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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第三章 先輩として
39/223

38th BASE

お読みいただきありがとうございます。


野球が無い時期はどうも一日一日味気なく感じてしまいます。

2月になればプロ野球がキャンプインするので、もう少し辛抱することにします。

「昴ちゃん、ナイスバッティング!」

「ありがとうございます。ナイスバッティングとは言えないですけど……」


 ベンチの前で次の回に備えてキャッチボールをしていた真裕は、戻ってきた昴とグータッチを交わしながら彼女を称える。昴は謙遜しつつも嬉しそうにはにかんだ。不意に出た彼女のあどけなさに真裕は思わず頬を緩めると共に、より一層勇み立つ。


(昴ちゃんを起点に取った一点。しっかりと守らないとね)


 三回裏以降、真裕の投球は一段と上り調子になる。浜静打線を快調に牛耳り、五回まで被安打一本に抑え込む。


 試合は六回表に入った。ワンナウトランナー無しという場面で、昴に三打席が回る。


「よろしくお願いします」


 二打席目は小杉に雪辱を果たされ、キャッチャーへのファールフライに終わった。この打席の対戦相手は、一試合目にも三番ショートで出場していた花輪。五回から小杉に代わって登板している。


 初球、花輪はインローにスライダーを投じる。昴はバットを出しかけたが、打てばゴロになると判断して止める。


「ストライク」


 二球目はストレート。力強く高めを突くも、ストライクゾーンからは大きく外れる。続く三球目も似たような一球となった。ツーボールワンストライクのバッティングカウントとなり、昴は花輪の投球を分析して打ちに出る支度を整える。


(花輪さんは野手としての能力は高いけど、投手はまだ始めたばかりなのかな。制球にかなりのばらつきがある。だとすればカウントを調整するために変化球を投げてくる可能性は低い。きっと次も真っ直ぐで来る。スピードはあるけどあんまり球質は重くなさそうだし、芯で弾き返せば私でも飛ばせる)


 花輪がワインドアップから三球目を投げる。昴の読み通り、ストレートがまたもや真ん中高めに来た。しかも今回は打つことのできるゾーン。スイングした昴はボールがバットに当たる瞬間をしっかりと目で捉え、左手を前に押し出して更なる力を加える。


「ライト、センター!」


 鮮やかなライナーが右中間を破り、フェンスまで転がっていく。昴は一塁を回ってあっという間に二塁に到達。そこでようやくライトが打球に追い付いた。


(もう一つ行ける!)


 昴は二塁も蹴った。快速を飛ばし、その勢いに乗って三塁へと滑り込む。同じタイミングで中継を介した返球がサードに渡るも、タッチするには至らない。


「昴スゲー! スリーベースじゃん!」

「良いぞスーパールーキー!」

「あ、ありがとうございます。えへへ」


 亀ヶ崎ナインから盛大な拍手が送られ、昴の口元にも自然と笑みが浮かぶ。一方、その姿をベンチの隅で見ていた京子は、心臓がきつく締め付けられる感覚に見舞われていた。


(これで昴は今日二本目のヒットか。……やばい、本当にやばい。このままじゃウチはレギュラーから外される。凡人は一度でも天才に抜かれたらおしまいなのに……)


 京子の首筋に嫌な汗が流れ出す。しかし彼女はそれを拭うこともせず、自らの無力さと昴の(ほとしば)るような才能にただただ怯えるばかり。ショートの定位置争いが、いよいよ混沌としてくる予兆が垣間見えた。


 昴の三塁打でワンナウトランナー三塁とチャンスが到来し、九番の真裕が打席に入る。彼女は初球を弾き返すと、ライトに浅いフライを打ち上げる。


(あ、ちょっと打ち損じちゃった。昴ちゃんは還ってこられるかな?)

(大丈夫です。行けます!)


 ライトが打球を掴む。それに合わせて昴はすかさずタッチアップのスタートを切った。


「ノーカット!」


 送球はライトから直接ホームに返される。だが昴は軽やかな身のこなしでキャッチャーの背後に回り、ベースの角に触れる。


「セーフ! セーフ!」

「おお、ナイスラン!」


 犠牲フライで亀ヶ崎は二点目を獲得。昴の活躍もあり、先ほどとはうって変わって優位に試合を進める。このまま勝ち切れるか。


 ところが六回裏、ピンチが訪れる。真裕はワンナウトから単打二本を浴びて得点圏にランナーを背負う。迎えるは四番の大野と五番の杉山のクリーンナップコンビ。バッテリーは大野と対峙する前に、マウンドに集まって打ち合わせを行う。


「真裕、調子はどう? 疲れてない?」

「もちろん! まだ全然大丈夫だよ」


 菜々花の問いかけに、真裕は右手の親指を突き立てて答える。当然ながら彼女は強がりを言っているわけでない。実際に球威はほとんど衰えておらず、菜々花もそれを肌で体感しているので、疑問に思う必要は無かった。


「オッケー。じゃあ今までと変わらずどんどん攻めていこう。ここを乗り切ったら完封も見えてくるよ」

「完封か。ここまで来たわけだし、全力で狙いにいかないとね。リードの方は頼んだよ」

「了解。私を信じて投げてきて」


 二人は最後に手を握り合い、互いにリラックスしてから話を終える。試合再開。大野が打席でバットを構え、眼光鋭く真裕に視線を向ける。


(点差はたったの二点。私が繋げば同点どころか一気に逆転だって見えてくる。一試合目みたいにエースも打ち崩して、私たちに対する恐怖心を植え付けてやる!)

(何だか良からぬことを考えてそうな顔つきだ。けどその野望は、私が阻止するよ!)


 真裕と大野、両雄がそれぞれの思惑を持って相まみえる。その初球、真裕が外角低めのストレートを投じると、大野は果敢に強振していった。


「ファール」


 バックネットから大きな音が鳴る。タイミングは合っているようだが、真裕の球の威力が勝ってファールとなった。


(流石エースだ。力はまだまだ残っているようだね。その方が打ち甲斐がある)


 一球目を打ち終わった後、大野は打席を外して微妙に口角を持ち上げる。対する真裕もこの勝負を楽しんでいた。


(やっぱり良いスイングしてるなあ。これで私と同じ二年生なんだよね。またライバルが一人増えたよ)


 真裕は心を昂らせて次のサインを覗う。菜々花と息を合わせ、浜静の主砲をどう抑えこむのか。



See you next base……



花輪’s DATA


ストレート(最高球速108km:常時球速100~105km)

スライダー(球速90~95km)

カーブ(球速86~90km)

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