第30話 お姉さんの看病♡(前編)
「ゴホッ、ゴホッ」
「38度。熱ね」
ベットで横になって咳をする俺。そして、体温計を見てそう呟く雫。
頭がクラクラするし、体も熱い…まさしく熱である。
「今日が土日で良かったね、会社休まなくって済んだんだから」
「そ、そうだねっゴホッ、」
「ほーら、今日は大人しく寝ててね」
「うん…」
朝から少し熱っぽかったが、まぁ大丈夫だろうと思い普通に過ごしていたら、昼ごはんを終えたあたりから徐々に立っているのも辛くなって雫に気が付かれ、今に至る。
「今日はお姉さんが一日中看病するからね?」
「で、でも雫明日までにイラスト仕上げなきゃいけないんでしょう?」
「あ、そうだった…忘れてた」
「こ、こっちはいいよ。寝てれば治るし、雫は仕事してて」
「ほ、本当に?…」
「うん」
「わ、分かった。じゃ何かあったら呼んでね?」
「はーい」
「絶対だよ?」
「うん」
そう返事をすると雫は少しいや、大分不安そうに寝室を出て、仕事部屋へと向かった。確かに体調はかなり悪いが熱とかは基本寝とけば治るから大丈夫だろう。雫には一緒にいて欲しかったが寝とけば治る熱なんかで彼女の仕事の妨げになる訳にはいかない。今は我慢するしかない…やばい、本当にキツいから寝よう。
***
「はぁ…」
仕事部屋のドアを開いて、私は深いため息を吐く。愛しいの和樹くんが熱を出して寝込んでいるのに私は仕事というしがらみに囚われるなんて……
大丈夫かな?…私のハグとかチューとか欲しがってないかな?てか、私がしたい…
「はぁ……」
諦めのため息を吐いて、デスクに座る。
「あっ」
ふと、ある考えが頭を通る。
***
熱を出したのはいつぶりだろうか。10年ぶりくらいか?もっと前かもしれない。凄く小さかった覚えがある。
あれは雨の日だった。学校が終わって外に出ると大雨で俺は傘を忘れていた。天気予報ではちゃんと雨だと言っていたのに。他のみんなは傘を持ってきてて続々と自前の傘を広げて帰ってゆく。中には俺みたいに傘を忘れた子もいたが友達の傘に入らせてもらって帰ってた。俺も誰かの傘に入れて貰おうっと思って話しかけようとしたが、無視されたり、君誰だっけ?、みたいな事ばっかりだ。
軽いイジメじゃないかと思うからしれないが、俺は怒る事も、誰かにその事を言う事は出来なかった。なぜならこういった環境を作ったのは紛れもない自分だ。昔から学校をただ習い事し、終わったらすぐ家に帰る、そう思って誰とも話さなかった。
とりあえず、その時は結局大雨の中を歩いて帰った。歩き始めて2分くらいで体はずぶ濡れ。すれ違いの車の水しぶきがかかるし、間違えて水溜りにも足を突っ込んだりと散々なめにあった。
家に帰った時には母親には適当に課題やってたら友達みんな帰っちゃってたなどと嘘をついた。
その後、完璧に風邪をひいた。今と同じくらいキツかったが、あの時は母親がいつもそばにいたんだよなぁ。
特になんかしてくれたとかではなかったが、いてくれるだけで安心できるし…なにより自分の事を心配や気遣ってくれる人がいるんだなって思わされて…、
そう、まるで今みたいな安心感と温もりのように……
「あ、あれ、雫?…」
「あ、ごめん起こしちゃった?」
そこには母さん…じゃない。仕事をしに行ったはずの雫がすぐ隣にいた。ベットの背もたれの部分に背中を乗っけた状態で。
「ど、どうして、仕事は?」
「うん、やっぱり和樹くんを放って置けなくって、途中経過のイラストをパソコンからタブレットに送ったの。色塗りだけだったらタブレットだけでも出来るし、それに小さいからここでも出来ちゃうの」
「……」
俺は言葉が出なかった。いくら彼氏が熱を引いたからってそこまでしてくれるなんて…
「だから和樹くんは安心してお姉さんにくっついて寝ててね」
「どうしてそこまでしてくれるの?…そんな重い病気でもないのに…」
「なんでって、和樹くんは私にとって世界で一番大切な人なの。和樹くんが辛いと時も、悲しい時も、嬉しい時も、いつでもそばにいてあげたいの」
「雫…」
「それに私知ってるんだよ、熱の辛さを。私も小さい頃熱出した時、お母さんがずっとそばにいてね、別になんかしてくれたわけじゃないけど、凄く落ち着くし安心もしたんだよね。だから、和樹くんにもそうしてあげようと思って」
あぁ、やっぱりこの人は凄いな。俺が考える事、願ってる事、全てを分かってる。
「気にしないでお姉さんに甘えたっていいだよ?」
「…うん」
「でもその前に、今にも泣きそうな顔を拭こうね〜」
そう言って雫はベットの横にあるサイドテーブルからテッシュを取り、俺の目元を拭いてくれた。
「ふきふき。は〜い、完了。それじゃ、お姉さんのところにおいで」
俺はゴソゴソと雫の腰周りにくっつく。
熱のせいかもしれないが、今日は雫とずっとくっついていた気分だった。
***
「気にしないでお姉さんに甘えたっていいだよ?」
「…うん」
まったく、和樹くんったらまた泣きそうな顔して、
「でもその前に、今にも泣きそうな顔を拭こうね〜」
きっと昔自分が学校とかでひどい扱いされた事を思い出してるのね…私がその時に居てあげれば…
まぁでも、
「ふきふき。は〜い、完了。それじゃ、お姉さんのところにおいで」
そんな事あったからもしかしたら私たちは出会えたのかもね。
ふふ、和樹くんが私の腰に抱きついてきた。よっぽど心細かったんだね。私は彼の頭をよしよしすると、彼はすぐにまた眠ってしまった。
でも、彼が寝たからって私は離れたりなんかしない。和樹くんが眠っている間にイラストを描き終わらせる。
「よし、出来た。色塗りだけなのに1時間くらいかかっちゃった…」
タブレットでのイラストを描くのは本当に久しぶりで苦戦してしまった。しかも、私は色塗りに結構こだわるのでもっと時間かかったしまった。でも、
タブレットをサイドテーブルに置き、1時間間ずっと私の腰に抱きついたままの私の大好きな和樹くんを見る。気持ちよさそうに寝ている。
「時間はかかったけど、和樹くんのそばに居れたからいいや♡」
後編もお楽しみに!!




