39 魔法は使い方次第らしい
これは火事場の馬鹿力というものなんだろう。
私は邪魔になるものは、枝も草もすべて魔法で排除しながら走った。
木々の密集している場所を選んで進んでいるので、私のところまで飛竜が簡単に降りてこれないのも幸いして、今ところ一度も攻撃を受けていない。
視界に入った飛竜は、力では叶わないので、比翼のつけ根だけに集中して魔力を注ぐ。それが殊の外上手くいって、片翼の骨が砕けた飛竜はバランスを崩して見事に落ちていった。
「どこにいるの? ルーヴァス様。私の運が尽きる前にどうか……」
とにかく、前に向かって進むしかない。
そう思って我武者羅に走っていた私は、呼吸が激しくなって息をするのも辛くなってきた。そのため周りを警戒する余裕がなかったのだ。
まさか自分の前方に飛竜が隠れて待ち伏せしていたとは思いもしない。それは他の飛竜に比べて体躯が小柄だったから、木々の間に降り立つことができたようで、こっそり私の行く手を塞いでいた。
まずいっ。
私がそう思った時、その飛竜に向かって何かが飛びかかる。
「あっ」
それは私を追ってきていた公爵家の騎士たちで、自らの爪で戦える戦士が三人。
私は気がつかなかったけど、どうやら並走していたようだ。
「ちっ」
騎士のひとりが舌打ちをうった。
彼らが動くよりも早く、小柄な飛竜が上空へと飛び立ったため、仕留めることができなかったからだ。
「王妃様、まだ走れるようでしたら、このままルーヴァス王と合流したいのですが」
「わかったわ」
私があの場から動いたことで、飛竜も分散されていた。だからこのまま、移動を続けた方がいいと判断したらしい。
そう言っても、屈強な騎士たちと私の足並みが揃うわけもなく、
「無礼、申し訳ございません」
そう言われたかと思うと、あっという間に荷物を運ぶような状態で肩に担がれてしまった。
その騎士は熊のように大きく、私の重さなんて微塵も感じないのか、他の二人のスピードと変わらずにどんどん先へと進んでいく。
「うっ、結局私は何をやっているんだろう」
この状況だと私はただ地面を見つめることしかできない。
これ以上足手まといになりたくないから、頑張って上半身を起こし、自分が見える範囲にいる飛竜に向かって魔法を飛ばしてみる。
さっきは無我夢中でやっていたけど、片翼の接続部分を傷つけることができれば、飛竜は意外と簡単に地面に落ちた。
そうなると地上での飛竜は動きが制限されるから、討伐するのがかなり楽になる……そう教えてくれたのは私を担いでいる熊騎士だ。
そのまま、運ばれること数分。突然私たちからはかなり離れた前方でドオンッと大きな音が轟いた。それは一体の飛竜が落下した音のようだ。
「ルーヴァス王か?」
「ルーヴァス様?」
うしろ向きの私にはその姿を見ることはできない。
「いや、俺たちにもまだ見えてない」
その後も前方から、飛竜の咆哮や金切り声、それに落下して地面に叩きつけられる音が鳴り響く。
それがどんどん近づいてきていることだけは、担がれていてそっちの方向を見ることができない私にもわかった。
「あれ、ルーヴァス王だよな?」
「なんかいつもと違くないか?」
飛竜を退治しながら近づいてくるのは、やっぱりルーヴァス様だったらしい。
熊騎士たちが困惑しながら話しているけど、こっちだってまだそんな余裕はないはずだ。
だというのに、そんな言葉が出てしまった理由。
それを私が知ったのはルーヴァス様の姿を目にしたその時だった。




