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ぶびれ!?
「この出会いに、感謝を。と、ゴース様は申しておりますね」
取りあえずグラスを合わせる。ゴース様の前に浮かんでいるゴース様のグラスにもだ。
「飲めるんですか?」
「ゴース様はお酒が好きよ?」
「神々は大体お酒好きね」
確かに、宙に浮かぶグラスに入っているワインの水位が下がっていくけどさ。
「随分刺激的なワインね、とても美味しいし驚いたわ」
「おつまみもいいわぁ。チーズって美味しいのね。それにこのベーコンも。しょっぱいだけのベーコンには飽き飽きしていたの」
その辺はうちのコックの力作です。
あ、お漬物はハイドライアド達が漬けてた奴ね。
ワインはDPで出した地球産のワイン。色々な旅番組や料理番組の映像を見たコアのお勧めだ。
「いくつか包んでおきますので、お土産にお持ち帰り下さい」
「まあ! ありがとう。嬉しいわ」
「迷惑をかけたのに申し訳ないわね」
テラス席でしばし盛り上がる。
「にじゅ…………べ………、ぬ……」
「あら、ゴース様もう酔っぱらってしまったの?」
「ゴース様はお酒が好きでも、強くはないから」
もうこの存在相手に、どっからツッコめばいいんだ!?
「マスター、室内の準備が整いました。テラス席のままにいたしますか? それとも中に上がって頂きましょうか」
「そうだな、中にご案内しましょうか」
料理を出すにしても、外より中の方がラッシーセルキー達が楽だし。
コアもそろそろ中に引っ込めたい。
「そ…………お……、ぬりゃばばばばじゃあああ!」
「それには及びませんとおっしゃっておりますね」
お、おう。まだ慣れないぞ。
「ウチもここでいいネ」
気が付くと、給仕のラッシーセルキーの膝の上に陣取るケレンセリッシュ様。
セルキーの顔が緊張で固まってるのが面白い。
「………………も………か、にゃるぶらがまばららららら…………ぶびれ」
ぶびれ?
「急な来訪にも丁寧な対応に感謝を、と。夜会のご準備もあるでしょうからそろそろお暇すると申しております」
ぶびれどこいった。
「プチバッフォ、この場合はお引止めするのが正解? それともお見送りするのが正解?」
小声で確認する。
「ゴース様の場合はお見送りしてよろしいですな」
プチバッフォも小声で返してくれる。
「ワタシは残るネ。もっと食べたいね」
ウサギさん、お腹ぽこんとなってますよ?
「あ…………げ………………る」
「あ、有難う御座います」
あ、神様からの授かりもの(変な意味じゃないよ?)を素で受け取ってしまった。
渡されたのは、ゴース様の神様としての刻印がはめ込まれたバッジだ。なんか勲章みたい。
「つ………………じゃらばらぶらべらぼらばがああ!」
近い!
若干びびってると、プチバッフォがオレのズボンを引っ張って胸元を指さす。
「これでよろしいでしょうか」
頂いたバッジを胸元に付けてみる。
それを見たゴース様は満足そうに、鼻息荒く後ろにのけぞると踵(?)を返した。
「それでは、私達もこれにて失礼いたします」
「素敵なお食事とお酒、有難う」
神龍のお二人も続くようだ。
「我が主、こちらを」
接待中に姿を消していたミリアが楽器ケースの様な箱を持って来た。
横にはロールされた布を持ったイービルドワーフと、恐らくお酒が入っているであろう樽を抱えたイービルドワーフ。
「どうぞお受け取り下さい。普段はお花やお酒をゴース様へ奉納しておりましたので、今回は一風変わった物をご用意させて頂きました。ラジェール様とエドランテ様には私やシヴィーのドレスで使用されている布をお送りさせて頂きます」
ミリアが丁寧に神々へと献上品を見せる。
「あら、気が利くわね」
「ゴース様には何かしら?」
なんだろう?
ミリアが箱を前に出して、オレに目で合図を送って来る。
オレが開けるのか。
「おお」
「…………びるびる! びるびるびるびる! びるびるびるびるびるびるびるびるびる!!」
そこにあったのは杖置きだ。イービルドーワーフかドワッジか、どちらかが作った物だろう。いんぐらんどなじぇんとるめんが洒落たバーで杖を置くような二股の足の杖置き。
今お使いの傘立てっぽいのものとは、また違う雰囲気である。
要所に金や銀を使い、豪華に見える。直接ゴース様のお体に当たる部分には布が当てられている。
「えっと、お受け取り頂けますでしょうか?」
「………………………ぷわ~~ん!」
「あ」
「あら」
「まあまあ」
…………ゴース様から加護貰っちゃった。
「ごじゃ…………どりゅばじゃじゃ! ……はっ! …………じゅりゅー…………」
「このようなお返ししか出来ず、申し訳ない。とゴース様が仰っております」
「いえ、加護を頂けるとは思いもよりませんでした。有難う御座います」
オレが跪くと、魔物もみんな跪く。
「…………じゅりゅー」
じゅりゅー?
「それでは失礼致します。素敵なお土産有難う」
「用意してくれた方にもお礼を言っておいて下さいね」
3柱の神々は今度こそゲートを超えて消えていった。
「キミ、儲けたネ。ウチのお土産も期待ネ」
貴女も一緒に帰っていいんですよ?




