6月12日「ふふっ、湊くん、頼もしいじゃん。」
まだ雨が続く今日の朝。
教室に入った瞬間、妙な気配を感じた。俺の机の上に小さな水滴が残っている。ぞっとして机の中を確認すると――空っぽ。
(あのときのラノベの件から学んで、今日は何も入れてなかったからよかったけど……完全に狙われてるな。)
「湊、何かあった?」
雨音が気づいて、小声で尋ねてきた。
「机が濡れてただけだ。物は入れてなかったからセーフ。」
「……そっか。」
その返事と同時に、彼女の目がきゅっと細くなる。昨日よりさらに強く、暗い光を宿していた。
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放課後。
俺と雨音、そして俊介と奈々子の4人は図書室横のベンチに集合していた。
「で、俺が呼ばれたわけは?」
「で、私が呼ばれたわけは?」
俊介はパンをかじりながら俺を見て、奈々子は雨音の方をあくびしながら言った。
奈々子とは、少ししか話したことがないが、まさか雨音の親友だったとは知らなかったな。
「親衛隊の件だ。昨日の氷もそうだし、今日も嫌がらせがあった。正直、このまま放っといたらヤバいと思って。」
と俺が説明する。
「まあな。で、どうするんだ?」
と俊介が聞いてくる。
「証拠を集める。」
雨音が即答した。
「先生に訴えても“言った言わない”で終わる可能性があるからね。だから現行犯、あるいは物的証拠を押さえる必要がある。」
「……あの…雨音さん?刑事か何かですか?」
俊介が呆れ気味にツッコむ。
「うるさい。これは私と湊の問題なんだから。あと、呼び捨てでいいから。」
「私も巻き込まれてるんだけどな……」
「細かいことは気にしない!」
強引に会話を進める雨音に、俊介と奈々子は肩をすくめた。
「まあいいや。じゃあ俺は裏方やるわ。防犯カメラの位置とか調べておくし。あと、怪しい奴の動きは観察して記録する。」
「あ〜!それ、私もやる〜!」
「頼んだよ、俊介。」
「頼んだよ、奈々子。」
「おう。ただし、俺は目立ちたくないからな。黒子役で頼む。」
「私裏方だからね!」
どうも親衛隊のやつと直接やり合いたくないらしい。
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その帰り道。
まだ雨が降っていた。相合傘をしながら歩いていると、雨音がぽつりと呟く。
「……湊、怖くない?」
「正直、めちゃくちゃ怖い。上級生も多いし、俺なんかボコられたら一発で終わるかもな。」
「だよね。でもさ、ここで引いたら一生“雨音=親衛隊の持ち物”ってレッテルが残っちゃうから、絶対倒したい!」
雨音の声は震えていなかった。
俺はそれを聞いて、逆に背筋が伸びた。
「……わかったよ。俺も最後まで付き合う。」
「ふふっ、湊くん、頼もしいじゃん。一緒にがんばろ!」
そう言って雨音が笑った瞬間、なぜか雨が少しだけ弱まった気がした。
――こうして、今日は作戦会議が終わり、明日からは、いよいよ親衛隊との直接対決になる。
俺も、頑張らないと!




