100mlのエール
朝のコンビニは、まだ少し静かで、冷蔵ケースの扉がカチャリと開く音が響いた。
夏美がレジカウンターに立っていると、スーツ姿の男性が栄養ドリンクを手にやってきた。
髪は少し乱れ、目の下にはうっすらとクマ。
「おはようございます」
夏美が明るく声をかけると、男性は小さく会釈して、ぽつりと「お願いします」とだけ言った。
ピッ。
レジが鳴ると同時に、夏美は思った。
(この人…きっと疲れてるんだなぁ)
すると、手にした栄養ドリンクの瓶から、小さな声が聞こえてきた。
「彼の名前は、櫻井さん。企画部のリーダーで、昨日も夜中まで残業だったんだ。」
「えっ、しゃべった…!?」
「しーっ、声に出さないでね。僕は栄養ドリンク。限界ギリギリの体に、あと少しの“がんばれる”を届けるのが仕事さ。」
「じゃあ、今日はそのために選ばれたんだ…」
「そう。今朝も迷ってたんだよ。コーヒーにしようか、ブラックガムにしようかって。でも、ふと僕のことを思い出してくれた。“そういえば栄養ドリンクがあったな”って。」
「櫻井さんの体、心配だね…」
「心も体も、いつかポキッと折れそうでしょ?でも、折れる前にちょっとだけ支えてあげるのが、僕の役目なんだ。たった100ml、されど100ml。中身はただのドリンクじゃない。
『今日も乗り越えられるかもしれない』って、心に小さな火を灯すんだ。」
櫻井さんは会計を終えると、栄養ドリンクのキャップをひねった。
カチッと小さな音。
そして、一気に飲み干す。
「よし……」
彼がつぶやいたその声は、ほんの少しだけ、前向きだった。
夏美は静かに見送る。
その背中に、「行ってらっしゃい」と、心の中でつぶやいた。
そして棚に並ぶ、まだ誰かに選ばれるのを待つたくさんの栄養ドリンクたちが、誇らしげにこうささやいた。
たった一口の飲み物にも、「誰かを支えたい」という想いが詰まっているかもしれません。
日々をがんばる人に寄り添う、小さな相棒の物語でした。
あなたが手にするその1本も、きっと味方なってくれるらしいも…




