39 帝国の誤算
無事第三王子と女王陛下との会談を取り持つことができ、親書に記載されていた会議の期日が来た。会議場所であるロゴスの総督府に各国の要人が集うなか、小太りの男が青ざめて座っている。
この男はコツボン伯爵という帝国貴族で、聖神教会のスニア派とつながりがある貴族の代表格だ。普通はコム―ル大臣辺りが来るのだが、無理やりねじ込んだようだ。
ここでいい結果を持って帰れば派閥内での力も増すし、スニア派にも恩を売れる。
しかし、誤算だろうな・・・ボンジョール王国は第三王子、クリスタ連邦国は女王陛下が代表者として来ている。親書には実務者レベルの会合を行うと書いてあったので、帝国が外交儀礼上、礼を欠いた行為をしたわけではない。帝国側が騙された形になる。
しかし、これもよくある手だ。
「ボンジョール王国は、今回の件を重く受け止めています。実務者レベルの会合と聞いていましたが、私が出てきました。それほど重要な案件だと認識しているのです」
「妾とて同じじゃ。薬物犯罪者はクリスタ連邦国では、即刻死罪じゃからな。それに比べてグレイティムール大帝国はどうも、やる気が感じられんのじゃがな」
コツボン伯爵は、困り顔で言う。
「我らも気持ちは同じです。明日にでも攻め入ってやるつもりですよ。なあ、レオニール将軍?」
「もちろんです。我々帝国海兵隊と勇者様がおれば、今から出陣しても大丈夫ですよ」
今回の会議ではそれぞれ軍事顧問を連れてきている。帝国はレオニール将軍、クリスタ連邦国は隻眼のリザードマンの海軍総司令官ザーフトラ、ボンジョール王国は元帝国軍人のスコールズ中尉だ。今は昇格して少佐のようだが。
「口ではなんとでも言える。それなら態度で示してもらいたいものじゃ。最新鋭艦を2~3隻使い潰すとかのう?」
「流石は女王陛下!!民のため、兵の命を守るためであれば、軍艦の1隻2隻など安いものです」
流石の女王陛下も困惑している。
皮肉で言ったのに全く通じない。それどころか褒められたと勘違いしたレオニール将軍に驚きの様子だ。
ここでなぜか司会のようなことをしている俺が言う。勇者の補佐として出席させられているのだ。
「勇者様のご意見もお聞きしましょう。どうですか?明日、みんなで攻め入る話になっていますが、どうされますか?」
会議中、ウトウトしていた勇者は、目を擦りながら言った。
「明日攻め込むんだね。何時かな?」
「そうですね。出発するなら7時位が一般的かと。まだ混雑しない時間帯ですからね」
「少し早いけど頑張るよ。じゃあみんな、明日に備えて早く寝ようね。僕は帰って寝るとするよ」
勇者は去って行った。
コツボン伯爵は大慌てで言う。
「ちょっと明日なんて、いくら何でも急すぎます。少し落ち着いて・・・」
「妾は構わんぞ。なあザーフトラ?」
「御意!!」
「私も大丈夫ですよ。スコールズ少佐、大丈夫だろ?」
「もちろんです」
「レオニール将軍、ウチは準備が・・・」
「準備万端であります。恐れながら女王陛下、王子殿下にお願いがございます。我らが帝国海兵隊に先鋒を務めさせていただきたい。我らは敵地への上陸、制圧が得意とするところであります。是非とも!!」
「貴殿がそこまで言うのなら、許可しよう」
「私もだ。今回我が国で英雄として名高い、レオニール将軍の武勇を間近で見られるとは、運がいい。サウザン海賊団を壊滅させたような働きを期待している」
ここでザーフトラ総司令官が発言する。
「それでは、細かい作戦や役割りなどについて、話し合いましょう。後は軍事担当者だけでやりますので、女王陛下や王子殿下にあらせられては、お休みいただければと思います」
「そうじゃのう。では後は任せた」
女王陛下と第三王子は退席した。コツボン伯爵は絶望の表情を浮かべている。もう明日攻め込むことは決定し、覆せない。ゴーストの情報によると帝国側の思惑としては、レオニール将軍に攻め込めるだけの兵を引き連れさせていた。そして「こっちは明日にも攻め込むつもりだったのに、やる気はあるのか?話にならん」と盛大に煽って会議を潰す気満々だったそうだ。
コツボン伯爵はうだつが上がらない男だが、人を不快にさせる煽り能力だけは高いと評判のようだし。
出来れば1年以上、最低でも半年、のらりくらりと引き伸ばして、麻薬工場を移転させるための時間稼ぎをしたかったのだろうが、それどころか、まだやって来ないと思っていた連合軍が急遽やって来るのだからスニア派の連中からしたら、裏切られたと思うだろう。
実際、それを狙ったんだがな。
すべて女王陛下の計略だ。帝国はまんまと引っ掛かってしまったのだ。
帝国にしてみれば、誤算も誤算、大誤算だろうな。
★★★
予定通り出発した。
勇者パーティーは、レオニール将軍の最新鋭艦に乗船しているので、俺はひとときの安らぎを満喫している。その戦艦は超大型揚陸艦で、兵士は500人以上乗れる。それに馬も30頭程乗せているようだ。動力は風力とスクリューだった。
この揚陸艦の特徴は岸壁や港だけでなく、スクリューを無理やり回して、砂浜にも上陸できるのだ。今回の作戦も砂浜に上陸することが決定している。砂浜とは反対側に港があるが、敵も馬鹿ではないから港の守りは固めている。無理やり港を攻めても損害が増えるだけだからな。
5日程して、勇者たちがクリスタリブレ号に戻って来た。
勇者は少し機嫌が悪い。
「遅いし小回りが利かないし、なんたってすぐに壊れるから、僕の船にするのは無理だな。まあ、僕にはこの船があるし、別にいいんだけどね」
「何を馬鹿なことを言っているんだ!!この船はお前に乗員ごとレンタルしているようなもんなんだからな。決してお前の船じゃないぞ」
「だったら死ぬまで、借りてあげるよ。そうすれば僕の船だ。因みに死に戻りはカウントしないからね」
「それを借りパクって言うんだよ!!馬鹿勇者!!泥棒勇者にでも改名しろ」
「馬鹿ってまた言ったな!!もういい、僕は疲れているんだ。部屋で寝る。ミケ君!!モフモフマッサージを頼むよ」
「はいニャ!!10分100ゴールドニャ」
馬鹿勇者はミケを連れて、自室に引きこもってしまった。
マルカが言う。
「一言で言うと、あの揚陸艦は、欠陥品ですね。目玉のスクリューはアトラがいないと大量の魔石が必要になります。3隻も補給艦を連れているのはそのためです。それだったら、軍艦を4隻にしたほうが安上がりです。そんなんだから勇者の船ということにして、各国に資金援助を募ろうとしたんですよ。実際にアトラがスクリューを回してみるとそれなりに動きました。しかし、アトラがちょっと強めに魔力を込めるとスクリューが壊れてしまいました。現在スクリューは予備を含めてもう2つしかありません」
無駄な金を掛けて、こんな大型のポンコツ艦を作るなんて信じられん。クリスタ連邦国でこんなことをしたら死刑だろうな。
「それで船長にお願いがあります。船長とベイラさんに少しの間、揚陸艦に乗って欲しいんです。このままじゃあ、目的地まで着けるかどうかも分かりません。アトラも船長やベイラさんがいないと上手く操船できず、ストレスが溜まっています。
それに今回、揚陸艦を開発したメンバーには私の元同僚がいます。全くのポンコツ艦だと分かったら処分されてしまいます。なので、お願いを聞いてくれませんか?」
「まあ、改善できるかどうかは分からないが、やるだけやってみるよ」
この後、後悔する。思ったよりも酷かった。
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