ちゅんちゅん学校へようこそ
夏美がバイトへ向かう途中、ちょっと遠回りして通る路地。
あそこの塀にはよく、すずめがいる。
今日もいた、三羽。ちょん、ちょん、ちょん。小さく跳ねながら塀の上を移動している。
「かわいいな〜、ちゅんちゅん…」とつぶやいた瞬間、
ふわりと風が吹き、夏美の視界がふっとぼやけた。
気がつくと、目の前には――
ちゅんちゅん学校の立て看板。
「え……?」
足元を見ると、夏美は自分がちいさくなっていた。
塀の上にちょこんと立ち、すずめたちと同じ目線にいる。
「ようこそ〜!ちゅんちゅん学校へ!」
帽子をかぶったすずめの先生が羽を広げて迎えてくれる。
「え?え?私、どうして…」
「今日の見学者だね。さあ、案内するよ」
すずめたちの世界。そこは、木の枝をつなぎ合わせた教室や、落ち葉のプール、雨粒でできた水たまりの鏡。
「すずめの学校は山の中〜♪」と、みんなで歌いながらお遊戯が始まる。
ちゅん太:「まずはお辞儀の練習から〜!みんなで“ぺこりちゅん”!」
「ぺこりちゅん!」
一斉に頭を下げるすずめたち。なんともかわいい。
ちゅん美:「つぎはお昼の時間〜!どんぐりクッキーに、いなごのスープ〜」
ちゅん吉:「いなごは苦手〜、でも今日のはいけるちゅん!」
夏美の目の前に小さなお皿が出される。どんぐりの器に入ったごちそう。
「どうぞ、おためしください、ちゅん」
ためらいながらも、ひとくち――
「わ、意外とおいしい……!」
昼食の後は、空の運動会。
みんなで一斉に羽ばたいて、青空を輪になって飛び回る。
ちゅん太:「ちゅんちゅんエイトのフォーメーションでいくぞー!」
ちゅん美:「了解ちゅん!」
輪を描くすずめたちの中に、夏美もまざっている。
風を切る音、雲の近さ、胸がどきどきする。なんだか夢みたい。
そう、これは夢なのかもしれない。
「夏美ちゃん〜、そろそろバイトの時間じゃない?」
ちゅん先生がふんわり言ったそのとき――
また風がふわりと吹いて、視界がもとにもどる。
夏美は、いつもの道のいつもの塀の前に立っていた。
あのすずめたちは、まだ塀の上でちょんちょんしている。
「……夢だったのかな」
でも、手には小さなどんぐりの殻がひとつ、残っていた。
夏美は笑った。
「ちゅんちゅん学校、また見に行こ」
そしてバイトへ、ちょっと軽い足取りで歩き出した。
いつもの道にいる、いつものすずめたち。
でも、もしそのすずめたちに小さな世界があって、
ちゃんと学校に通っていたら……?




