表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

16.爆発と静寂

 『注水完了!…外扉解放よし!』

「3、4番管、発射してください!」

“ドシュッ!”

2本の魚雷が海中へと放たれる。ほどなくソナーを全開にし、目標の探知を始める魚雷。

 …が、

“ピー、ピー…”

存在しないはずの音紋データを入れられた魚雷は、目標を発見できるはずがない。プログラムに従い、蛇行する魚雷たち。

“シャアアア…”

その間に、「つきしお」を正面に捉え真っ直ぐ突進してくる魚雷。その音は「つきしお」にとって恐怖でしかなかった。

『距離…700!…650!…600!』

三滝が距離を報告するごとに、声が高くなっていく。

「機関もっと出してぇ~!速くぅ~!」

三咲など手を合わせ、必死に願っているようだ。他のクルーの中にも、手を合わせている者が見えた。

 唯一、優希だけが真顔だった。無表情な顔、冷静な顔にも見えた。

「あと10秒…。梓さん、全員に対ショック姿勢をとらせてくれ。」

「え?…あ、うん。」

チャートテーブルにうつむいている梓に向かい、静かな声でそう告げた。

「総員、対ショック姿勢をとってください。」

正直、自分でもびっくりするぐらい冷静な声が出た。ひょっとして、自分自身が諦めてしまったのだろうか。この魚雷は「つきしお」に当たる、もう助からないんだと。…あ、もしかしたら優希さんの冷静さは、死ぬ前のケジメなのかもしれない。

「あと3秒…。」

弾着まで後3秒…。グッと身構える梓。

 わずか3秒が長かった。死ぬ前の時間って、こんなに長いんだね…。


“ズズウン!”

海中に重苦しい爆発音が響いた。バッと生じる大量の気泡。

 だが、それを作りだしたのは…。

“ドオオ…”

優希の判断、「つきしお」自身の放った短魚雷2本だった。プログラム通り探知を続け、プログラム通りに蛇行し、そしてプログラム通りに航走距離1000メートルで自爆した。

“シャアアア…”

その爆発に突進していく、これまた2本の獰猛な魚たち。ところが、爆発の圧力にその体は耐え切ることが出来なかった。

“グワッ!”

“ドオン!”

炸裂する弾頭。粉々に吹っ飛んだ魚雷たちは、その役目を果たすことができなかった。


 「…。」

「…。」

静まり返った、「つきしお」のCIC。爆発の後の静寂が包み込む。

「機関停止。アップトリム5度。深度を50に変更。」

優希の抑揚なき声が響いた。

「…三咲さん、機関停止だ。」

「…え?あ…、機関停止…。」

思い出したかのように、操作を始める三咲。

「潜舵、アップトリム5度。」

「…あ、はい。潜舵アップトリム5度。」

海士たちも、ようやく我に返ったかのように動き始める。つい数秒前まで恐怖に怯えていた反動だ。

「う…?」

梓もノロノロと顔を上げた。ゆっくりと電話をとる。

「…全員、無事ですか?損傷箇所の確認をお願いします。」

小さめの声を吹き込んだ。大声を出したわけでもないのに、なぜか声が出なかった。

『こちら魚雷発射管室、異常ありません。』

『艦首ソナーに異常ありません。』

『こちら機械室、電動機室に浸水中です。…あ、小規模なんで、すぐ止めます。』

入谷の妙に明るい声に、損傷報告ながらもホッとする梓。

「はあぁ…。」

ドッと背もたれに倒れ掛かる三咲。

「助かったあ~…。」

「当たり前だ。あんな程度で沈めるものか。」

優希の冷たい声。今だけは、その自信たっぷりの声がありがたい。

「さすがにすぐ後ろで爆発されたら、無傷じゃ済まないか…。」

まるで回避できると確信していたような優希の口調。一体、何を…?

「…心配かけたな、梓さん。」

「え?ううん、おかげで助かったんだから。ありがとう。」

「その場しのぎの方法だったが、なんとかな。」

優希の顔に、ほんのわずかだが笑顔が見えた気がした。

「…なんだ、どうした?」

「あ、ううん。なんでもないの。」

ホッとする梓。優希の笑顔を見たのは、これが初めてのような気がしたからだ。


 “ドボボボ…”

『後方より注水音!距離2500!』

CICにこだまする、三滝の報告。

 今、チャートテーブルを前に四人が集まっているところであった。最終探知地点を確認し、動きを考えていたのだが…。

「やはり…、猶予をくれませんね。」

理沙が厳しい顔つきで言う。

「もう撃ってくるのかな?次は避けられるの?」

三咲も不安そうな顔だ。

「いや、まだこちらを完全には捉えていない。」

優希の冷静かつ抑揚のない声。が、眼光は鋭かった。

「おそらく、こっちが動くのを待っているんだと思う。…もう一回連携攻撃を仕掛けるためにね。」

梓が判断を下す。横に視線を移すと、優希が頷いた。

『後方の潜水艦、機関を始動しました!タンクのブロー音も聞こえます!…外扉の解放音がしました!』

落ち着いて…。梓は自分にそう言い聞かせる。

「各個撃破しなきゃね。」

「そうなると、順番が重要となるが…。」

チャートの上で指を滑らせ、前方の潜水艦を指した優希。

「私の推測であるが、最初の動きからしてこちらの艦は技量が低めだと考える。…もちろん、私たちよりは当然上だろうが。」

「じゃあこっちから対処する?」

三咲の言葉に、首を縦に振る。

「強い方からが本来の鉄則だが、今は数を減らす方がいい。」

「しかしどうすれば…?」

「一つ考えがある。」

そう言って、全員へ説明を入れる優希。

 チャートテーブルの上で、全員が身を寄せ合った。


 暗く、光が届かぬ深海。

そこに潜む、3頭の鉄鯨たち。獰猛で、狡猾な3頭…。

「…いけそうですね。」

説明を聞いていた理沙。顔を上げ、賛成の意を見せた。

「推測の塊だがな。進める内に、修正は必要だろうが…。」

「やってみないとわからないじゃん♪成せば成る、何ごともだよっ。」

三咲の元気な姿。さっきの緊張感はどこへやらだ。

『後方の潜水艦、まもなく2000メートルに接近します!』

「…行くよ。動かなきゃ、始まらない。」

梓が顔を上げる。三人が同時に頷いた。

「機関始動!前進半速!」

三咲が第一声を発する。理沙は扉を開け、魚雷室へと戻っていった。

「機関始動します!半ー速。」

「三滝さん、探信音波の用意をお願いします。」

『了解しました。隅々まで見てやりますよ!』

気持ちに富んだ声。

 優希が電話を受け取った。そのまま声を吹き込む。

「魚雷室、1番から4番に長魚雷を装填。すべて有線誘導で雷速最大に設定。」

『わかりました。ただちに装填開始します。』

“ゴウウ…”

ゆっくりと動き出す「つきしお」。その直後だった。

『後方より魚雷発射音!…雷速40ノットで接近中!』

きた…!ここが勝負どころになる!優希から電話を受け取った梓。

“カチッ”

「今です!探信音波を打ってください!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ