第54話 火の石の真実
第53話では、ユリアの告白をきっかけに、世未の心にも少しずつ変化が生まれました。
今回は、世未に隠されていた大きな秘密が明らかになります。
ぜひ最後までお楽しみください!
翌朝。
私たちは土の国を後にし、火の国イグナへ向かうことになった。
「さて、フォルンに乗ってイグナまで行こう」
ルロンド隊長の指示で、二足歩行の黄色い鳥――フォルンたちが集まってくる。
以前一度だけ乗ったことがあるが、その時の私は見事に落下した。
どうにも相性が悪いらしい。
「大丈夫か?」
ジョーが振り返る。
「う、うん……たぶん」
「たぶんかよ」
呆れたように笑うジョーだったが、そのまま自分の後ろへ乗るよう促してくれた。
結局私はジョーの後ろに乗り、二人乗りで火の国へ向かうことになった。
実は火の国イグナと土の国テラノアは隣接しているため、そこまで距離は離れていない。
しばらくして、見慣れた火の国の城壁が見えてきた。
(懐かしいな……)
初めてこの世界へ来た時。
右も左も分からないまま連れて来られた場所が、ここだった。
そんなことを思い出しているうちに、私たちは正門へ到着した。
「やあ、ルロンド。久しぶりだね」
「お前もな」
そこにはサージェが立っていた。
以前と変わらない穏やかな笑みを浮かべている。
私たちはフォルンから降り、そのままサージェと共に研究室へ向かった。
私が最初に目を覚ました、あの部屋だ。
今では懐かしいとさえ感じる。
「さて、早速だけど、皆揃ったところで話を始めようと思う」
サージェは真剣な表情で資料を机へ置いた。
「世未ちゃんについての研究結果だ。初めに脳の検査をしたのを覚えてるかい?」
「はい……その時の結果なんですね?」
「そう。やっぱり検査をしてみて良かったよ」
サージェは一度言葉を区切った。
「――実を言うと、世未ちゃんの体の中には惑星ファルナの火の石があった。しかも頭の中にね」
「え……?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
頭の中に火の石?
そんな馬鹿な話があるのだろうか。
「頭の……中に?」
「うん。それが原因で惑星ファルナとの波長が一致し、そのデータを基に転送された可能性が高い」
サージェの説明は続いている。
けれど、私の頭は上手く働いていなかった。
(私の頭の中に……火の石?)
(そんなの、聞いたこともない……)
「そして、戦闘時に発動していた数々の魔法も、その火の石による影響だと考えられる」
「……なるほど。それで数々の強力な魔法を繰り出せていたという訳か」
ルロンド隊長が静かに呟く。
しかし私は戸惑いを隠せなかった。
今まで当たり前のように使っていた力。
その理由が、自分の体の中に眠る石だったなんて――。
「でもどうして、そんな大事な物を私が持ってたんだろう……?」
「そこは僕にも分からない。僕の研究で何か分かれば伝えるし、世未ちゃんも何か思い出したら伝えてほしい」
「わかりました……」
返事はしたものの、心の中はまるで整理できていなかった。
自分の体の中に火の石がある。
それが転移の原因かもしれない。
そして、今まで使ってきた魔法も――。
(そんなこと急に言われても……)
頭では理解しようとしている。
けれど、心が追い付かなかった。
サージェは一呼吸置くと、再び話し始めた。
「もう1つ、重大な事がわかったんだ。この話も重要な話だから、第5部隊以外の全部隊を集めてから話をしよう」
「わかった。それじゃあ一先ず解散しよう」
ルロンド隊長の言葉で、その場は解散となった。
皆それぞれ部屋へ戻ったり、自由行動を始めたりしている。
そんな中、私は気付けば自分の部屋へ向かっていた。
まるで何かから逃げるように。
ドアを閉める。
静寂が部屋を包み込んだ。
誰もいない。
一人だ。
その瞬間、張り詰めていた糸が切れた気がした。
(私の体の中に、火の石があるなんて……)
ベッドへ腰を下ろす。
けれど落ち着かなかった。
胸の奥がざわざわする。
(そんなに突然の事実を聞いても、受け入れられないよ……)
今まで不思議だったことが一気に繋がった。
なぜ私はこの世界へ来たのか。
なぜ強い魔法が使えたのか。
なぜ皆と違うのか。
全部。
全部、火の石が理由だった。
それなのに。
知りたかったはずの真実を前にしても、素直に喜ぶことなんて出来なかった。
「私、これからどうすればいいの……?」
思わず声が漏れる。
自分でも驚いた。
今まで誰かの前では平気な顔をしていたのに。
言葉にしてしまった途端、不安が一気に押し寄せてくる。
(もし私が暴走したら……?)
(もし皆に迷惑を掛けたら……?)
(もし、この力のせいで――)
そこまで考えたところで、視界が滲んだ。
「っ……」
慌てて目元を拭う。
けれど涙は止まらなかった。
怖かった。
自分の知らない自分がいるようで。
自分自身が分からなくなりそうで。
その時だった。
コンコン。
静かなノックの音が響く。
世未は慌てて涙を拭った。
「はい……」
反射的に立ち上がり、ドアへ向かう。
そして扉を開けた。
そこに立っていた人物を見て、思わず目を見開く。
「ルロンドさん……どうしたんですか?」
「お前こそ、その顔、どうしたんだ?」
世未はハッとした。
泣いていたことを思い出し、慌てて顔を背ける。
「……なんでも、無いです……何でも……」
本当は何でもなくなんてなかった。
けれど、心配を掛けたくなかった。
弱い自分を見せたくなかった。
だから咄嗟に嘘をついた。
しかし、その言葉を口にした瞬間だった。
「っ……」
胸の奥が痛くなる。
自分の気持ちに嘘をついたことで、余計に苦しくなった。
気付けば再び涙が溢れていた。
「そんな訳ないだろう?」
ルロンド隊長は、少し眉をひそめる。
「ついさっき、サージェの研究結果を聞いたばかりじゃないか。俺はお前を心配してだな……」
「えっ……?」
その言葉に、世未は顔を上げた。
ルロンド隊長が、自分を心配して来てくれた。
その事実だけで、張り詰めていた心が少しだけ緩む。
ルロンド隊長はゆっくりと手を伸ばし、世未の頬へ触れた。
「無理をするんじゃない……。俺で良ければ話くらい聞くぞ?」
優しい声だった。
いつもの隊長としての声ではなく、一人の人間として寄り添ってくれるような声。
その瞬間。
世未は気付けばルロンド隊長へ抱きついていた。
「ルロンドさん……」
自分でも驚いていた。
こんな行動を取るつもりなんてなかった。
それでも体が勝手に動いてしまった。
「私、今すごく辛くて……」
震える声で言葉を続ける。
「火の石が自分の体内にあるなんて、信じられなくて……。もう、どうしていいかわからないんです……」
ルロンド隊長は驚いた様子を見せたが、何も言わず、そっと世未の頭を撫でた。
「確かに、その事実には俺も驚いた」
「……そう、ですよね」
(ルロンドさんでさえ驚く事実だったんだ……)
少しだけ安心した。
自分だけが混乱している訳ではないのだと。
「しかし、これまでの世未の不思議な力の源は、世未自身に眠っていたんだな」
その言葉を聞きながら、世未はようやくルロンド隊長から体を離した。
「そう言われてみれば、確かに……」
涙を拭う。
「そうか、私の体内に火の石があるから火の魔法も使えたんだ」
「おそらく、そういうことだろう。魔力が高い原因も、火の石本体を持っているから自然と高い魔力を放出している可能性が高いな」
「なるほど……」
さっきまで怖いことしか考えられなかった。
けれど今は少し違う。
火の石があるからこそ、自分は戦えた。
皆を守ることができた。
そう考えることもできる。
「あの、私……」
世未は何かを決意したような眼差しで、ルロンドを見つめた。
「どうした?」
「この火の力を使えば、惑星ファルナを本当に救えるかもしれない」
自分でも不思議だった。
ほんの少し前まで泣いていたのに。
「……さっきまで、自分の火の石の存在が怖くてたまらなかったのに、ルロンドさんと話して、やっと整理することができました!」
ルロンド隊長は少し目を見開いた。
そして。
「ふ、ふふ……」
(また、笑ってる……!)
「もう、冗談で言ってる訳じゃないんですよ!?」
「俺が来た時、お前は泣き崩れていたにも関わらず、すぐに元気を取り戻したみたいだな」
呆れたような口調だった。
けれど、その表情はどこか柔らかい。
普段笑わないルロンド隊長が、ほころんだ笑顔で笑っている。
その姿を見た瞬間。
世未の心臓が大きく跳ねた。
(こんな風に笑うんだな……)
(素敵だな……)
目を逸らせない。
胸の奥が熱い。
鼓動がどんどん速くなる。
「とにかく、私、頑張りますから……」
慌てて話題を変える。
「その……」
そこで言葉が詰まった。
言うつもりなんてなかった。
なのに。
「いざ暴走した時は、抱きしめてくれませんか――?」
言った瞬間。
(……え?)
自分で固まる。
(私、今なんて言った!?)
顔が一気に熱くなった。
ルロンド隊長も流石に驚いたようだった。
「……わかった」
短い返事。
けれど真剣だった。
「その時は、俺がお前を止める」
世未の胸がまた高鳴る。
どうしてこんなに嬉しいんだろう。
「ちょ、ちょっと外へ行ってきます!」
「おい、世未――」
恥ずかしさに耐えられず、勢いよく部屋を飛び出した。
(なんであんな大胆なこと言っちゃったんだろう!?)
廊下を歩きながら顔を押さえる。
熱い。
心臓がうるさい。
(やっぱり私……)
昨夜の出来事が浮かぶ。
ユリアの告白。
ルロンド隊長の名前。
そして今見た笑顔。
(やっぱり私、ルロンドさんが好きなのかもしれない……)
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
世未が抱える秘密、そして少しずつ変わり始めた心――。
次回も見守っていただけたら嬉しいです!




