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38 女王と王子

第三王子からの依頼を受けて、俺たちがやって来たのは冒険者ギルドだ。

まずは、ゴーストからの手紙が届いていないか確認する。案の上、届いていた。


「当初の計画では、すぐに三ヶ国の意見を取りまとめて、早急に拠点を叩くと言っておったが、少し話が変わってきた。教会の馬鹿どもとつながっている貴族たちが、なりふり構わない手に出てきよった。奴らもいずれは拠点を叩かなくてはならないとは分かっておる。そこで、三ヶ国会議で時間を稼ぎ、拠点を移す時間を稼ごうとする作戦に出るようだ。それで今回は早急に会議をまとめて欲しいというのが依頼じゃ。船長に頼むことではないと分かっているが、お主しかおらん。よろしく頼む。奴らがやる予定の手は、別紙に記載しておくから確認してくれ。

ゴーストより」


また無茶な依頼だな。俺は外交官じゃねえぞ。


一緒に来ていた勇者は上機嫌だ。ちょっとは俺の身にもなれよとも思う。


「マリー、ここは冒険者ギルドで色々な依頼を受けるんだ。僕も何もないときは、依頼を受けることにしているんだ」


「凄いです、勇者様。是非、依頼を御一緒したいです」


「そうだ!!船長!!僕達にピッタリな依頼を見繕ってくれ」


おいおい、これ以上仕事を増やすのか?って、これは利用できるんじゃないのか?


★★★


俺たちは今、クリスタリブレ号に乗って洋上に出ている。

少し状況を説明すると、親書にも記載されていたのだが、第一回の三ヶ国会議が約1ヶ月後に行われる。第三王子としては、それまでに我らが女王陛下と会談の機会を持ちたいとの意向で、会談したことを帝国に知られたくないとのことだった。

そこで、冒険者ギルドの依頼を使うことにした。ポコ総督に「ダイオウイカの討伐」という依頼を出してもらっていた。これはポピュラーな依頼で、怪しまれるような依頼ではない。


ダイオウイカは体長10メートル程のイカ型の魔物で、毎年この時期になると多くの漁船が被害を受ける。討伐すれば、漁師たちに感謝されるし、食べてもこのダイオウイカは旨いのだ。それで、表向きは勇者の活動に興味を持ったマリー王女が第三王子に頼んで、クリスタリブレ号に乗船し、討伐を見学するということにした。付き添いで第三王子ご夫妻と護衛も乗り込んでいる。


「マリー王女、先程も説明させてもらったとおり、クラーケン程ではありませんが、危険で迷惑な魔物です。討伐することは勇者様の立派な活動なのです。十分お気を付けください」


「マリー、心配しなくても僕が居れば大丈夫だ」


「はい、勇者様!!」


結果は3体のダイオウイカを勇者が発射式の銛で貫いて討伐した。もちろん「スナイパー」のリュドミラのアシストがあってのことだけど。そうとは知らない勇者は、ドヤ顔を浮かべてマリー王女に自慢している。しかし、接待討伐なんて初めての経験だな。


「よし!!内臓はすぐに塩辛にしろ。酒の肴には最高だ。それで、せっかくなんで、あれをやるか?イカそうめん!!」


「「「やったあ!!!」」」


水夫たちが盛り上がる。この水揚げしたばかりのイカはこれに限る。勇者もマリー王女もご満悦だ。これで依頼達成なのだが、ここから少し、第三王子の意向を組み、ミケが打ち合わせ通りに言う。


「実はクリスタ連邦国の王都エジンバラで、高く売れるニャ。そこに持ち込みたいニャ!!」


「そうだな。そうしよう」


これに第三王子の護衛たちが反対する。


「急にそんなことを言われましても困ります。何日もかかるとは聞いていません」


「大丈夫ですよ。明日には着きますから」



★★★



そして、勇者ブーストをフル稼働させ、本当に次の日にはエジンバラに着いてしまった。


「僕の船は速いでしょ?」


だから、お前の船じゃないって言っているだろうが!!


そんな勇者を尻目に俺は王城で手続きを行う。急遽の謁見であったが、第三王子に用意してもらった最高級のボンジョール王国産のワインと火酒、それにダイオウイカの塩辛をちらつかせたら、すぐに許可が下りた。


「久しぶりじゃのうって、この前会ったばかりじゃな。それでネルソン坊は外交官にでも転職するつもりか?王子様を連れてくるなんてのう。まあ、ワインと火酒、塩辛で、急遽の謁見は許してやろう。すぐに飲みたいから、手短に頼むぞ」


「ボンジョール王国第三王子のルイス・ボンジョールです。早速なのですが本題に入ります・・・・」


第三王子は、ボンジョール王国の事情、個人的な感情を女王陛下に訴えた。


「なるほどのう。帝国の方はどうじゃ?ネルソン坊も情報があるんじゃろ?」


俺もゴーストからの手紙の内容を要約して伝えた。


「謀には謀じゃ。わらわに少し考えがある。こういうのはどうじゃろうか・・・・」


「それは大胆ですね。こちらも大丈夫です」


「よし、そうと決まれば、後は飲むだけじゃな。せっかくの酒と肴じゃ。皆で楽しもうぞ」


★★★


話はすぐにまとまった。女王も第三王子も勇者もご満悦だ。第三王子が友好の証として、ミケがくすねてきたピスカの絵画を献上しようとしたが、「酒が不味くなる」と言って断ったこと以外は、友好関係が築けているようだった。

そんな中、女王陛下が口を開いた。


「実はルイス王子殿下と奥方に会ってもらいたい者たちがおるのじゃ。連れて参れ」


部屋に入って来たのは憔悴しきった獣人たちだった。


「この者たちは勇者殿が破壊した灯台に立てこもっていた者たちじゃ。普通なら問答無用で死罪とするところじゃが、少し事情があってな。この者たちはエルドラ島で働かされていた奴隷なのじゃ。この者達が言うにはエルドラ島の奴隷の扱いは、ここ最近かなり酷くなっているそうじゃ。それで、エルドラ島の窮状を訴えるため、船を奪い、我が国にやって来たそうじゃ。我が国を選んだ理由もわらわが薬物犯罪に厳しく、何とかしてくれると思ってのことらしい。しかし、いきなりわらわに会うことなんてできんから、灯台に立てこもって騒ぎを大きくしたかったらしい」


そんなとき、第三王子の奥様マリア妃殿下が、獣人たちの中にいた一人の女性に声を掛けた。


「もしかしてテレザ?マリアよ、どうしてこんな・・・」


「マリア様・・・ああ・・・こんなところで・・・」


テレザという女性は泣き崩れた。村自体が海賊に襲われて、村人のほとんどが奴隷にされたそうだ。彼女とマリア妃殿下は、帝国とは別大陸にある虎王国の出身で、マリア妃殿下のメイドをしていたらしい。


「マリーのお母さんの友達に酷いことをした奴らを僕は許さない!!勇者砲で成敗してやる!!」


我らの勇者様は大変お怒りの御様子だった。

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