ふわりちゃんデビュー
夏美が品出しをしていると、目に飛び込んできたのは、見慣れないデザートの箱。
「これ、新商品かな…?」
パッケージには、やさしい色合いのイラストと、ちいさく「ふわり」と書かれていた。
ふと、箱のすき間から、ちいさな声が——
「こんにちは。今日からここに並ぶの、よろしくね」
驚いて目をこらすと、そこにはちょこんと座った、小さなデザートの妖精。
「わたし、ふわりちゃん。クッキーのふたを開けると、生クリームのやわらかい気持ちがふわっと広がるの」
頬はほんのりピンク色、帽子のようにちょこんとクッキーをかぶっていて、見た目もしゃべり方もふわふわしている。
すると、横の列から声がした。
「この子、今日から仲間なのね。ようこそ、スイーツ棚へ!」
そう言ったのはプリン姉さん。つやつやボディにカラメルのマントをひらりと揺らす、頼れるお姉さん。
さらにティラミス兄さんが低い声でうなずいた。
「おれたちデザートの願いはひとつ。誰かの疲れた心に、そっと甘さを届けること。ふわり、がんばるんだぞ」
ふわりちゃんは、ちいさな手を胸に当てて「はいっ」と元気よく返事をした。
けれど、夕方になると少し不安そうな顔に。
「……もし、わたし、誰にも選ばれなかったらどうしよう」
そんなとき、隣のプリン姉さんがそっと言った。
「大丈夫よ。ここに並んでいるだけで、あなたはちゃんと、誰かの目にふれてるの。気づいてもらえる瞬間がきっと来るわ」
夜——
バイト終わりの夏美が、疲れた顔で店内を歩いていた。
「はぁ〜、今日は忙しかったなぁ…あ、そうだ。さっきの新商品…」
ふわりちゃんの並ぶ棚の前で足が止まる。
(やっぱり…かわいい)
そして、ふわりちゃんと目が合った…ような気がして、夏美はそっと手を伸ばす。
ふわりちゃんの心臓はドキドキ。
「わたし……選ばれるの?」
その瞬間、プリン姉さんとティラミス兄さんが、そっと背中を押すように小さくうなずいた。
夏美がレジに持っていくとき、ふわりちゃんは心の中で小さくつぶやいた。
「ありがとう。きっと、甘さで少しでも癒せますように…」
そしてその夜。
夏美は家に帰り、お茶とふわりちゃんを机に置く。
パッケージをそっと開けると、中からやわらかなクリームの香り。ひとくち食べて、思わず笑顔になった。
「……しあわせ」
その言葉を聞いた気がして、ふわりちゃんはそっと胸に手を当てた。
(わたし、ちゃんと、誰かのひと息になれたんだ…)
新しい仲間がやってくると、棚の中もちょっとそわそわ。
甘さとやさしさは、食べる人だけじゃなく、並んでいる仲間たちにも広がっていくかも…




