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…ここは何処だろう?
寝惚けた頭で辺りを見回すけど、何故か外だ。しかも森の中にいるようで…自分がいる所だけぽっかり原っぱのようだった。大きな木の下で寝転がっていた僕は、ゆっくりと身体を起こしてみた。
視線を下に向けると見える手や腕が子どもように小さい。あれ?誰の手だ?グーパーを繰り返してみる。うん、3歳の甥っ子のサイズ…え?
目線も低い気がする…。
「やあ!起きたんだね。君の服が落ちていないか探したけれど見当たらなかったよ~湖で泳いでここで寝ていた訳じゃなかったようだね」
「……………」
「うん?聞こえているかい?御両親はどこ?」
「……………」
銀髪に蒼眼の若い男が心配そうに語り掛けてくれているが…なんて答えたら良いんだろうか。
その前に、何で俺、子どもになっている?しかも、ここは何処だ?
パニックなのだろうか、声が出ない。
「大丈夫?私はリゼルと言うんだが…君の名は?」
優しく微笑んで、ゆっくり近づき膝を折って目線を合わせてくれる。怖がらせないように気を配ってくれているらしい。
「ぼく…名前?あれ…名前なんだったけ?」
名前…マジで思い出せない。ヤバイ…ここの人間じゃない。俺は日本人で16歳高校生だった筈。
さっきまで部活でバスケの練習試合に出ていたのに…何で名前覚えていないんだ?
ヤバイ…泣きそう。
「ぼく…分かんない。名前…ここどこ?両親…ここにいない。この世界にいない。何で?ぼく、ここにいるの?」
目が潤んで涙が溢れそうになっている。何でだろう、身体が幼児児になったからか、精神状態が子ども化しているらしく、心細い。
イケメンが自分のマントを外して、僕を包んでくれた。
「うん。名前覚えていないのか…親もここにいないとなると…君を保護しなきゃだね。怖くないから…ね。一緒に連れて行くよ」
優しく抱き上げて、僕を抱えて待たせていたらしい馬に乗せてくれた。
「さあ、行くよ。揺れるから静かに私に捕まっていてね。ここから30分程度だから」
馬は、それ程速度を上げずに森えお出て、街を通り過ぎた。あ、森の端っこにいたんだ…街はヨーロッパみたいだ。石造りなんだなぁ…車やバイクが走っていないのか。あ、馬車だ…。
俺が子どもに…しかも幼児。異世界転移なのか?それとも異世界転生で記憶が突然蘇ったのか?でも、何で裸。
混乱する頭でぐるぐる考えるけれど…分からない。
言われたように、おおよそ30分の道程で少し気持ちが落ち着いてきた。うん、この人は親切そうだから、身の安全は確保出来たのかな?
取り敢えず、落ち着こう。
「あ、見えてきた。あそこが私のお家だよ」
親切なイケメンが微笑んで指を指した場所は、お城だった。
「………………」
「………………王子さまですか?」
「あはは。違うよ~私は辺境伯爵。ここはグレハイランド王国。私はリゼル・フォン・ランド。昨夜から森からおかしい気配があってね、念のため警戒して巡回していたんだよ」
爽やかに笑うリゼルは、貴族だったらしい。うーん王子かと思った。城だし、城に住んでいるし。金髪碧眼で城を掛けたら王子だって鉄板だろう。
ああ、だからか…後ろから馬に乗る男達が離れて付いて来ていた。あれは、騎士なのかな?
門を通って、門番は敬礼だけして素通り出来た。あっ、本当に偉い人なんだ。それにしても大きな城だと思う。
俺は部屋に抱っこされたまま、どこかの部屋に連れて行かれ年配のメイドのような人に渡された。
「この子を保護した。連絡は行ったか?」
「はい、子ども服を準備しましたので入浴後に医師に診せる手配をしております」
「診察の報告と一緒に、この子と食事をする」
リゼルは後方で待機していた執事?のような人に伝え、部屋を出て行った。
俺は、年配のメイドに指示された若いメイドに風呂に入れられ、そのままの姿で医者に診て貰った。
「問題ないでしょう。僕、名前と年を教えてくれるかい?」
「………僕…名前、覚えてないの。僕、いくつか分かんない」
涙がポロリと溢れる。
「そうか…頭などに打ち身はないから、精神的なものかもね。取り敢えず、3歳位だと思う。ここで、ゆっくり休んで安心しなさい。先ずは、ご飯食べてね」
30代前半位のお兄さん先生が、優しく語り掛けてくれた。
俺は、幼児服を着せて貰うと手を繋がれて食堂へ連れて行かれた。
「ああ、待っていたよ。お腹空いたか?一緒に食べよう」
目の前に置かれたお皿には、ホテルのビュッフェで出される洋食のようだった。
あ~良かった、食べられそう。俺、辛いの駄目なんだ。カレーライスも甘口じゃないと食べられないし。
診察結果を聞きながら、2人で食事をしていると。
「子ども拾ったって!?」
ドスドス突然男が入って来た。2メートル程ありそうな恰幅が良い茶髪碧眼の20代後半位の奴。
「あ~あなたは!うるさいですね。この子が怯えてしまうでしょ。静かにして下さい」
「ああ、すまんな。俺はリディック・フォン・ランド。こいつの兄だ…それにしても、凄く可愛い子どもだな!黒髪、黒目…黒曜石のように潤っていて…女の子か?」
俺を注視している目がなんだか怖い。
日本に居た時、物心付いた時から俺は人の視線を集め易かった…老若男女に。良い意味でも、悪い意味でも…。
だが、こいつは良い方の眼だったらしい。ゾッとした気配がないから身の危険は無さそうだ。幼児と言えども、危険回避はとても重要事項だ。
「??そうだった…この子の性別は?」
メイドにリゼルが問うと。
「男の子で御座います。医師は3歳頃と仰っていました」
「男の子か?それにしても本当に可愛いなぁ~名前は?」
メイド長と紹介された女性は医師の見解を説明し、静養するよう指示があったと兄弟に報告した。
「そうか…記憶喪失。一時的だと良いが…名前が無いのは不便だ。よし!俺が名前を付けよう!アルベルト。アルって呼ぼう!」
「っは!!なんであなたが勝手に名前を付けるんですか!」
「良いだろう?それともリリアーヌとかが良いか?」
そ、それって女の子の名前じゃん!
「アルで良いです!!」
「お!決まったな。アル、俺のことはリディと呼べ」
「はああ…アル、私のことはリゼルで良いです」
俺は住む場所と名前を兄弟から貰い、静養することになった。
因みに、辺境伯の爵位は次男のリゼルが授爵。長男のリディックは王城で近衛騎士団長をしているんだって。爵位は侯爵。高位貴族で、爵位を複数持っているらしい。
3日程前から国王の指示があり、辺境に戻っていたそうだ。
俺は、やっと部屋に戻され考える時間ができた。
何故、突然この世界に飛ばされ、子どもになったのか。何故、名前だけ忘れてしまったのか、理解不能なことばかりだが、生きていくしかない。
そんなことをひとりベットに寝かされ考えていくうちに、寝てしまい、翌日昼頃迄グッスリだったのは、やはり子どもだからだろう。
先ずは…明日からだ。




