4話
スーツの人工関節を確かめた桑間は、
「さて、泳ぎにいくか……」
と言って、この整備室をでて、隣につながってある通路へと向かった。
はたして、この先にプールでもあって、テラッド・スーツで水中浮遊でもするとでもいうのか?
しかし、桑間が行きついたのはプールではなかった。『開封厳禁!』と書かれてあった扉の前であった。
その扉は赤と黄色のハデな色でペイントされていて、とても分厚く、2重3重にロックがされてあった。
そして、扉の横には酸素供給ボンベと、使い捨ての粗末な宇宙服がガラスケースに入って置かれてあった。
このガラスケースに入ってる宇宙服は何かのアクシデントでこの扉がひらいた場合、すぐ着られるように作られてあった。
つまり、この扉は宇宙空間につなぐ『普段は開けちゃいけない扉』ということになる。
どうやらスペースシティの宇宙空間の外壁などを整備するために作られた特殊な扉のようである。
とうぜん、開けちゃいけない扉なのだが、桑間はこれまた慣れた手付きで、レバーを回して一番目の扉をあけ、続いて解除スイッチをおし二番目の扉をひらき、最後にコードを入力して三番目の扉を開けた。
コードはこの基地の番地名をもじったモノだったから簡単だった。
やがて扉が開き……酸素が宇宙空間にぬけていくのと同時に桑間はテラッド・スーツの酸素供給をONにし、重力制御をオートに切り替えた。
切り替えは音声と右腕のユニットボタンでできる。桑間はボタンで入力した。
そして、扉から一歩ふみだす。
……そこは酸素もなく重力もない、真空の宇宙空間であった。
暗黒空間をただよう、無機質な隕石や遠くでかすかに光るほし星はまぶたに優しく照しだされる。
太陽や月の光はスペースシティの裏側の隕石部には届いていないようだった。
(いつ来てもスゲえなあ。生宇宙はやっぱり感覚が違う……)
桑間が宇宙空間に来て思うことは……
生物が生きていくことができない、生存が一切ゆるされていない、この真空の世界で(いま、オレは生きている)というリアルな感覚であった。
ーーー宇宙空間では人は宇宙服なしでは生きていけない。
ーーー他の生き物や植物も宇宙では生きていけない。
ーーーそこでは日常生活のゴチャゴチャしたモノはいっさい入ってこれない……
ーーー親も、兄弟も、他人も、学校も、街も……この暗黒空間には入ってこれない。息苦しい生活から一気に開放される。
「うん、いいじゃないか」
ニヤリと笑うと桑間はポツりと言った。
彼は足首の関節をゆっくりと曲げた。
すると、テラッド・スーツの足部の底と側面についているバランサーと小型バーニアが自動で発動し、”フワァ”と桑間の体を浮かせ、宇宙空間へと進ませた。
このテラッド・スーツには足首を曲げただけで、自動でバランサーとバーニアが作動するように作られていた。
また、足首の微妙な調整で、推力をコントロールできるように作られてあった。
おかげで、魚が水中をすいすい泳いでるように宇宙空間を”すぅー”と進むことができた。
これはとんでもない技術に違いない。ただの高校生の桑間にもそれが理解できた。
桑間がテラッド・スーツの足首を調整してバランサーと小型バーニアによる宇宙空間遊泳を楽しんでいると、
「さあて、今度はハデにかっ飛ばすかな」
気分をちょっとマジモードに切り替えると……
桑間が音声入力モードで、
「バーニアモード、レベル1」
とテラッド・スーツのコンピュータに命令した。
するとどうだろう……
”ウィぃぃイン”
という振動が背中から聞こえた。
今度はテラッド・スーツの背中部にある装甲が開き、大型のバーニアが二基姿を見せた。
そして、それまでゆったりしていたテラッド・スーツの人工関節が急に固くなり、
”ガチャ”
と自動で腕と足をひっこめ始めたではないか。
これは、関節を固定することによって、バーニアのスタート噴射の衝撃で人間の関節が壊れたり、外れないようにする工夫だった。
《バーニアモード、レベル1に移行します。》
テラッド・スーツのコンピュータのOSが言うと、桑間が装着しているテラッド・スーツの背部のバーニアが火を吹き、
”ゴオオオオ”
と、高速で宇宙空間をぶっ飛びだした。
「ひゃあああああ、すっげええ速度だぜええ!」
高速で宇宙を飛んでいる桑間は周りの景色が目まぐるしく変わっていくのを、興奮しながら確認した。
宇宙空間といえど、ここまで高速でとんだら、体にかなりの衝撃ダメージがかかるはずである。
しかし、桑間はスピードは感じていたが、高速スピードによる衝撃は感じなかった。
これはテラッド・スーツに重圧制御装置が仕組まれていて、ものすごいスピードで移動しても、人間に負担がかからないように中の機械が磁力を作り出し、重圧を抑えている仕組みになっているのだろう。
さらに、スーツのなかの空気圧で、猛スピードによって起こる摩擦やブレを防ぎ、人間の体温をおさえることができるようだ。
桑間にはどうしてこんなことができるのか、分からない。
そもそも普通の学生に理解できるものではないはずだ。
ただ、こうしてテラッド・スーツを(無断で)着て宇宙空間を高速でぶっ飛ばしている間に、体の感覚で『きっとこういうことに違いない』と理解できるよになったのだ。
ーーーそうだ。
ーーー宇宙での飛行といえど、動かしてるのは自分だ、オレ自身の感覚にしたがって、体にたたきこめば、うまくいくもんさ。機械のクセを知るのは持ち主のオレの力量しだいだぜ。
無断で無許可で勝手に人様のテラッド・スーツを動かしているくせに、いつの間にか桑間は頭の中でテラッド・スーツを私物化していた。
そして……
(ふふふ、我ながらうまく飛べるようになったもんだぜ)
と、テラッド・スーツを使いこなすテクニックの上達ぶりに自分で感心したりした。
ふってえぇ野郎だなあ。
高速で宇宙を飛ぶ桑間のテンションはしだいにあがっていった。
そして、彼はとうとう「バーニアモード、レベル3」まで上げてしまった。
すると……
いままでのバーニアの、
”ブオオオ”
と火を吹くような音が……
一気に
”ズウウゴオオオオ”
とまるで燃料焼却炉に石油でも放り込んだようなすさまじい轟音へと変化した。
これまでとは比較にならないほど、バーニアの熱量が上がり、スピードも倍になった。
「ーーーーっっ!!うおおおおおおお!!」
ここまで速度をあげると、世界が変わってしまう。
人間の目が高速で変わる景色についてこれなくなる。
猛スピードで自分にせまってくる障害物をさばききれなくなる。
数十秒もしないうちに……
桑間は「バーニアモード、レベル3」が無理だと悟ると、急いで手動ボタンでレベル1にもどした。
「ーーーーっっ。ハアハア……」
あまりの衝撃で桑間の肺活量がおかしなことになってしまった。
へたをすれば、猛スピードで隕石に突っ込んで死んでいたところだ。
(ついつい調子にのってやっちまったぜえ……気おつけよう……)
桑間はさすがに死にたくなかったから、自分の無謀をいましめた。
そんなヤヴァイ目にあった桑間がしばらくゆったり宇宙空間を泳いでいると……
桑間の横から、青白い光線が光っているのが見えた。
「あの光はなんだ?」
桑間は最初、それが宇宙作業ポットからでた信号のようなものだと思っていた。
ところが!
その青白い光線が桑間の頭上にある隕石に向かってはしってくるのを見た。
”ズゥキュウウウン!!”
というビームが宇宙空間を走る音が鳴り響くと、その隕石はビーム砲によってこなごなに砕けちってしまい、隕石の破片は熱量でとけてしまったではないか!
ーーーこ、こ、こりゃあ、ビーム砲じゃないか!!
あせりと危機感が桑間をおそった。
とつじょ、発射された謎のビーム砲。
とっさに桑間はビーム砲の発射先を見た。そのとき、桑間は人生で最も絶望を感じたという……
そこでは、複数のバーニアの光が、交差し、ビーム砲を撃ち合っていた。
ーーーこ、これは戦闘をしているのか?い、い、いったい、いったい、なにがおこっているんだよおおおお!!!
《続く》




