第12話 エーゼストリアの憂鬱(前編)
裏宇宙の小要塞を陥落させていると、たびたび元エーゼストリア王国領の星を見かけるようになった。
エーゼストリア王国って、ロゼリア王女の国だ。
ふと姿を想像してしまう。彼女は今頃どうしているだろう?
ロゼリア王女のことを思い出すと、胸の奥に甘い痺れが残る。
俺は、我に返って、マップを見る。これまで陥落させた要塞と元エーゼストリア王国領の星をプロットした。マップではエーゼストリア王国はかなりの大国だったことを物語っている。
これだけの国が、何であんなに苦戦しているんだろう?
俺は疑問が過って、考え込む。推理らしい推理は出てこない。
シートにもたれかかると、天井を見つめる。キュルルを見つめると、キュルルの額の宝石が光った。
「キュルル、お前!」
キュルルの宝石から光の筋が伸びて、ホログラムが映し出された。俺は驚いていると、ホログラムから優しい声が聞こえる。
「エーゼストリア王国はかつて繁栄していました」
「どうしてお前がそれを知っているんだ、キュルル?」
「私が知っているのではありません。星のこえが知っているのです」
星のこえ? 何を言っているか分からないぞ。
でもキュルルの意思が声の源じゃないらしい。俺は安心すると、ホログラムを見つめて、声を聞いた。
「エーゼストリア王国が新興のジルデ帝国と、戦争状態に陥ったのは、いまから2年前です」
ジルデ帝国。つまり裏宇宙の要塞はジルデのものってことだろう。
「エーゼストリア王国はジルデ帝国の科学力になす術もありませんでした。そして――」
声の主はすすり泣くように、言った。
「エーゼストリア王国、第一王女リーデシアはジルデ帝国の手に落ちました」
「たしか、ロゼリア王女は第二王女だった。リーデシアは、彼女の姉ということか」
「ええ。異母姉妹なのです」
声は、冷たい声に変わった。
「エーゼストリア王国の君主タウゼンは、命を落としました。もともと宇宙はエーゼストリア王国の作った楽園でした。宇宙がジルデ帝国の新陳代謝する要塞に支配されたことで、状況は一変しました」
「新陳代謝する要塞?」
「ええ。宇宙はもとより岩石とガスだけの空間です。浮遊する岩石に極小機械を忍び込ませ、要塞を加速度的・指数関数的に構築する手法をジルデ帝国は考えつきました。極小機械の散布によって宇宙は死の空間に変わってしまった」
……なるほど。フォン・ノイマンマシンみたいなものか。
俺は納得すると、声の主に尋ねる。
「あなたは、どうしてそれを?」
「私は星のこえに変えられてしまいました。私はリーデシアです」
「第一王女の?」
「はい。私は宇宙を棚引く意思だけの存在です。肉体は存在しない。誰かお願いです。可哀想な私の妹を救ってちょうだい」
嘆くかのような懇願に、胸が引き裂かれてしまいそうだ。
俺は息を飲んだ。
リーデシアさん、俺にできるのは、要塞を破壊することだけです。俺の力はまだ伸びる。レベルアップする。だから、ジルデ帝国の要塞は任せてください、と言いたかった。
しかし、俺には荷が重すぎる。俺ひとりの力を超えているからだ。
宇宙を救えってことだろう? できない。できるわけがない。
太一ちゃんの意気地なし!
誰かの声が聞こえた。あれは夏の日だった。木登りをしようって声をかけられた。俺は怖くて、できなかった。
みんなの砂の城を壊してしまったのに、俺の背中を押す声に泣きそうになる。あの子は、どうして信じてくれたのだろう。こんなやつをどうして。俺は自分の腕を見つめた。
「正直できるか分かりません」
「え?」
「宇宙を救うことはできない。でもロゼリアの涙を拭うことくらいはさせてほしい」
相手は落ち着いた声で言った。
――ありがとう。




