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未確認な探索者っぽい物体のレポート  作者: うんしょっ、こらしょう
その1
2/18

02 こんな感じで探索者

本日、二話目。


俺の学生としての生活に目立ったとこも無いわけで、特に記すとこはないと思う。


普通の学生として勉強し、普通の学生としてダンジョンに潜る。


俺を含め学生にはそれぞれ個性はあるのは確かだが、魔石から魔力を得るシステムの都合上個人でダンジョン活動をするため、逆に言えば他の学生のダンジョン活動の説明の方が難しいのだ。


ついでに言えば、ダンジョン攻略法はその個人の知的財産だ。他人に真似され致命的に困るとかな部分は少ないが、一応、生きるか死ぬかな環境での行動を、他人にどうこう言われるのを気分良く聞ける奴は少ないと思うんだ。




特に、時には自分勝手な妄想を現実と勘違いしてる奴ほど、『あーすれば良い、こーすれば効率的だった』とか変な感想の押しつけが面倒臭いし。




それでも俺の活動内容を記すとすれば、俺の場合、ダンジョンに直接踏み出すのは最初の数歩だけ……という感じになる。


これは俺のスキルでの特性からだ。


……と、その前にスキル自体の説明も必要だろうか。




スキルとは、人間がダンジョン内で活動しやすいよう発現した人の新たな可能性だ……と一般教養で教わる。


現象としては、魔法、超能力、異能、と人が想像した人外の能力のオンパレードで、コレだっと代表例を上げることすら難しい。


ただ大衆的というか俗っぽいというか、人としての身体能力がそのまま上昇していくタイプは比較的に多い。その結果、人体ではどうやっても出すのが無理な動きや威力に化けるので、何処までを俗っぽいと称していいかは悩むとこだが。




次に多いのは、いわゆるファンタジーな感じの魔法型。火水土風の属性がついた射撃放出系の遠隔攻撃ってタイプが多いはず。これは現在の社会インフラを支える生活系魔術を覚える流れから発展したって感じらしい。




そして最後に、『それ以外』。冗談ではなく本当の区分けだ。毎月のように変なスキルが発現するそうで、管理側は


早々と区分けを放棄したらしい。


実際の実例を上げるにしても、ちょっと難しい。この部分も例の知的財産な解釈が関係してて非公開が基本だからだ。俺の家族や友人の例を上げることは可能だが、それだと俺の心情的に逆に言いたくない内容だしなー。




ああそうだ。ここで自分のを挿しこむとよう。ぶっちゃけると、どうせバレたところで問題も起こり難いし。




さて、学校側には表向きの記録として、俺のスキルは『地系魔術』としている。これは魔物との戦闘でダンジョンの床や壁からトラバサミっぽい金属の牙が生えそろった大口を出し、噛みつかせて魔物を攻撃するからだ。


土や岩を空中に生じさせて射撃するといったことはできないので、土系の属性魔術とは別枠扱いとなったがの命名となる。


が、実際は違う。


大口は地面から生やすのではなく、そこを境界にして別の次元へと潜行しているのだ。絶えず俺を中心にして存在し、別の次元へと隠れているわけだ。


名称は[キャトるさん]。金属質で人間より大きいサイズのどら焼きに口がついている風の円盤だ。


これは俺の意思で操作可能。逆に言うと、戦闘時は絶えず効果的な位置取りを考えて配置しとかないと無用の長物と化す扱いの、難しい攻撃手段といえる。


だから基本、俺はそれに集中できるような場所に避難しつつの行動を心がける。




意識すれば足下に、ダンジョンの床を透過するように筒が迫り出してくる。俺の膝丈で止まったら筒の先端がパカリと蓋となって開き、その中の謎の空間的な渦を露わにする。


ここが、入り口だ。


俺は当然といった感じにその渦へと足を踏み込むと、足下にエレベーターの床でもあるかな動きで、スルスルと渦に呑みこまれた。


頭が渦を通過する時に一瞬視界が暗転したが、次の瞬間には何処か古臭い感じの未来的デザインという矛盾した感じの狭いコクピットに居るのを自覚する。


これが、俺のスキルの中の情景だ。


日本語的に漢字で評すれば『次元潜行艇』となるのだろう。だが俺の命名としては、このスキルを『グレイシップ』と呼んでいる。


この理由はこの潜行艇の外観のせいだ。


なんというか、大昔のアレに似ているのだ。


いわゆる未確認飛行物体、UFOと呼ばれた感じのに。


今現在は前後に長い紡錘形で葉巻型UFOか独り乗りの小型潜水艦な感じだが、一番最初に出た時の形は完全にアダムスキー型だった。しかもまるで、『小さな灰色宇宙人(リトルグレイ)』の顔っぽいものまで付いてたのだから、俺がそう名付けるのも仕方のないことだったのだと言いたい。


先程の[キャトるさん]はこの船に付属するオプション武装だ。見た目完全に分離していて、さっきも言ったとおり俺の意思に反応して自在に動き攻撃する。


自分自身は相手から攻撃されない別の次元に姿を隠し、こちらからは絶えず不意打ちのように攻撃する。それが俺のスキルの全様だ。


人聞き的には随分と悪い印象な感じでも、安全第一でダンジョン活動ができる利点は捨てがたい魅力なので、別にバレようと俺は気にしない。


面倒は避けたいので積極的に公開もしないが。


それに、このスキルは手放しで称賛するには少し困った部分もあるのだ。それ否応無しに対処する身となってみれば、『こそこそ楽にしやがって』的な下手な言いがかりは迷惑でしかない。だからそういう部分を避けるためにも、世間には無難なスキルと誤解させ活動してる俺なのである。






お、第一魔物さんをば発見。丁度いい、これを題材に実演してみよう。






別の次元とはいえ、感覚的に隣り合って接していると認識してるからか、[グレイシップ]は結構ダンジョン内の物音を信号として拾えたりする。このグレイシップには正にそんな潜水艦っぽい感じの性能がある。


パッシブな音響で魔物を探知するのにはもう慣れた。今ではその聞き分けで大体なサイズも分かる。


ただ正確な体型までは判別できないので、そこをアクティブソナーっぽい探知能力で確認した。魔物自体には謎の反応として伝わるので警戒させることになるが、狩る対象の確認はそれ以上に優先する部分なのだ。






というわけで、確認完了。推定オーク・94%。






これなら得物としては最適だ。


このスキルのデメリットを払拭……かどうかは判断しきれないが、一応納得できる気分にはなれる。


武装オプション・俺命名『キャトるさん1号』をオークの真下に配置。懐かしき古典映画の大ザメな感じに、鋭い牙を並べた口を開口して襲いかからせた。


まだ先程のソナーの影響でオークの警戒は解けてないが、流石に足下の異次元からの攻撃は想定外ってことで、見事にその片脚を腿の付け根まで呑みこみ、“ボキブチリッ”と生き物が本能的に恐怖する破壊音をたてて咬み千切った。


[キャトるさん]と俺とは精神的な感覚で繋がってるせいか、咬み千切り攻撃のダメージに絶叫するオークの悲鳴が聞こえ過ぎるほどに内耳に響く。


この攻撃は一撃離脱が基本なので[キャトるさん]は再び潜行。ダンジョン内には部位欠損で片脚を失い、床をのたうち回るだけの行動不能となったオークのみが残された。






魔物って死ねば魔素の塵と化すくせに、その前までは異様に生物臭いんだよなあ。






そんな感想を抱きつつも、攻撃を続ける。


さっき[キャトるさん]を番号呼びしたように、キャトるさんは一つではない。次は2号の攻撃である。


オークの片脚を奪い横倒しにするのは予定してたので、予めオークの背後に置いといたキャトルさん2号でのトドメだ。


頭部を左右から挟みこむように再び牙の並ぶ大口が床からせり上がり、“バクリ”と閉じたら瞬間、のた打ち回るオークの動きが止まる。そのままビクリっビクリと二度程全身を痙攣させたら突然風船のように身体を膨れさせ破裂。みるみる紫の残光を漂わせた魔素の塵になり、跡形も無く消滅した。


いや少し訂正。身体は消滅したが散る魔素の一部が一箇所に集まり物質化、紫水晶のような結晶と化す。それが床にコロンと転がったと思えば宙に消え、次の瞬間には[グレイシップ]内の俺の手の中へと落ちてきた。




これが魔石だ。普通ドロップ品はその場に落ちるのに対して、何故か魔石だけはライトアタックの対象者の手元に転移してくるんだよな。




そして、地味に俺が恐怖する時間がくる。




“どちゃっ”




そんな湿り気たっぷりの音が直ぐ背後でする。


次いで、もの凄く錆生臭い異臭が満ちる。


いまだに慣れないこの感覚だが、一応世間的に言えばコレは当りスキルらしい。……ほんと慣れないが。


厭々ながらも背後に視線を向ければ、コクピットの後ろ半分を全体的に赤い斑点で染める血飛沫で彩った肉塊。鑑定すれば『オークの腿肉・高品質』とでも出るのが転がっていた。


魔物に部位破壊を与えた場合に高確率で発生するボーナス素材ドロップである。


俺の攻撃手段の特性上、実によく発生するものでもある。さらに言えば、キャトるさんで千切ったものは本体であるこの船内に転送される仕様なので取りっぱぐれもないという探索者にとっては有益過ぎる内容となっている。


……この、ホラーちっくな演出仕様さえ無ければなー……。




とはいえ、一番最初の頃から比べればこれでもマイルドになったんだ。




今出たドロップはモノが新鮮過ぎるが一応肉屋に並べる感じに整っている。血抜きは済んでるし表面の皮や脂肪の部分も除外済みだ。たぶん、このままスキルを成長させれば将来的にはいい感じに熟成もさせれるんじゃないかとも想像している。


だが、最初は本当に酷かった。


新鮮は新鮮だが、腕なら腕、脚なら脚の、その部位のまんまだった。もう千切りたてで元気にビクンビクンしてくれやがって俺の後頭部も含めコクピットが真っ赤に染まった。


しかも後になって知ったが、一般的な魔物肉のドロップ品は精肉加工済みに近い状態だったりした。そこへ正にぶつ切りバラバラ死体状態の部位丸ごとを店売りしようとした時の気まずさと言ったら……。


スキルの成長にしたがい『オプション・オート血抜き』や『オプション・成型』と正気を疑う選択肢が脳裏に出たのには本気で驚いたが、必要に駆られるものであったので速攻で選んだのも事実だったりする。


そうしてスキルを鍛えた成果が今、俺の背後にあるモノ。これなら売るも良し、庭先の自前の竃でBBQも良しの美品となる。


まあ今は抜ききれなかった血と肉々しい臭気を放つ代物だが。




片脚一本分の精肉なので、学生の一日の稼ぎとしてはもう充分と言える。が、獲得した魔石がたった一個では話にならない。


結局、充分量といえる魔石のためには、今日もこのコクピットの中は肉で埋まることになるのだろう。


生臭いけど儲かる。儲かるけど生臭い。


ホントに悩ましい。




ちなみに、俺の意識に部位破壊ボーナスを狙わないという選択は無い。


学生には金が必要なのだ。


未熟な精神は誘惑に弱い。それを下手に抑えれば、将来妙な精神的疾患を抱えた大人になりかねないのだ。


故に、今は誘惑に負けまくれる自由のため軍資金が多いに越したことは無いのである。




さて、ナマモノなドロップ品と隣り合わせで活動する都合上、食用の魔物肉が一番無難だというのが、現在の俺の感想となる。


これより高額なモノは、現在とれる選択肢の中で他にもあるんだが……生モノ限定だとなー……、他はちょっと、精神的にくるものも多くて、可能ならば避けたいのが本心。


ということで、今日も可能な限りオークを集中して狙い大量の肉……もとい、魔石とそのドロップ品をゲットして終わる。


ダンジョンから出る時に、成果の工作として組み立て式のキャスターに肉を幾つか乗せ換金用とする。個人の成果として適性かは少々悩むが、そこはスキルの秘匿性を便利に使う。換金分から外したものは自家消化か、御近所に配るか地元の肉屋にこっそり卸すかだ。


幸い、俺の実力に関しては誤魔化しが成功してるようで、変なトラブルも無い。


素材買い取り窓口の担当のお姉さんの視線が虚ろだが、特に注意も無いし平気だろう。




とりあえずは、このスキルの良い部分を活かし、無事卒業するのが今の俺の目標だ。


この系統のスキルなら歳を経て衰えるとか関係無いから息の永い探索者をやれる。となると自営の自由業ってことで学歴もあまり大事じゃないし、下手に目立つことでのトラブル抱えて強制引退って方向さえ避けれれば良いのだから。







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