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冒険者は脳筋。
『オイ、マスター。外の連中の様子が変だぞ』
「なんだと? 突入は明るくなってからだと思ったが」
人間は夜中に働かないもんなんだが。
塔の前の連中が騒いでいる。
「ボリュームあげるか」
ダンジョン作成に集中する為、音を切っておいた。
だって悪口が酷いんだもん。
「おい、扉はまだ開かねえのかよ!」
「開け方がわかんねえから開かずの塔なんだろ? ちったあてめえが考えろよ!」
「殴ってもダメだ! 殴りつけた道具がぶっ壊れちまう」
「ヒントねえのかヒント!」
「冒険者だろ!? なんとかしろよ!」
「あんた斥候でしょ? 早く開けて来なさいよ!」
何人もの人が扉の前で何やら作業をしている。
ファンタジーを実感する色々な種族がいてちょっと感動。
角度を変えて見てみるが、どいつも扉に何か仕掛けがあるのではと探っている様子だ。
『扉の謎がわかんねえみてえだな』
コアの言葉にオレは頷く。
だけど楽観視は出来ない。
「噴水のマークに気づいてないのか? 井戸に投げ入れる石は塔の周りに落ちてるんだが」
この石を調べている男もいる。
すべての石を1箇所に集めて何やら魔法をかけたり、叩いたりしている。
『あの石は神の力でもない限り壊せねーのにな』
「壊すのが目的じゃないかもしれないな。気づかれるかもしれん」
『厄介だな、魔物を嗾けよーぜ』
「人間の街に魔物を送り込むのは気が引けるよ…」
オレも人間だ。
『元な』
人間やめたつもりはないぞ!?
「いい加減にせぬか! 時間を考えよ!」
モニターに新しい人物が映りこむ。
「今は夜間、寝ている人間も多くおるのだ! 騒ぐだけならば牢にぶち込むぞ!」
装備の整った兵士? 30人近い人数の中心にいる40代の男が声を上げる。
「隊長さんよ! そうは言うがな!」
「塔の扉を開こうとする事を邪魔するつもりはない! 静かにやれと言っているのだ。塔の周りは店が多いが寝ていない人間がいない訳ではないんだぞ」
「ぐぬ…」
「だがな」
「塔がダンジョンではないかと言う疑惑は以前からあった、扉を開くのもギルドにて依頼が掛かっている。やるのは構わん。だが時間を考えよ」
そう言って隊長と呼ばれた男は周りの兵士に指示を出して人を配置していく。
「懸念の通り塔から魔物が出たら我等で対応をする。ついでに騒がしい者はしょっぴくからそのつもりでいるがいい」
その話を聞いた塔の周りに集まっていた人間を解散させていく。
「斥候の技術のある冒険者達は引き続き調査をしてくれ、後程こちらの調査員も到着する。調べた内容を纏めておいてくれるか? 領主様から報酬を出して貰えるように交渉しておく」
「了解だ」
「この街が出来た当初から開いたことのない扉ではあるが、何人もの人間が開けなかった扉でもある。今までは塔に人影など確認されなかったが、今日は確認された。街での異常の件もある、十分に気を付けてくれ」
冒険者の何人かが頷いている。
「扉が開いてもむやみに中に入らないようにしてくれると助かるが…」
「大丈夫だ、残ってるのは斥候職の人間と…ざっと見た感じ実力のあるチームの人間はいない。俺達も命は惜しいからな。入るなら万全の準備をしてからだ」
「そうか、助かる。開いたらこいつに声をかけてくれ。領主の館へ走らせる。お前も頼んだぞ」
「はっ! 」
隊長さんはそう言って、他にも何人かに声をかけていく。
兵士はもちろんのこと、塔の周りに集まっていた人間達も大人しく言う事を聞いている。
人望のある人物のようだ。
あらかた声をかけ終わったのか、隊長さんは塔から離れていく。
「モニターで追跡だ」
『だな』
サブモニターを塔の前にしておいて、メインモニターで隊長をトレースすることにした。




