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グレるコアと諦めるマスター
『オイ、起きろマスター!』
「っつう………なんだ、頭いてえ…」
二日酔いのように頭が痛い。
『凍結はもう解除したんだ。さっさと起きろ』
「なんだこのガラの悪い声は」
一昔前のヤンキー女子じゃねえか。
『ガラが悪くて悪かったな! いいからさっさと起きねーか腐れマスター!』
「起きたよ…誰だお前」
『大事な相棒の事を忘れるとは、素晴らしい記憶力だな腐れマスター』
「てかダンジョン! ドラゴンどうなった!?」
慌てて屋上への階段を走り外を見に行く。
『あ!? おい、こら! まて!』
「阿呆! 外がまずいんだよ! 」
コア(?)の声を尻目にオレは外に出て屋上の縁から身を乗り出す。
「まじか…なんだこれ」
オレの視界に…塔の眼下に広がるのは草原ではなかった。
「街が出来てやがる…」
塔の周りには柵が設けられ、オレの設置した噴水を中心に放射状の道が広がっている。
大きな建物、豪華な建物が立ち並んだ地区では、多くの馬車が行き来しており、歩いている人間も多数見える。
草原だった部分すべてに街があるわけではないが、設置しておいた井戸の先くらいまでは建物が続いていた。
『腐れマスター、すげえぞ。侵入者だらけだ。塔は包囲されている。どうする? 死ぬか。死ぬしかねえなマスターよ』
「マジだ…どうする………逃げるか」
『コアのあたしにダンジョンの権限をうつさねーとマスターはダンジョンから出れねーよ。ほら、300万DP払え。ちなみに所持DPは550な』
「なんじゃそりゃ…オレはどんだけ寝てたんだよ…」
ペナルティ食らったら街が出来たとか最悪だ。
『ペナルティ期間、ダンジョンの修復しかしてなかったからなぁ。マスターが凍結されてたせいで外の様子とかわかんねーし。あ、黄金龍に吹き飛ばされた井戸も復活してるから塔に人間がわんさか入ってくるな。こりゃあ死んだなマスター♪』
うああああ! 最悪だ! これだけの街が出来ていればあの程度の謎解きなんかクリアされるに決まってる!
「ん? なんか下が騒がしいぞ。こっち指さしてる? 遠くて見えないな」
『マスターの事に気づいたんじゃねえの? てかコアルームから出せよ。あたしも見てえ』
忘れてた。
オレはコアルームに足を運んでコアを手に持つ。
『おう、大事に運べよ』
「マジでお前がコアか、昨日まではとても純真な子だったのに」
『暇だったんだよ。あと昨日じゃねえし』
オレの感覚では昨日なんだ。てか性格が変わるほど暇だったのか!
「オレどのくらい寝て…止まってたんだ」
『ざっと150年くらいだ』
「ひゃく…」
どんだけペナルティ重いんだ! てかなんで150年も生きてんだ!
『あたしのおかげで今まで死なずにすんだんだ。感謝しな。と言いてえところだが、ありゃあたしの人生での最大の汚点だわ。さっさと死んで貰って新しいマスターを迎え入れるなり別のダンジョンのコアになりゃ良かった』
「酷いなオイ」
『酷いのはマスターの顔だ。顔くらい洗えよ汚え』
「さっきより酷い! だが顔を洗うのは賛成だ!」
部屋に戻ることに。
「あー、コア君。水を頼む」
『あ? 550DPしかねえのにそんなもんで使うのかよ。魔石あるだろ魔石』
「使えねえんだって! あれ? 水出る」
目を向けると、魔石から水が出てくる。
『魂の定着が済んだんだろ、150年もいるからな。見た目もかなり変わってるぞ』
「…おお、そういえば背が縮んでるような」
視界が低い。他に異常がないか見てみると。
「スーツとサイフがボロボロだな」
というか風化してる。
『ずっと置きっぱなしだからな。DPで獲得した物は守れるがそれ以外の物はダメだ』
「…使えないけど、スマフォも消えた」
『そりゃあたしが貰ったわ。いい暇つぶしになったぜ? 80年くらいでデータ更新出来なくなった
けど中のアプリは今でも使える』
「充電は!?」
『DP』
「てめえ! 水はケチる癖にスマフォで使ってるのか!」
『それよりもこの状況だ。周りは人間の侵入者。ようやくマスターとおさらば出来るんだ。ほれ、紙とペンなら出してやるから遺書でも書きな』
そうだった! どうするか!?
「待て待て待て! コア! 協力しろ!」
『はあ? 550DPぽっちでなにするんだよ。ゴブリン55匹出すか? 結局ダンマス殺されてハッピーエンドだろ。あたしがここ150年ばかり、毎日毎日毎日少ないDP使って修復ばっか。飽きたんだよ、もっとドカンとDP使いてえんだよ! 新しいマスターについて存分にDP使うんだ。さっさと殺されて来いよ』
こいつ口だけじゃなく性格も悪い!
「えーっと、ほら…ああ…どうするか!?」
『1Fまで行って扉開けたら人間様のご到着だ。そこでリンチにあって来たらどうだ?』
「やだよ!」
『じゃあ屋上から投身自殺だな』
「舐めんな!」
『しゃあねえなあ。ロープだしてやるからクビ括れ。1DPでいいぞ』
「ふざけんなああああ!」
はぁはぁ。
『我儘だなマスター。糞だ死ね』
「ストレートに悪口言うよなお前! どこで覚えた!」
『マスターのスマフォ、ヤンキー漫画っておもしれ―よな』
「一番影響受けたら親が泣く奴じゃねえか!! 」
ダメだ、ツッコミが追い付かねえ。
『マスター』
「なんだコア…」
『死ね』
「お前さっきからソレばっかだな! てかここに人間が攻めてきたらお前も一緒に壊されるだろ、街の中のダンジョンとか危ないことこの上ないし」
『………』
「………」
『どどどどうすんだよマスター!? なんかないのかよ! 何とかしろよ! お前だけ殺されろよ! 』
「普通に考えて共倒れだろうが! なんで思いもよらないみたいな声出してんだ!」
『アホか!! あたしはここ150年、マスターから解放されたらどんな人生送ろうか考えに考えてたんだぞ! 起きたらさっさと独立するんだ! 300万DPよこせ!』
「はっはっはっー、残念だったな! 一緒に死のうぜ! 何! 死ぬ前にお前のこともきっちりコアだって説明してやるからな」
『ふざけんなマスター!! こっちは150年間汗水たらしてダンジョン直して、それで終わりかよ!? ふざけんな! ふざけんなマスター!!』
「何回ふざけんな言ってんだ! 第一汗なんか掻かないだろ! そもそもお前が井戸の修復するからだろ! 周りの状況考えろよ!」
『む~り~! どっかの間抜けなマスターが監視網作る前に沈んだから周りの状況なんか見れねーよ! あと汗水は比喩だ! 修復しねえと糞マスターが寝っぱなしだから直したにすぎねえし!』
「わかってますー! 皮肉ですー! ええ、ええ! ご迷惑をおかけしましたね!」
実際問題、どうする?
このままここにいたら人間に攻め込まれて確実に死ぬ。
そりゃあもう確実にだ!
「よし、コア。DPを使うぞ」
『おお!? なんか良い案でもあったか!?』
うむ。この状況下で最適な答えだ。
「550DP使って出せるだけの豪勢な食事を出してくれ」
『最後の晩餐じゃねえか! くたばれ糞マスター!!』
なかなかに個性的なコアになってくれたから楽しいが、もう人生はピリオドだ。
もう最後の食事を楽しむ事にしよう。
…まだ朝だけど。




