プロローグ 同盟を救う英雄
立ちはだかる巨大な要塞ガリウダ。
木星クラスの惑星一つを改造した巨大で堅牢な帝国の要塞である。
そのまわりに、散らばる点が見えた。
そのひとつひとつが、宇宙艦隊であることが分かる。
「……硬い。ガリウダを沈めるまでどれくらいかかる?」
「増援がなければ、数週間かかる見通しです」
宇宙船の艦橋で髭を蓄えた元帥ロイネルが唸っている。答えたのは上級大将のアーデルハイトだ。
思わぬ事態だというふうに。ガリウダは、さきほど突然ワープアウトしてきた。
作戦宙域には、それまで帝国の残存勢力がいたが、ガリウダの登場を機にどこかへ逃げたか、ガリウダに着艦したかのどちらかだ。
「くそっ……」
元帥ロイネルは、拳を握った。優勢が絶体絶命に陥った。
そこに野太いレーザーが走る。
ガリウダの正面を穿つ巨大なレーザー光はあまりに力強い。
同盟軍は困惑していた。
レーザーのもとを見遣ると、つづいて雷のごとく、ミサイルが降り注ぐ。
ガリウダは、炎に包まれた。
「なんだ、なんなんだ……?」
目を丸くする元帥ロイネル。これまでの身体のこわばりが、消えていく。
――巨大機動艦カリスタリオンだ。
データでしかみたことのない幻の機動艦で、元帥ロイネルは、気づくと震えていた。この私が、恐れている?
〈チャット:ガリウダがまるで紙切れみたいだ……〉
〈チャット:どこの艦隊なんだ? 情報を早くくれ!〉
〈チャット:黙ってないで教えてくれ〉
〈チャット:――ライデンだ〉
〈チャット:なに? まさか、あの……〉
元帥ロイネルもその名を知らないわけではない。中央星系ではなく辺境星系に潜むと言われる幻の要塞戦専門ランカー。
つづく攻撃の嵐で、ガリウダは、つぎつぎとダメージを負っていく。
ロイネルは、通信回線をライデンの艦隊につなぐ。
「同盟所属艦隊であることは間違いなさそうだが、あの幻のランカー、ライデンなのか!」
モニターにライデンの顔が映し出される。目深に被った制帽で目元は見えない。
褐色の肌で、精悍な顔つきであることは見て取れる。赤い同盟軍の制服に身を包んだライデンは、両手を交差させた。
ライデンは黙ったままだ。
カリスタリオンの背後から巨大な艦がワープアウトして姿を現した。
通常艦の50倍の大きさの巨艦、特別作戦用主力艦イーオーリスである。
ロイネルたちも初めて見る。
イーオーリスの五つのレーザー砲台からレーザーが放たれる。ガリウダが静かに崩壊していく。
〈チャット:こんな圧倒的な……〉
〈チャット:ガリウダが、陥落させるまで数週間かかる要塞が……〉
〈チャット:俺たちは何を見せられているんだ?〉
あちこちから炎や火花が上っているガリウダからは、いくつもの帝国の艦隊がわらわらと戦場に出てきた。
同盟軍の艦隊が応戦。ただしイーリーオスのレーザーに帝国艦隊はなす術がない。
帝国艦隊は敗走し始めた。
〈チャット:ガリウダを落とせたのか?〉
〈チャット:――やったのか〉
〈チャット:ライデンのお陰だ〉
〈チャット:ちょっと声をかけてみようぜ。ライデンさ……〉
ライデンの艦隊はすぐさまワープアウトを始める。元帥ロイネルは、ライデンとの通信回線で、ライデンに言われたことを繰り返していた。
――次はない。すべての要塞は自分たちで打ち砕くことだ。
同盟軍最強と呼ばれたロイネル艦隊はその日、自らの小ささを思い知った。
*
ワープするカリスタリオンのなかで、ライデンは頬を緩めていた。
「デカい要塞だったな~。でも報酬でホクホクだ~。――にしても、ロイネルって要塞戦というより、元帥クラスの大物だよな……、そんなに苦戦するような要塞か? アレ。ま、いいか」
ワープアウトして、つぎはどこの要塞を沈めるか?
そう思えたのも束の間、やっぱり自分には、あそこが合っていると思える。
気づくと、同盟の主星に辿り着いていた。着艦はせずに、進路をあの場所へ向ける。
主星からたったの一分の立地、訪れるのは、ビギナーしかいない穴場の要塞。
――Lv.1訓練要塞である。
多くのプレイヤーたちが、中央星系にある様々な要所を攻略しているが、ライデンはべつだ。
ライデンは、Lv.1訓練要塞を主戦場にする、ぼっちプレイヤーだった。
友達がいれば、要塞戦を楽しめるだろう。
ただ、チャットでどう切り出せばいいか分からない……!
(訓練惑星は、いつでも俺を出迎えてくれる聖母のような要塞だ)
そこで訓練をし続けたライデンは、いつしか強大な力を持つようになった。
多くのプレイヤーたちが敵国の要塞戦でしのぎを削るなか、ライデンだけは違ったのだ。
要塞戦で地道に要塞を攻撃して、上位ランカーになる。そこで年間特典をたくさんもらう。スキルを上昇させる。要塞を攻撃する。この図式が完成するまで半年とかからなかった。
――これはぼっちなのに最強になってしまい、全プレイヤーから注目の的になってしまった要塞戦のエキスパートの物語である。




