第21話 やってらんねぇ、なのに目が離せねぇ
水の国にたどり着いた世未たちが目にしたのは、 「渇ききった大地」 と 「枯れ果てた人々」。
この国で何が起こっているのかーー。
そして、ルロンドと世未の距離が縮まる中、ジョーの胸には 「言いようのないモヤ」 が広がっていく。
「やってらんねぇ、なのに目が離せねぇ」
ジョーが無自覚に感じるこの感情の正体とは……?
水の国だというのに、空気は乾ききっていた。水たまりひとつなく、砂ぼこりが舞い上がる。
道端では、干からびた木の枝が転がり、喉の渇きに耐えかねた子どもたちが涸れた井戸を覗き込んでいる。
すれ違う人々の肌はひび割れ、頬がこけていた。通りすがりの男が水袋を一瞬見つめるが、すぐに目を逸らす。
「(そういえば、火の国イグナでは自然と雨が降っていたけど、水の国アクエルに近付くほど雨が降らなくなっていたような……これは偶然?)」
「アクエルは俺たちの想像以上に深刻な事態のようだな……。これは、国王を早めに謁見をさせてもらいたい。皆、疲弊していると思うが、謁見の予約だけ済ませたら休もう」
国王との謁見の予約を取るために城へ向かった。受付をしている兵の元へ足を延ばした。城へ向かう途中、道端に倒れている民を何度か発見して、声をかけた。
「おじいさん、大丈夫ですか?」
「……一口でいい、水をくれんかの……」
今にも意識を失いそうなおじいさんに、手持ちの水を手渡すと、一気に飲み干してしまった。
「久しぶりに水が飲めて助かった……若いの、ありがとう」
そうしておじいさんはその場から立ち去ってしまった。世未は水の国の現状を知り、胸が痛くなるのを感じた。そして、いよいよ城の中へ入った。
「女王様への謁見ですか?となると、予約は1週間先ですが、よろしいですか?」
『女王?国王じゃなかったっけ……』
私はアディにこっそりと確認した。
『水の国は女王が仕切ってるって話だよ。聞いてなかったかい?』
『初耳です』
「もう少し早めに話ができないか?俺たちもそんなに待っていられない」
「そう言われましても、他の予定で埋まっているんです。何か特別な用でもない限り早めることは出来ません」
ルロンド隊長は腕を組み考え事をしているようだった。そのとき、世未は少し強引に受付の兵の前に引っ張られる。
「痛っ……急に何ですか?」
「このエンブレムを見てもそう言えるか?」
受付の兵は驚いた様子で世未の腕章を見てくる。
「そのエンブレムは……!」
受付の兵の顔が強張る。しかし、すぐには返事をしなかった。
「ですが……」
と口をつぐみ、一瞬だけルロンドを見たあと、小さくため息をつく。
「……本来なら、いかなる理由でも謁見は順番通りです。しかし、これは特例中の特例……少々お待ちください」
先程強引に引っ張られた腕が痛んだ。思わず腕を確認したが、これといって異常がある訳ではなさそうだった。気になるのは、赤く血が滲んだ服だけだ。
「すまない、少々強引だったな」
「もう……平気ですけど、次からはもう少し気を付けてください」
珍しくむすっとした態度の私を見て、ルロンド隊長は驚いているように見えた。
「クッ……あははっ……!」
ルロンド隊長が、不意に肩を震わせた。
そのまま堪えきれなくなったのか、口元を押さえて笑い出す。
「(――いや、いやいやいや。ルロンド隊長が笑うなんて、そんなことある!?)」
ディーンとラトが目を丸くする。
「うそ……隊長、笑った!?」
「くっ……あはは、悪いな。お前のむくれ顔が、なんというか……」
「え?もう……少しは反省してください」
突然笑い始めるルロンド隊長の姿に、驚いた。お腹を腕で抱える程笑い始めてしまった。ツボに入ってしまったんだろうか。そうこうしているうちに、先程の兵が戻ってきた。
「女王様との謁見予約ができましたので、申し訳ありませんが、あと3時間後にもう一度城へ来て下さい」
「わかった」
♦♦♦
そして私たちは疲弊した体を回復させるため、宿屋へ向かった。途中、ルロンド隊長が道具屋へ寄り道して、急ぎ足で戻って来た。宿屋の主と空きを確認したら、偶然6人部屋が空いていたため、そこで休憩をする事ができたのだった。
「……世未」
ルロンド隊長が、不意に世未を呼ぶ。
「え? 何ですか?」
「お前の腕、大丈夫か?」
世未は少し驚いたように自分の腕を見る。
血は止まっているが、服にはまだ赤い跡が残っていた。
「あ……はい、大丈夫です」
そう言いながらも、ルロンドの目は真剣だった。
「……あとで手当をしよう。傷は放っておくと悪化する」
ルロンドはそう言い残し、宿屋の方へ歩き出した。
♦♦♦
そのやり取りを、ジョーはじっと見ていた。
(……なんだよ、それ)
胸の奥に、言いようのないモヤが広がる。
ザラついた感情が喉の奥にひっかかる。
ルロンドの手が、世未の腕に触れた瞬間――。
ジョーのこめかみに、ぐっと血が上る。
「……はぁ、やってらんねぇ」
思わず吐き捨てた。
だが、その苛立ちの正体が何なのか、ジョー自身もまだ分かっていなかった――。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!✨
今回は 水の国の異変 だけでなく、 **キャラクターたちの関係性にも動きが…?
ジョーのこの気持ちは、今後どこへ向かうのかーー。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです!
引き続き応援よろしくお願いします!✨




