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恋愛短歌小説~三十一文字から始まる物語。この短歌、恋愛小説にしてみました~  作者: 水曜


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輪になって 流れる曲に 合わせつつ 君の手だけを 意識している

【短歌】

 輪になって 流れる曲に 合わせつつ 君の手だけを 意識している



【短歌をテーマにした物語】

体育館に、軽やかな音楽が流れていた。


「はい、もう一回!」


 先生の声に、みんなが笑いながら位置につく。


 文化祭で披露するフォークダンス。


 男女で輪になり、音楽に合わせてステップを踏みながら、相手の手を取っていく。


 ただそれだけの練習。


 なのに。


 私は今日、この時間が少しだけ怖かった。


「よろしく」


 目の前の男子が手を差し出す。


「うん」


 私はその手を取った。


 音楽が始まる。


 一、二、三。


 ステップを踏んで、隣へ。


 手を離して、次の人へ。


 また手を取る。


 その繰り返し。


 みんな同じことをしている。


 なのに。


 私の意識は、たった一人に向いていた。


 少し離れた場所。


 友達と話している彼。


 同じクラスで、普段からよく話す男の子。


 特別仲がいいわけではない。


 休み時間に話したり、授業で分からないところを聞いたり。


 その程度。


 だから。


 自分が彼を目で追っていることを、私は誰にも言っていなかった。


 曲が一周する。


 相手が入れ替わる。


 そして――。


 彼が、目の前に来た。


「……」


「……」


 二人とも、一瞬だけ黙った。


「よろしく」


 彼が手を差し出す。


「うん」


 私は手を重ねた。


 その瞬間。


 心臓が、大きく跳ねた。


 たったそれだけ。


 みんなと同じ。


 練習だから、何の意味もない。


 分かっている。


 それなのに。


 彼の手の温度が、やけに近く感じた。


 音楽が流れる。


 一、二、三。


 ステップ。


 ターン。


 そして、手を離す。


 離れた瞬間。


 私は、なぜか少し寂しくなった。


 次の相手へ。


 手を取る。


 笑う。


 踊る。


 でも、頭の片隅には彼がいる。


 また一周する。


 彼が近づいてくる。


 私は思わず姿勢を正した。


「……なんか緊張してない?」


 彼が小さな声で言った。


「してないよ」


「そう?」


「うん」


「顔、赤いけど」


「体育館が暑いだけ!」


 彼が笑う。


 その笑顔を見た瞬間、さらに顔が熱くなる。


「じゃあ、いくよ」


「うん」


 また手を重ねる。


 音楽に合わせて、二人で動く。


 右へ。


 左へ。


 回って。


 離れて。


 近づいて。


 手を合わせる。


 そのたびに。


 私は彼のことばかり考えてしまう。


 どうしてだろう。


 今までだって、何度も話した。


 隣の席になったこともある。


 一緒に帰ったことだってある。


 なのに。


 手が触れるだけで、こんなにも意識してしまう。


「次、逆回りだよ」


「え?」


「ほら」


 彼が教えてくれる。


「あ、そうだった」


「大丈夫?」


「うん」


「ならよかった」


 また笑う。


 その笑顔を見ていると。


 私はようやく、自分の気持ちに気づき始めていた。


 私は。


 彼と手をつなぎたいわけじゃない。


 ……いや。


 正確には。


 誰でもいいわけじゃない。


 彼だから。


 彼の手だから。


 こんなにも胸が騒ぐのだ。


 *


「今日はここまで!」


 先生の声が響く。


 音楽が止まる。


 みんなが一斉に拍手する。


「疲れたー!」


「本番、大丈夫かな」


 そんな声が飛び交う。


 私は飲み物を取りに行こうとした。


 すると。


「ねえ」


 彼に呼び止められた。


「何?」


「今日さ」


 彼が少し照れたように笑う。


「俺と踊るとき、ちょっと変じゃなかった?」


「えっ」


「なんか、手を取るたびに固まってた」


「……そんなことない」


「そう?」


「うん」


 私は目を逸らす。


 彼が少し黙る。


 そして。


「俺もなんだけど」


「え?」


「君と手を合わせると、なんか変に緊張する」


 私は顔を上げた。


 彼の顔が赤くなっている。


「……私も」


 小さな声で答える。


「そっか」


「うん」


 二人とも、それ以上は何も言えなかった。


 体育館の外では、夕方の風が吹いていた。


 帰り道。


 私は友達と歩きながら、何度も自分の手を見る。


 さっきまで彼と重なっていた手。


 もう離れている。


 なのに。


 そこだけ、まだ温かい気がした。


 次の練習は、明後日。


 そう思うだけで、少し楽しみになる。


 きっと本番の日には、もっと大勢の人が見ている。


 緊張するかもしれない。


 ステップを間違えるかもしれない。


 でも。


 もしまた彼と手を取れるなら。


 私はきっと、少しだけ嬉しい。


 そしていつか。


 音楽がなくても。


 練習じゃなくても。


 自然に君の手を取れる日が来たらいい。


 そんなことを考えながら、私は夕暮れの道を歩いた。

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