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降り始めに効く!
「…雨はどうしたネ」
「や、魔力が足りなくて」
オレの言葉にウサギ様が溜息を吐き、エメラ様が困ったように笑顔をした。
うん、気持ちは分かります。
「不味いなぁ」
鼻をつまんで一気に魔法薬を飲み込む。
そしてまた、すぐに回復が始まる。
「ケレンセリッシュ様、エメラ様」
ドライアド婆ちゃんのリリアだ。
「お二人とも、マスターが雨を降らせられたら濡れてしまいます。別荘のテラスに移動なさいませんか?」
「それもそうネ、気が利くネ」
「流石年の功ね」
その婆ちゃん生後3日目で、見た目通りの年齢じゃないぞ。
「スレイプニルに馬車を轢かせて参ります、しばらくお時間を頂けますか?」
それ、ドワッジかイービルドワーフが今から作るんだよね…。
二柱もそれが分かっているのか笑いながら頷いた。
「コア、ラッシーセルキー達にお二方が向かう旨伝えて貰っていい?」
『りょーかい。お茶とお茶菓子相談しとけばいいんだな』
「さすが、わかってる。ついでに一緒にお茶をしてくるともっとありがたい」
コアはここの代表者の一人だからな。
『おう、それは今度な!』
「言うと思ったよ。星丸、烏天狗いくぞー」
『ぎゃうる!』
「はっ!」
オレは再び踏み台から星丸に跨って、上空へと移動を開始する。
「しかし、個人の力で雨を降らすなど想像だに出来ませんな。某達のマスターは恐るべき魔法の達人のようです」
烏天狗が軽口を叩く。
「高い所まで行ければ多分みんな出来ると思うぞ。ただ仕組みを知っているか知らないかだな」
小学校だか中学校だか高校だか分からないが、理科だか科学だかで勉強してるはずだ。まあ授業でやったから覚えたのではなく、テレビの気象情報で覚えたとは思うけど。
「雨に仕組みがあると? 【天空神エストラルディア】様の恵みや怒りなのでは?」
どうやらここの世界では雨は神様の御業と思われているらしい。
「神様が実際に起こしている例もあるかもだけど、オレが知っているのはまた別だな」
「左様で御座いますか」
暖かい海からあがった水蒸気が、上空で密集してうんぬんかんぬんだ。
漠然と知っている。そして多分出来る。
とりあえず魔法で加護を乗せた水蒸気をたんまり作って4F全体を覆えば、あとは勝手に降るはずだ。
「取りあえずどうなるかわからないから、結構しっかり高い位置へ行くぞ」
『ぎゃう!』
星丸が返事をする。
「なあコア。上空何メートルくらいがいいんだ?」
『めっちゃ幅があるぞ、マスターの世界でも結局正確な数字は出なかったな。まあ2,3kmくらいで問題ないぜ? ただ雲の中の気温下げ過ぎると雹になったり雪になったりするからそこに気を付ければ問題ない』
さすがコア。150年もの間の情報収集は半端ないな。
「そこまで飛べるか?」
『ぎゃう!』
「問題御座いません」
星丸が加速し、やや遅れる形で烏天狗が続く。
「…少し寒いな。コア、コートかジャンパー頂戴」
『はいはい』
ぬくいー。
「さて、やるかな」
先ほどと同じように魔力を活性化させる。加護をしっかり乗せるのも忘れない。
「まず、足元…ここより少し低い位置に雨雲を分厚く生成する」
右手に集中していた魔力が、手のひらから放出されるとともに大量の水蒸気へと変化していく。
「4F全体に張り巡らせると流石に時間がかかるな」
『一応順調だぞ、ただ足元に少し集中しすぎてるな。もうちょっと全体的に行きわたる様に調整しろよ』
「んー? 難しいな。星丸、この高さをキープして走り回れ」
『ぎゃう!』
水蒸気を噴出させながら、そこらじゅうを移動する。やっべ、すげえ早い!
『厚みが出て来たな。上手く雲になって来てるようだ』
おー、本当に出来るみたいだな。
「雲の厚みで地上が見えなくなってきたな。そろそろ降り出すか?」
『もうちょっとだな。地上はだいぶ暗くなってきてるけど。星丸、次あっち。2kmほどダッシュだ。あたしは風を起こしてかき混ぜるぞ。暖かい空気とぶつけるといいんだよな』
WEB情報を見て知識を得てるコアに隙は無い。
「そんな感じだったと思う。星丸、もうちょっとだ、頑張れ」
オレは今魔力の放出を維持するだけだ。加護を切らせないように集中はしているが、水蒸気を発生させるという魔法自体はそこまで難易度が高いとも思えないから余裕がある。
『ぎゃおう! ぎゃうぎゃう!』
どちらかと言えば、コアの指示で水蒸気、というか雲の厚みが足りない場所へ飛び回っている星丸のが大変そうだ。楽しそうだけど。
『マスター、降り始めたぞ』
「そうか。成功だな」
『おめでとさん。じゃあ下に戻るか?』
「濡れるから飛ぶわ。テレポートで神々のいるテラスに移動することにする」
『おけ』
「…某はこちらに残ります、マスターの魔法で移動など恐れ多い」
『ぎゃうるん』
星丸も頷く。
「別に気にするもんでもないんだがな。じゃあまた後で。二人ともありがとう」
無理強いする物でもない。
オレは二人を高い空の上においたまま、テレポートする事にした。




