16th BASE
お読みいただきありがとうございます。
ハロウィンが終わり、某テーマパークのCMとかを見ているともうクリスマスのイベントが始まっているそうですね。
気が早いかもしれませんが、個人的には今年はイルミネーションを見にいく計画とか立ててみたいですね。
もちろん一緒に行ってくれる人がいればの話ですが(苦笑)
八回表の男子野球部の攻撃。ワンナウトから代打の中山がライト前にヒットを放つ。春歌は初めての被安打を浴びた。
「ドンマイ春歌。ワンナウトだし、ゲッツー取って切り抜けよう」
「はい」
菜々花は春歌が切り替えられるよう励ます。けれども本音を言うと、彼女の姿勢には疑問符を浮かばせていた。
(自分から内角に投げたいと主張しておいての失投。強気なのも何か拘りがあるのも悪いことではないけど、空回りしてる感じは否めない。春歌が自分の長所を見失わないよう、私がきちんと歯止めを掛けてあげないと)
打順は一番に返り、曽根が打席に立つ。ここから好打者が続いていくので、より一層気を引き締めて臨まなければならない。
(コントロールミスしちゃった。こんなんじゃいけない。もっとしっかり投げ切らないと、男子相手には通じないよ)
春歌は自らを強く戒める。しかしその内容は、彼女が今の自分に投げかけるべき言葉として、適切なものなのだろうか。
曽根への一球目、バッテリーがサインの交換を行う。
(ヒットを打たれたことで少しは頭を冷やしてくれてると良いけど……。バッターは一番だし、初球はアウトローのカットでストライクを取ろう)
(……分かりましたよ)
春歌は菜々花の指示に従い、外角低めにカットボールを投じる。曽根はバットを出しかけるも、ベースの前で微妙に変化したのを見てスイングを中断する。
「ストライク」
二球目は低めのストライクからボールになるカーブ。だが曽根は釣られずに見極める。投球はワンバウンドになるも菜々花が前で止め、一塁ランナーは動けなかった。
三球目。バッテリーはストレートで再びアウトコースを突く。曽根はスイングしていったが、ボールはバットの上を通過。空振りとなる。
(よし、追い込めた。といっても肝心なのはここから。定石としてはチェンジアップを落としたい。春歌は聞いてくれるかな?)
(チェンジアップ……。確かに緩急を効かせて打ち取りたいのは分かる。それにさっきは私が首振って打たれてるわけだから、流石にまた逆らうなんてできない。それなら……)
出されたサインに頷く春歌。それから一塁ランナーを目で牽制しつつ、セットポジションに就く。
(お、あっさり承諾した。じゃあしっかり腕を振って投げてきて!)
菜々花はミットで何度か地面を叩き、春歌に低めへと投じてくるよう促す。春歌は少々長めに間合いを取ってから、クイックモーションで四球目を投げた。
「え?」
「え?」
春歌の腕からボールが放たれた瞬間、菜々花と曽根は揃って瞠若する。なんと投球は曽根の首の辺りに来たのだ。
「うおっと……」
曽根は瞬時に身を屈めて避け、地面に膝を付く。ボールを追い切れなかった菜々花が僅かに横へ弾いたが、一塁ランナーは自重して進塁することはなかった。
「あっぶね……」
「ごめん曽根君、大丈夫?」
菜々花が心配そうに曽根に尋ねる。一応体には当たっていないようだ。
「大丈夫ではありますけど……。まさか、狙って投げたわけじゃないですよね?」
「へ? な、何言ってるの、そんなことするわけないじゃん!」
「あ……、そうですよね……。すみません、ついカッとなっちゃった」
一瞬菜々花を睨みつけた曽根だったが、すぐさま我に返って無礼を詫びる。とはいうものの明らかに危険な一球だった。曽根が腹を立てるのも理解できる。一方の投げた側である春歌は特に悪びれる様子も無く、涼しい顔で菜々花が返すボールを受け取る。
(春歌の奴、いかに当たってないとはいえ帽子を取るくらいはしても良いんじゃないか? もしかして本当に態と投げたんじゃない……)
春歌の不躾な態度を見て不信感を募らせる菜々花。ひとまず彼女は気を取り直し、次の配球を練る。
(何にせよ今ので曽根君は踏み込みにくくなったと思う。申し訳ないけどこれも勝負だ)
菜々花はアウトコースに寄る。先ほどの投球を活用しようという企図だが、そうなることは曽根の方も予見できていた。
(次は九割九分外角に投げてくるだろ。今のが意図的かどうかはぶっちゃけどうでも良い。やられたらやり返すのみだ)
四球目。春歌はアウトローに直球を投げ込む。ストライクゾーン一杯のナイスコントロールだが、そこに狙いを定めていた曽根にとっては絶好球となる。
(おっしゃ。ビンゴ!)
曽根はボールを手元まで引きつけ、コンパクトに打ち返す。鮮やかなライナーがセンターの右に弾んだ。二者連続安打となり、ワンナウトランナー一、二塁と男子野球部がチャンスを迎える。
(へへっ、どんなもんだい。あれくらいで怖がって打てなくなるわけないだろ)
一塁ベース上でバッティンググラブを外しながら、曽根は得意げな顔でマウンドの春歌に視線を送る。四球目のおかげで却ってヤマを張りやすくなり、迷いなく打ちにいくことができた。
(また打たれた……。やっぱり中途半端に攻めても打者は嫌がってくれない。もっとはっきり、もっと厳しく内を突いていかないと。それが私のピッチングなんだから)
春歌は額の汗を拭い、頭を振って自分の体を発奮させようとする。菜々花の疑っていた通り、曽根への四球目は単純なすっぽ抜けではなく、春歌が故意に行ったものであった。
打席には二番の山尾に代わり、左打者の木下が入る。たとえ点差は開いていても、試合に出ている以上は誰もが結果を残したいと思うもの。この場面は春歌も木下も自らのために真剣勝負に臨む。
(点はやりたくない。ここは何としても抑えてやる)
(ここで打てば俺に打点が付く。他の奴らはあんま活躍できてないし、今の内にアピールしておかなきゃ)
一球目。春歌は外寄りのカーブを投じる。しかし高めの浮き球となってしまい、木下はタイミングを合わせてミートする。鋭いハーフライナーが三遊間を襲った。
「抜けろ!」
レフトまで抜ければ一点が入る。ところがここで、この回からショートを守っていた一年生の昴が華麗な動きを披露する。
(ようやく私のところに飛んできた。ヒットになんかさせない)
昴はスライディングしながら打球の弾む先に入り、ショートバウンドしたところを逆シングルで掴む。それから軽やかに体を反転させて二塁へと送球。間一髪でアウトを取った。
「おお! ナイスプレー!」
仲間たちから称賛の声が上がる。それに対して昴はうっすらと口元を綻ばせ、今度は彼女が春歌に檄を送る。
「ツーアウト。あと一人、油断せずに打ち取ろう」
「う、うん。ナイショート」
昴のファインプレーが春歌を救い、局面はツーアウトランナー一、三塁に変わる。ピンチ脱出まであとアウト一つ。四番の水田の前で切り抜けたいところだ。
See you next base……
PLAYERFILE.11:木艮尾昴(こごの・すばる)
学年:高校一年生
誕生日:4/19
投/打:右/左
守備位置:遊撃手
身長/体重:149/47
好きな食べ物:朴葉焼き




