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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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星夜祭-1



 星夜祭当日。


 街へと向かう馬車に揺られながら、わたしはぼんやりと景色を眺めていた。


 あれほど楽しみにしていたお祭りだというのに、今のわたしの気分は最悪だった。

 その気持ちを吐き出すように、重いため息を吐けば、目の前から「ねえ」と不機嫌そうな声が聞こえてきた。


「まだ怒ってるわけ?」


 真向かいに座るレインにそう聞かれ、わたしは窓の外に視線を向けたまま、ぶっきらぼうに答える。


「……別に。怒ってないけど」

「嘘、怒ってるじゃん。アナスタシアって分かりやすいよね」

「……だって、お兄様が……お兄様が……他の女と星夜祭に行くだなんて……!」


 そう、今日はテオドールにも「一緒に祭りへ行こう」と声をかけていたのだが、「先約がある」と断られてしまった。


 そして女性か、と聞いたわたしに対して、彼は照れたようにはにかみながら頷いたのだった。


「どこのどいつよその女!」


 わぁっとその場で泣き出せば「うるさい」と怒られてしまった。何だ、うるさいって。慰めてくれてもいいじゃないか。


「わたしだけのお兄様だったのにぃ……」

「いや、別にアナスタシアだけのものじゃないでしょ」

「うるさい! いいから慰めて!」


 そう言えば、渋々といった様子で頭を撫でられる。そして「大好きなお兄様に捨てられて可哀想ですね、よしよし」と、言われた。別に捨てられてはないのだけど。


「テオドール様にも付き合いってものがあるだろうし、そろそろ兄離れしたら?」

「嫌! そんなの認めない!」


 まるで子供のように駄々をこねていれば、深いため息が聞こえてきた。そろそろやめないと本気で呆れられるかもと、恐る恐る顔を上げる。


「はい」


 すると、目の前に小さな箱が差し出された。突然のことに、首を傾げる。


「なにこれ?」

「開けてみて」


 言われるがまま、箱を開けると、中には耳飾りが入っていた。なにこれ、すごくかわいい。


「かわいい! でも、どうしたの?」

「今日の祭りにぴったりかなって思って」


 たしかに耳飾りには星をモチーフにした飾りがついている。キラキラと光るそれは、星夜祭にはぴったりだろう。……もしかして、これってプレゼント?


「わたしにくれるの?」

「アナスタシア以外に誰がいるわけ」


 素直じゃないその物言いに思わず笑みが溢れる。「ありがとう」とお礼を言って、わたしはゆっくりと箱から耳飾りを取り出した。


「ねえ、どうかな? かわいい?」


 耳飾りを片耳につけたわたしは、目の前のレインに見せる。動きに合わせてゆらゆらと揺れて、楽しい。


「はいはい、かわいいですね」

「もう、適当なんだから」


 そう言って、もう片方も着けようとするが、なかなか上手くいかない。苦戦していれば、ふいに目の前からレインの手が伸びてきた。


「貸しな、着けたげる」


 ギシっと音を立てて、レインが隣に座る。近づいた距離と、耳に触れる彼の手。心臓の音が聴かれてしまいそうなぐらいに、うるさい。


「ついたよ」

「……っ、ありがとう」


 お礼を言えば、レインは「ん。よく似合ってる」と微笑んだ。熱くなる頬を誤魔化すように、視線を逸らそうとしたが、そのまま顔を覗きこまれてしまい逃げられない。


「機嫌なおった?」


 ふっと笑ったその表情と仕草に、心臓がさらにうるさくなる。なるべく平常を装って返事をしたが、その声は震えていた。


「……なお、った……」

「そ。なら、よかった」


 最後にふわりと頭を撫でられて、レインは元の場所へと戻っていった。窓の外を眺める彼の横顔は、いつもと変わらない。わたしだけが意識していて、本当嫌になる。


 はやくこの熱が引きますように。そればかりを願いながら、残りの時間を過ごしていた。




◇◇◇◇



 賑わう街の中、わたしは立ち尽くしていた。


「思ったよりすごい人ね……! レイン、はぐれちゃだめだからね!」

「それ、俺の台詞なんですけど」


 レインの服の裾を掴みながら、わたしはきょろきょろと辺りを見渡す。たしか、待ち合わせはこの辺りなんだけど……?


 この人混みのなかでは見つけられる自信がない。それでも必死になって彼女の姿を探していれば、遠くからわたしの名前を呼ぶ声がした。


「アナスタシア様!」


 振り返るとそこにはエミリアが、こちらに手を振っていた。


「エミリア!」


 エミリアの元へと駆けていけば、彼女は「会えてよかったです」と微笑んだ。そして、二人で人の多さにはしゃいでいれば、ふと彼女の視線が私の後ろに向けられる。


「……あ、いらしてたんですね」


 レインの存在に気がついたエミリアがそう声を漏らせば、彼が軽く会釈をする。それ以上何も言わないエミリアに、レインは「安心してください。邪魔はしませんから」と笑った。


 いや、この場合邪魔なのはわたしの方では?

 そう思って「邪魔だなんてそんなことないのに、ね?」とエミリアに同意を求めたが、華麗にスルーされてしまった。


 まって、エミリアの好きな人って、レインで合ってるよね……?


 何だか気まずい空気がその場に流れて、わたしは慌ててエミリアの腕を引っ張った。


「ほら、エミリア! あっちに行ってみましょう!」


 とにかく今は星夜祭を楽しまなくては! そう思ったわたしは、浮かれた足取りでどんどん前へと進んでいく。




 そして、数十分後──わたしは完全に人酔いしていた。




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