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にーろいっぷは9999のだめーじをうけた!
「お待たせいたしました、ニーロイップ様、マスター」
ニーロイップ様のトークショーが1時間弱続き、うんざりしていると、満面の笑みでラッシーセルキーの一人が部屋に入ってきた。
「こちらにお連れしようとも思ったのですが、シエルの服装を考慮したうえで登場にも趣向をこらしました。つきましては、玄関ホールまで足をお運び頂ければと思います」
「行こう」
早いなニーロイップ様!
「マスター歩、いつまで座っておる。さあ立て、行くぞ」
「あー、はい。すいません……」
すぐ動くんで引っ張らないで下さい。
あといつの間にやら歩呼びになってるし。
「むう」
オレの横に付けないシヴィーがすっごい不満な表情を見せる。
「やあ楽しみだなぁ」
「あの、シエルは普通のメイドなので過度な期待は」
「衣装を見に来たのだ、別に魔物を見に来た訳ではない」
すっげえ顔はいいのにスキップしないで欲しい。
「ここか? ここだな!」
「到着です」
浮島の屋敷の玄関ホール。塔のダンジョンの中にある屋敷と比べると狭いのだが、豪邸の玄関ホールであることは変わらない。
「こちらでお待ち下さい。照明を落としますね」
薄暗くなる玄関ホール、2階へ上がる階段の左側にスポットライトが集中する。
「え? え? こんな設備あったっけ?」
「静かにっ!」
ニーロイップ様に怒られた。
ライトの大本に目を向けると、大きな筒を持ったウィザードガーゴイルが光の魔法を放っている。
ご苦労様です。
「リーダー、お願いします」
……出てこない。
「リーダー、往生際が悪いですよ。ニーロイップ様もお待ちです」
……出てこない。
「マスター、ご命令を」
「はぁ。シエル、ゆっくりでいいからこちらに出てきて」
「…………………………はい」
すっごいか細い声が返ってくると、シエルがゆっくりとスポットライトの中に登場。
「おお!」
シヴィーやミリアと比べると小さいシエルだが、ヒールを履いて背筋が伸びた格好は素直に綺麗だ。
ウェーブがかった青く長い髪が歩に合わせて揺れる。
黒を基調としたミニのドレス、胸やおへそはきちんと隠れているが、長くすらりと伸びた手足。
「美しい……そうか、これが芸術的なドレスか……」
目を見開き、涙を流しながらも、瞬きもせずに見つめるニーロイップ様。
「着ている人間をもっとも美しく見える様に作られたドレスか。今までのドレスは権威や財力を見せつけるべく、ふんだんに布を使い、アクセサリーを付け、従者にスカートを持たせて……。そもそもドレスは衣服なのだ、一人では歩くことも困難な重さのドレスなど飾り鎧などと変わらない、そうだな?」
「え? いや、えっと……」
「いや、何も言うまい……そうだ、私は芸術の神なのだ。ドレスは着る人間も含めてドレスなのだ。ドレスは見せつける物ではない、着る者を着飾り、着る者がいて初めて完成する芸術なのだ……」
ぎこちない笑顔を浮かべ、階段の手すりを掴みながらおっかなびっくり降りてきたシエルがオレ達の前に立ちゆっくりと礼をした。
「え!?」
目の前に立って、初めてニーロイップ様が泣いてる事に気づくシエル。
そんなシエルの顔を見つめ、ゆっくりとシエルの手を取るニーロイップ様。
「ありがとう……私は新たな世界へと旅立てる」
「あの、えっと……」
うん、わけわからないよね。
「マスター歩、従者シエル。それに2人とも」
「はっ」
「素晴らしい経験をさせて貰った、礼を言う。私はこれから二人の女神のドレスを作らねばならない、今日は失礼させていただこう」
.
「いえ、大したおもてなしも出来ず」
「これ以上の歓待を受けたら、私は君達に報いることが出来ない」
首を左右に振るニーロイップ様。
「そうでしたか、私やフィル……男性従者の衣装なども意見をもらえればと思ったのですが」
「だ、男性用!?」
目を見開き涎を垂らす神様。何この神様超面白い。
「衣装に合わせたアクセサリーなどの宝飾類も御座いますし……」
「い、いやいや! 本当に時間がないのだ! 何せ二人の衣装を作らねば」
「そうですか、残念です……ではまた足を運んで頂ければ」
「そうだな! いやあ残念だ! 時間があればなぁ!」
「そうですね、残念ですね。コロや星丸達獣型の魔物の衣装もあったのですが」
「け、獣がたぁ!? ど、どのような!? どのような衣装があるのかね!? ぜ、ぜひ……はっ! いかんいかん。時間が、時間がないのだよ!」
「そうですね、では有難うございました。衣裳部屋は今度ご案内致しますね」
「いしょうべやあああああああああ!!」
ゲフッ! と吐血をきたし倒れこむ神様。
え、そこまで?
 




