入隊
それから3ヶ月後のこと。
遂に入隊する日が来た。
常勤とは言え、まさかこの日が来るとは夢にも思ってなかったのにな…
ここ3ヶ月で分かったことだけど、常勤でも基礎軍事訓練は、一般兵と一緒に訓練を受けるらしかった。
俺はその事実に恐れ慄いた。
甘いばかりな話は存在しないみたいだ。
1ヶ月か、長くも短い期間だけど、俺に耐えられるかという不安が俺を苛む。
「準備は出来たの?」
キッチンの方で母親の声が聞こえてきた。
俺はその声に最大限何ともないふりをした。
「大袈裟なんだから。一人で行くよ。どうせ1ヶ月後には戻ってくるって。」
心の奥底では凄まじい不安で悲鳴をあげていたけど。
こうでもしなかったら、俺自信が耐えられなかった。
あたかもその1ヶ月が何ともないことのようにしたかったのである。
こういう時の強がりは昔からの俺の悪い癖だった。
「何言っているの?馬鹿なこと言わないでちょうだい。」
母親はそんな俺の気持ちを見抜いてなのかはわからないけど、そう言った。
俺は母親のチクチクした視線に耐えきれず自身の頭を無意識的に摩った。
軍に入るということで前日髪をみじかくしていたからか、トゲトゲした感覚が手のヒラに感じられた。
その感覚で更に憂鬱になる。
「でも、1ヶ月だよ?その後は家に帰ってくるって。」
「乗せてやるからな、黙って準備して降りて来い。」
本当に何ともないようにしているつもりだったけど、両親の意思は堅かったようだ。
父親はそう言い残して、車に向かった。
俺は両親の善意を無碍には出来なかったので、黙って従った。
それから俺たちの家族は俺が配置された訓練所に向かった。
そこは家から車で1時間くらいの距離のところだった。
どうも常勤の人は家で一番近い訓練所に配置されるらしかった。
常勤ではない人は訓練所の空きによって色んなところに回されるとのこと。
俺の友人はそれのせいでソウル近くの悪名高い訓練所に送られたと聞いたことがある。
そんな意味でも俺は幸運だった。
「お前は本当に運がいいよ。」
父は運転しながらそういった。
父によると俺が住んでいるところの訓練所は後方ということもあり、施設が新めのものだった。
それに噂によると、訓練強度も北朝鮮近くの訓練所に比べたら甘々とのこと。
甘すぎて蜜のような訓練所で有名らしい。
「…」
俺は無言でその言葉を聞いていた。
慰めの言葉だっただろうが、それを受け入れられる精神状態ではなかったのである。
俺はそのままドナドナされて訓練所に到着した。
訓練所は何というか学校みたいな感じになっていた。
大きい建物がずらりと並んで、前に運動場みたいなのがある。
「無事に帰って来いよ。」
「気をつけるのよ!」
「うん。」
俺は家族と最後の挨拶をして、軍の人の指示通り運動場で整列した。
他の人たちは涙を流したりしていたけど、俺はただの無表情で突っ立っていた。
どうせ1ヶ月したら出られる。
何も問題はない。何も。
そう一人呟いていると軍楽隊が何かの陽気な感じの曲を奏で始める。
俺を含めた青年たちはそのまま軍楽隊に付いて行くように指示を受けた。
そうやって俺の軍人生活は始まった。
今考えると俺って物凄くラッキーでした。
多分ここで人生の運を全部使い果たしたんじゃないかなと思います。




