表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その英雄、機械仕掛けにつき  作者: 24
第一部 憎むべき隣人たち
16/28

報告書16 少女の記憶

リスティが敬語じゃないのなんかすき

「あー疲れた、あんな大物がいるなんて聞いてないわよ。ねぇリスティ」


「でも倒せてよかったよ。壁の近くだったら危なかった」


「そりゃそうだけど……」


「無駄話は後にしろ、帰るぞ」


「はい隊長!」


 リスティたちの小隊の今日の仕事は《圏外》の探索。近隣に厄介な《機械》がいないか、《内地》の勢力地を増やすことが出来ないか、それらの視察が目的だ。


 普段ならば問題なし、ただし勢力地を増やすことは難しいという結論で終わるのだが、今回は話が違った。初めて見るタイプの大型機械、《重機型》とでも呼ぶべき相手が、近隣の建物を破壊していたのである。


 巨腕を自在に振るう《重機型》をナールとリスティが囮になっている隙に、小隊で一番の俊足を誇る無口な仕事人、アルフレッドが素早くコアに取りつき、レナード隊長との連携でもって破壊したのだ。どうして初見の《機械》のコアが分かったのか、アルフレッドは相変わらず無口故に語ろうとはしない。


「しかし初めて見た相手に、しっかり戦えましたね……」


「……何言ってんのよリスティ? あの《重機型》なら何度か戦ったでしょ?」


「え?」


「え? はこっちの台詞よ。まさかあんた、この前に戦った《寄生型》に操られてるんじゃないでしょうね?」


「……冗談でも悪趣味だぞナール」


「……すいません」


 しかしナールが言うには、リスティが初めて戦ったと認識していた《重機型》は、何度も戦った相手だという。大体はこの小隊で動いているはずなので、リスティだけが戦ったことがないというのはありえない。よしんばそうだったとしても、あれほどの大型を相手に情報共有がないなどなおさらありえないだろう。


 ナールの様子を見るにリスティを担いでいる訳でもないようで、リスティは必死になって記憶を掘り起こした。続けて言われた《寄生型》というのもリスティは聞いたこともなかったが、静かに怒りだすレナードからして、やはりナールの冗談ではないらしい。


 そうして記憶を呼び起こすと、確かにリスティには《重機型》と交戦した記憶がよみがえってきた。こんなに簡単に思い出せるのならば、今までどうして忘れていたのだろうと思うほどに。


 薄暗い工場、少女や旅人を助けられなかった苦い記憶……そう、確かにリスティは《重機型》と交戦した筈だ。ならば《寄生型》というのは――


 ――《寄生型》に操られたのは、ナールたちの方じゃないか。


「え……?」


「……ちょっと、ほんとに大丈夫? 青白いわよ、顔」


「ごめん……ちょっと、頭痛が」


「戻ればレスターが待機している。交代して休め」


「そうさせてもらいます……」


 掘り起こしたリスティの記憶。その中には《寄生型》に操られた仲間たちの姿が映っていた――もちろん、そんなことはありえない。現に仲間たちは隣を歩いているのだから、それが何よりの証拠である。


 しかし、何故か。この記憶こそが真実なのだと、リスティの中の《何か》が叫んでいた。その《何か》が何かは分からないが、まさかそんなことを仲間たちに話せる訳もない。


 見えてきた故郷と《圏外》を隔てる壁に安堵の息をたてながら、リスティは仲間たちの心遣いに感謝することにした。念のために一人だけ待機していた隊員、レスターと業務を交代し、リスティは早めに休むことにする。


「風邪引いて死んだなんてやめてよね。しっかり休むのよ、いい」


「べ、別に熱があるわけじゃないから……」


「ここのところ、しばらく働きづめだったからな。家族としっかり休むといい」


「家族……はい。ありがとうございます、レナード隊長」


「大事にしなさいよ、家族のこと」


 見送ってくれた二人の言うように、家族のことを言われるとリスティも弱い。リスティが戦う理由のほとんどは、この故郷で待つ弟妹たちを守るためであるのだから。


 ただ弟妹たちのことを想う度に、リスティの中の《何か》は悲しそうに語りかけてくる。そうしてリスティが弟妹たちのことを思うのは、ただの安全弁なのだと。リスティが都合の悪い真実にたどり着こうとする時に、家族のためにというもっともらしい理由で踏みとどませるための、安全弁にすぎないのだと。


 本格的に疲れているらしい――とリスティは肩を落としながら、警備隊員の詰め所を離れて市街地へと向かっていく。ただこの詰め所から市街地までの間には、市街地までの最後の砦も兼ねた研究者たちの勤務地があり、そんな乱立する研究所のうち一つに寄る必要があった。


 《圏外》に出て活動したことにどんな影響があるか、もしくは《機械》などに操られてはいないかと、しばし確認してもらう必要があるためだ。ただそれも方便であり、本当は『家族と休んだ』という記憶を植えつけるだけの、ただ記憶を改竄する作業に他ならない――


「……どうしちゃったの、わたし……なにこれ」


 ――思考を打ち切り足下を見ると、機械で作られた腕輪が落ちていた。研究者たちの誰かが落としたのだろうかと、リスティは拾ってその腕輪をつけてみた。思いの外サイズはぴったりで、まるでずっとつけていたかのようだ。


 それにしてももはや疲れているといった次元ではなく、早く家族の元に帰りたいという想いが頭痛のように警鐘を鳴らす。ただそんな思考とは裏腹に、歩みはリスティ自身がまったく思いもよらない方向にリスティを連れていっており、まるで今しがた拾った腕輪に導かれているようだ。


 リスティがたどり着いたのは、ボディバッグと呼ばれる死体が入った袋が保管されている場所だった。《機械》から人を守るために散った警備隊員、不運にも戦いに巻き込まれてしまった市民、この《圏内》を目指していたらしい旅人。それら犠牲になってしまった人々の死体が安置されている部屋だが、明らかにそれらの数は異常だった。


 どう見ても多すぎる。残念ながら犠牲者などいないという訳にはいかないが、それでもリスティの眼前にあるボディバッグの数は多すぎた。そして何より異常だったのが、これほどの数の犠牲者が出ているのなら、リスティが知らないはずもない。


 ……そしてリスティの脳裏に、このボディバッグの中にこそ、真実が隠されているのではないかという考えがよぎった。


「……失礼します」


 朝から勝手にリスティの中で喋る『何か』。仲間や実態と噛み合わない記憶。それらの謎は、導かれるようにたどり着いたこの場所に、何か関係があるのかもしれない。


 近くにあったボディバッグの前でひざまずき、礼をしてからバッグについたチャックを引いていく。死体が入っているとはいうが、中身が死体としての体をなしていれば幸運な方だ。比喩表現なくどんなものが出てきてもおかしくはなく、リスティは覚悟を決めて中の『真実』を見た。


「……え?」


 ……中にあった真実は、リスティが想像してようなグロテスクなものではなかった。ただリスティに理解できないものではあった。


 ボディバッグの中に入っていたのは、リスティ自身だった。銃弾が左胸を貫いており、見るからに即死だったということが分かり、死後あまり時間は経っていないようだ。そしてあまり丁重に扱われなかったらしく、口や胸からの血は拭かれることもない。また、瞳も閉じさせてもらっておらず、焦点の合わない黒目が虚ろに前を見ていた。


 自分が死体として処理されようとしている。そんな理解できない事態に対し、リスティは思わず隣のボディバッグも同様に開け放つと、勢いがついてしまいボディバッグから死体が放り出てしまう。ただ放り出てきた死体も同じくリスティと同じ姿形をしており、リスティは驚きに後退りながらも、その放り出てきたリスティの死体を観察する。


 放り出てきたものも先程ボディバッグの中にあったものと同様で、胸に銃弾が貫通した痕が見え、ぬぐわれていなかった血が床にもこびりついていた。


 そうしてリスティの脳裏によぎるのは、当然に一つの可能性。ならば、このボディバッグは全て――リスティは死体処理部屋に所狭しと並ぶボディバッグを全て開封していき、脳裏によぎったことが真実だということを確認する。


 ボディバッグに収められているのは、いずれもリスティ自身の死体。リスティが何人も何人も何人も何人も――横たわっていて。まだ生きているリスティを、虚ろな瞳で見つめているように感じられた。


 いずれも視線たちはリスティに問いかける――『思い出せ』と。


「あ……」


 もやがかかっていたような思考が晴れていき、リスティは全てを思い出す。この町には、リスティたち小隊と総隊長しか人間はいない、つまり家族なんてものはいないこと。リスティたちはいくらでも複製されられる、は認識や記憶を操作された人形だということ。


 ……マキナのこと。イユのこと。機械巨人のこと。大型四輪のこと。彼女らとの旅のこと。彼女を斬り殺したこと。


 そして次の瞬間、リスティはまた殺されるということ。


「どうして記憶まで戻る? 必要なのはお前の経験だけなのだが」


「……総隊長……」


「まあいい。もう記憶が戻る度にリセットするのも面倒だ。リスティール、お前はお前を最後にさせともらう」


 ボディバッグの山にひざまずくリスティの背後に、気づけば総隊長レイチェルの姿があった。その手には拳銃が握られており、すぐにでもリスティの心臓を撃ち抜くだろう。それはリスティが取り戻した記憶からも明らかだった。


 今しがたリスティが取り戻した記憶は、以前マキナとともに旅をしていたリスティのものだ。もうとっくに死んでしまった彼女だが、その旅の経験だけは有用だと総隊長は判断したのだろう、交戦したことがなかった《重機型》や《寄生型》の戦闘経験があったのはそのためだ。


 ただし経験とは、すなわち記憶である。あるいは《始まりのリスティ》の強い意思によるものか、リスティールと名乗るようにされたクローンたちは、旅の記憶を思い出した。思い出してしまった。


「総隊長! どうして……どうしてこんなことをしているんですか……?」


「理由などない。この場所を守ることが、我々クローン体の役目なのだから」


「総隊長もクローン……いえ。それより、それじゃ《機械》と同じじゃないですか!」


「奴らは人間を襲う。我々はこの地を守る。何が同じだと言うんだ?」


「同じですっ! 設定されたことだけに従って、何の意味もないことをし続ける存在です!」


「それが我々が産み出された意味だからな……リスティール。お前もだ」


 人間を守っているのならばまだいい。ただこの国にはもはやクローンたちしかおらず、守るべきものなどもう何もないのだ。ならばこの防衛戦に何の意味があるのか、というリスティの問いに総隊長は答えない。


 いや、答えられないというのが正しいか。自らもクローンだと語る総隊長には、この国を守るという目的しか与えられていないのだから。それはただ、リスティが旅路で出会った《機械》と何も変わらなかった。


 ……そしてそれは、盲目的に『人を守るために戦う』と語っていたリスティも同様のことで。


「……そうです。ですが、それが植えつけられた記憶だとしても、わたしは人を守るために戦います!」


「……そうか。だがクローン技術を他国に渡すわけにはいかない、ここで消えてもらう」


「そんなもの、もうどこにあるって言うんですか!」


「……動くな、リスティール」


 だとしても、リスティは人間を守るだろう。その役割を植えつけられたからではない、自分の目的として大切な者たちを守りたいのだから。


 しかし自意識などというものは、ただの駒にはいらないのだ。この国において、リスティは存在することを認められていない。そう言わんばかりに、もう話すことはないと総隊長から拳銃が向けられる。


 どうにか初弾を避けて、乱立した研究所に逃げ込む他ない。そう判断したリスティは、機械柄を握りしめながら、どちらに逃げるか辺りを見渡すが――それ以上に動くことは出来なかった。


 総隊長の命令に逆らえない。《始まりのリスティ》やこれだけの数のリスティが死んでしまった理由は、クローンに植えつけられた最も重大な命令があったからだ。たとえ脱却を目指していようが、リスティはクローンであることに変わりはないのだ。


 そうして放たれる銃弾は――次の瞬間には、もはやどうなったかも分からなかった。


「な……!?」


「え……?」


 リスティと総隊長の驚愕の声が重なった。何故なら二人の間に、突如として《機械》が落下してきたからだ。総隊長が撃った銃弾は効くわけもなく弾かれ、すぐさま国中に警報が鳴り響いた。


 ただしその《機械》は、飛行系のものではなかった。人間を一回り大きくしたような、全身を甲冑に包んだ騎士とでも言うべきか。


 例えるならば、機械の巨人。


「マキナ……さん……?」


「やっほー、リスティ。久しぶり。元気だった?」


『悠長に話をしている暇はありません。急いでください』


「はいはい。ほらリスティ、行くよ?」


「……はい!」


 リスティの知る機械巨人と違うのは、背面部に背負った機械部品。それと仮面を頭部にズラすことで、仮面に覆い隠されていた人間の顔が見られるようになったことだ。そしてそこから覗かせた顔は、記憶の通りの笑顔だった。


 マキナ。混乱するリスティの記憶の中でまったく変わらない、絶対的な存在のままに立っていた。


 ただマキナはリスティ自身の手で――と考えたところで、そんなことは後にしろ、と言わんばかりに着けていた腕輪から声がした。イユも変わらないらしく、そんな懐かしいやりとりにリスティは状況も構わず笑ってしまう。


 そうしてマキナの――機械の巨人の手をとった。


「一回こっきりの空の旅へご招待! リスティ、しっかり掴まっててよ!」


『離陸します』


「離陸って……ひゃっ!?」


 リスティが疑問を呈する前に、イユの言葉通りに大地から足が離れていく。背負っていた機械は無理やりにでも空中へ浮かび上がらせるための機械だったらしく、背部装備が火を吹き空中へと浮かび上がっていった。


 どんどんと総隊長の姿は小さくなっていき、銃弾を放ってはいるようだが、マキナが適当に防いでいるようだ。そして空中から初めて見ることになった故郷は、何も――何もなかった。


 リスティの記憶の中にあった町などどこにもない。走ったらすぐ反対側にたどり着くほどの小ささで、どこまでも延びているように思えた《圏外》との壁も、警備隊員たちがいない場所は見る影もなく破壊されていた。


 分かってはいたものの、改めて認識させられた故郷というものの幻想に、リスティは思わずマキナを抱きしめた。冷たい機械の感触しか感じなかったものの、背中にそっと当ててくれた手は、とても優しかった。


「マキナさん……マキナさん! マキナさん! あああっ! マキナさん!」


「……よしよし」


 本当はもっと聞きたいことがあるはずなのに。機械巨人の胸の中、リスティは人目もはばからずに泣いていた。


久々に三人のやりとりを書けて幸せ。どれくらい久々かって一か月ぶりとかじゃなかろうか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ