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1. 何事も人のせいで起こる


 街の警鐘が鳴り響く中、齢16になる冒険者のケディは一人ギルドの窓口に呼ばれていた。

 窓口には、普段見かけないギルド長が険しい顔つきで一枚の紙を睨み付けていた。


「来たか、ケディ。待ちわびたぞ」

「いやぁ。緊急招集って聞いたので、急いで来たんですけど」


 ケディはその証拠に少し息を乱していた。ギルドの外は人々の混乱で、移動するにも骨が折れそうだ。彼は彼なりに急いで駆けつけたことがわかった。


「それで、緊急招集ってどういう事ですか? 外の混乱と何か関係があるんですか?」


 ケディからの質問に、ギルド長は一つゴホンと咳払いをした。


「その通りだ。領主様から直々に緊急のクエストを承ったのだ。この街を襲うモンスターの討伐だ」

「モンスターの討伐!? まさか、モンスターが街を襲いに来たと?」

「そうだ。そのモンスターの名は……」


“炎竜”


 一拍おいてギルド長の口からそう伝えられた。それを聞いた途端、緊張していた面持ちだったケディからは、その色が消えた。


「あの、ギルド長?」

「なんだ?」

「その依頼、僕に勧めるんですか?」

「そうだが?」

「なら……、僕の冒険者ランク知ってます?」

「Fだろ?」

「殺す気ですか、この野郎!!?」


 とうとう我慢できずにケディは声を荒げて、カウンターに乗り出した。


「ちょいちょい分かってましたよ!! 『ドラゴンが襲ってきた』って外で騒いでましたからね。それで、緊急招集がかけられたんじゃ、こうなるんだってことは!!」


 不満を捲し立てるケディに、ギルド長は深いため息を吐いた。


「いやぁね。俺だってお前みたいな弱い奴集めたく無かったよ? でもね? 今は平時じゃないのよ。猫でもネズミでもFランでも使えるものは使わないと……」

「てめぇ!! Fランク馬鹿にしてんじゃねぇ!!」


 敬語も使うことも忘れ、ブチ切れるケディにギルド長は更にため息を吐いた。


「まぁ、今のは冗談だ。本当だったらこの依頼は安全を考慮して、ランクB以上の冒険者数パーティに頼む予定だったんだよ」

「はぁ。それがなんで僕が出ることになるんですか」

「え〜と……、それはねぇ〜」


 ケディの招集理由になると、ギルド長は途端に後ろめたいことがあるのか、モジモジし始めた。


「大の大男がモジモジしてるの気持ち悪いんで、さっさと答えてもらえます?」

「あのね、今この街に正規のBランク冒険者がいないのよ」


 思わぬ答えにポカンと空いた口が塞がらず、顎が地面に届かんばかりだった。


「いやいや、おかしいでしょ!? ギルドの規定には、有事の際に備えてBランカー以上を最低5名有しておくことって! アンタの後ろに貼られてる経営規定の誓書に書いてあるでしょうが!!」

「いやぁね。ここ最近ずっと、その有事なことなんてなかったでしょ? それで遠征の依頼がここ数日立て続けに入ってきちゃったからさ。Bランク以上は全員向かわせちゃった」


 語尾に星がつきそうなウザい喋り方のギルド長に、ケディの怒りは加速した。


「なら、僕じゃなくて、“この違反者”が全責任もってドラゴンのお相手をすれば良いのでは?」


 ケディはゴミを見るような目でギルド長を睨み付けた。だが、ギルド長はやれやれと手を広げて、


「出来れば俺もそうしたいところだけど、ギルド長はギルド長で有事の際の責任が他にあるわけよ。他の街から冒険者を招集したりとか、遠征組を呼び戻したりとか。そして、依頼を受けない駄々っ子を説得したりとかね? これがさっさと終われば、俺もドラゴン退治に繰り出せるんだけど?」

「……ケッ!」


 ギルド長の切り返しには、ケディは口を紡ぐしかなかった。

 このままでは、このクエストを受けないといけない流れになってしまいそうだ。だが、Fランク冒険者がドラゴンと相対すれば、秒殺間違いなしだ。なんとかして、担当から外されなければとケディはなけなしの頭を振り絞った。


「さっき、安全第一って言ってましたよね? 僕のようなそこらの一般人と変わらない戦闘力を足したところで、無駄に死を増やすだけでしょ!」

「前線に人を配置するだけでも時間は稼げる。今は一刻を争っているんだ」

「なら、僕以外の人だっているじゃないですか!?」

「なら、お前はその言葉を子どもに言えるのか? 俺の代わりに死んで来いと、そう言えるか? 他の人だってそうだ。守るものを持つもの、そういった人たちがこの街には大勢暮らしている。だとすれば、俺はろくでなしの集まる冒険者にそう言うよ」

(なんで、こういう時だけまともな事をいうんだよ、このジジイ……)


 この路線で話してもダメだ。もっと他の方向から攻めなければ。


「そうだ! 衛兵に頼めばいいでしょう! 街を守るのが奴らの任務ですよね!?」

「衛兵は今、避難誘導に駆り出されてる。割ける人手はない」

「王国騎士団は!? 先週ここにやってきたでしょう!?」

「昨日補給を終えて去っていったよ」

「なんで、こう都合良く俺がクエストを受けざるを得ない状況が出来上がってるんだ!!」


 それがケディの魂の叫びだった。肩を落とすケディの肩を、ギルド長はポンポンと叩いた。


「仕方ねぇさ。男にゃ一生に一度の大一番ってものがあるんだ。気ィ張ってけ!」

「いや、元はと言えばアンタが全て悪いんだがな」

「心配すんな。さっき言ったろ? 正規のBランク冒険者はいないって。怪我はしてるが、うちで最強のSランクなら、今いるからよ!」


 ギルド長の言葉は暗雲から差し込んだ一筋の光だった。ケディはそっと胸を撫で下ろした。


「なんだよ。それならそうと先に言ってくれよ。討伐と謳いながら、俺をただドラゴンの餌にするための罰ゲームかと思ったよ」

「あまり期待させると悪いと思ったからよ」

「そういう期待はさせてくれよ、もっと」

「紹介するよ。Sランク冒険者のゼノンだ」


 ギルド長の紹介された先に立っていたのは、屈強な肉体の美丈夫だった。鍛え抜かれたその腕は背後に据えた大剣を軽々と振るってきたことが窺え、その体には歴戦を潜ってきた傷がまざまざと見せつけられた。

 ひと目見て最強の戦力だと分かった。ただ一つ問題なのは、


「あの、ギルド長? なんでこの人、松葉杖ついてんですか?」

「あ? だから言ったろ? 怪我してるってよ」

「いや、依頼受けるってんならもっと軽傷なのを想定してるんですよ、こっちは!! 何か大事をとって静養だとか! 何おもいっきり重傷者連れてきてるんですか!?」

「今は猫の手でも借りたい状況なんだよ」

「猫の手っていうか、完全に枷でしょ! 重傷者連れてたら完全に足手まといなんですよ!!」


「おい、お前」


 不満を垂れ流すケディに、Sランク冒険者のゼノンは口を開いた。何やら目つきが鋭い。流石に足手まといは言いすぎたかと内心ヒヤリとした。


「足引っ張るんじゃねぇぞ」

「いや、足引っ張るっていうか、足引きずってんのアンタでしょうが! そんな状態で足引っ張るのはどっちなのか、少しは考えてくれません!?」


 Sランクにもなると大怪我をしていても、こんな大柄な態度なのかと、ケディはゼノンの品格を疑った。


「というか、そもそもなんでそんな怪我負ったんですか? Sランクの人がこんな大怪我してるところ、あんまり見た事ないんですが」


 ケディの素朴な疑問に、ゼノンはハンッ鼻を鳴らした。


「お前程度じゃ、ドラゴンとの死闘を語っても理解できまい」

「は、ドラゴン?」

「炎竜だ。ドラゴンとの決闘は実に面白くてな。あの巨体から繰り出す攻撃をどういなすか。そして、間合いを図りいつ攻めるか。その命の綱渡りは何事にも変えがたいのだよ」

「え、それで結局その炎竜はどうしたんですか?」

「仕留め損なったよ。俺もこの怪我で追えなかったのでな」

「ってことは……?」


「今回の騒ぎ、全部コイツのせいじゃねぇか!!?」


 ケディは堪らず叫んだ。


「今回の炎竜、どう考えてもこのSランク馬鹿に復讐に来てんでしょうが! 闇雲にドラゴンに手ェだして、街に迷惑かけてんでしょうが!」

「おいゼノン、テメェ! ふざけてんじゃねぇぞ!!」


 ギルド長もゼノンに飛び掛かって、胸倉を掴んだ。


「さっさとこの騒ぎ止めてこい。さもねぇと、テメェを本当のドラゴンの餌にしてやるォ」


 違反を犯しているギルド長は後が無いのか、己の保身に必死のようだ。


「もう、どっちもドラゴンの餌で結構ですけどね」


 巻き込まれる側のケディにとっては、どちらもギルティである。


「よぅし。さっさとドラゴンを討伐してこい、ケディ。このSランク馬鹿とギルドが管理してる専用アイテム付きだ。なんとかなるだろ?」

「なるかよ!?」

「クエスト報酬は全部お前にくれてやる。一生に一度の大博打だ。勝って一獲千金の成り上がりか、負けて竜の胃袋か。悪くねぇ勝負じゃねぇか」

「せめて五分五分ならな! 勝ち目がゼロの負け戦なら超悪いわ!」


 ケディはどうしても行きたく無いので、まだゴネ続ける。だが、ゼノンは何故だかやる気のようで、ケディを肩に担いだ。


「腹を括れ。男の言い訳ほど見苦しいものはない」

「いや、アンタはもうちょっとドラゴンを嗾けた件を言い訳すれば!? あぁ、ちょっと!?」


 ケディはゼノンに担がれたまま戦場へと向かうのだった。


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