせない。今生きてる俺達に出来る事」

 全く持ってその通りだが、何かを起こせるかもしれない若者がこんな近くにまだいたなんて。

私も頑張ろう。

……嫁さんも欲しい。



「吉野君の大手柄だ。ありがとう」

 お礼を言われる事なんて何もしていなかった。

爆弾を止めたのは倉田さんだし、俺は無駄な時間稼ぎをしただけだったから。

「だが君は高校生だ。無理はするな」

 ……こう言われると釈然としないのは何故だろう。

倉田さんはレシートを持って、カフェの出口から見えなくなった。

「……怒られちゃった」

 って言うか爆弾あるかもって言ったの俺だし!

そうだそうだ!

飯代浮いたし遊び行こう!

カフェのパスタも意外と行けるな!

鬱屈した気持ちを、さっさと遊んでパァにしよう!

「宿題、やったのかしら?」

 ナニソレオイシイノ?

「終わったら遊びに行ってあげるから!」

 ……無い!

痛い痛い痛いああああああああああああそれアルゼンチンバックブリーいででででででで!

「普段も真面目にやれよ!」

 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

花園塔の劫火、いかがだったでしょうか。

エレベーターを使ったトリックは、今までいくつもドラマ、アニメ、小説。

様々なメディアで紹介されていたと思います。

 私はその中で自分が今どこにいるのかという認識に着目しました。

しかも、上に上がっているけど実は5階ではなく6階だった。

と言うのではなく、上に上がっていると思い込み、実は下に下がると言う大胆不敵(?)なものをやってみたいと思いました。

 他の友達や職場の人に、同じ事を説明したら案の定、絶対に分からないなと。

これはもうやるっきゃないと思いました(笑)

 それでは、この辺で失礼致します。


2017/08/07追記

単体で上げていた『怪2 花園塔の劫火』を1つのシリーズに纏めました。

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