月と、ぺったんぺったん
バイトを終えて、自転車を押しながら家へ向かう夏美。
ほんのりと明るい空には、夕焼け色がまだ残っていた。
ふと見上げると、
そこには、まあるいお月様がぽっかりと浮かんでいた。
「わぁ〜お月様だ〜
夕焼けにお月様って、すっごくきれい…」
すると――
「こんばんは、夏美ちゃん」
どこからか、やさしい声がふわりと届いた。
「え?……だれ?」
「ボクだよ。君が見ている、空に浮かぶこの月さ」
「えっ……お月様がしゃべってる?」
「うん。ときどき、君みたいにまっすぐ見てくれる人には、ちょっとだけお話するんだよ。
君、今日もちょっと疲れてるでしょ」
「えっ…うん、ちょっとだけ…レジが忙しくて」
「お疲れさま。
でも、そんなときこそ、月を見上げてみるといいんだよ。
月の光はね、君の疲れた気持ちを、そっとなでる力があるんだ」
「……なんか、ほんとに癒される…」
「それにね、月にはほんとうにうさぎさんがいるんだ」
「やっぱり! おばあちゃんが昔、言ってたよ。
うさぎさんが、ぺったんぺったん、お餅をついてるって」
「その通り。毎日ね、月の奥でついてるよ。
とっても弾力のある、やさしいお餅なんだ。
ひとくち食べたらね、心がふわっとあったかくなるんだよ」
「た、食べてみたい!」
「ふふ、じゃあ、今夜の夢で会おう。
うさぎさんと一緒に、君の分もお餅をついて待ってるから」
その瞬間、月がひときわ明るく輝いた。
まるで、ほんとうに約束してくれたように。
夏美はにっこり笑って、自転車をこぎ出す。
「うん、夢の中で!」
その背中を、月の光がそっと包み込んでいた。
そしてその夜――
夏美の夢には、真っ白な毛のうさぎが現れた。
ふかふかのお餅を手渡して、こう言った。
「これが、月のやさしさだよ。
君ががんばれるように、明日もちゃんと照らすからね」
夏美はお餅をひとくち。
やさしい甘さが、胸の奥までじんわり広がっていった。
夕焼け空に浮かぶまんまるなお月様。
そこにいるうさぎが、本当にお餅をついているとしたら…
今日もちょっとだけがんばった心に、月の光と、ふかふかのお餅をそっと届けるようなお話。
明日も、やさしい光に照らされますように。




