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12 それを人はストーカーと呼ぶらしい

「ルーヴァス様と会うことが出来ない時点でどうしようもないと思うの」


 今のところ私には何もすることがない。たぶんこれからも。

 それを思うと王宮に置いてもらっているだけでも有り難いことだ。いずれ追い出されるかもしれないけど、それはその時考える。


「ビアンカはルーヴァス様の一日の行動をどれくらい把握しているの?」


 ビアンカは侯爵令嬢だそうだ。

 ペルセダンでは女性でも武力に優れていれば近衛騎士にもなれるらしい。

 貴族家出身で騎士になった女性は主に王妃や王女の警護をするみたいだけど、ルーヴァス様にご兄弟はいないし、先代のイザベラ様は女性騎士をそばにはおかなかった。

 だから、ビアンカも初めての護衛任務だそうだ。


「行事や会議がない場合はほとんどが執務室にこもって書類の整理をしていらっしゃると思いますよ」

「それなら執務室の前にいれば移動する時にお会いできるってことよね」


「まさかアルティナ様はずっと廊下で張り込むつもりですか」

「向こうからは会いにきてくれないのだから、こっちから行くしかないもの。だめかしら」

「だめだと否定することはできませんが、一日中ルーヴァス王の執務室の前にいるのはどうかと思いますが」


「だって部屋でお茶をしていたとしても同じだけ時間は過ぎていくのだし、何もすることがない私はどこにいても同じだもの」


 それに侯爵令嬢のビアンカと言う護衛ができた今なら、部屋の外に出ても誰かに絡まれることもなさそうだ。


 私はチラッとビアンカに目を向ける。


 いろんな意味で迫力がある女性だ。騎士だからだろう、とてもしなやかな肢体なのに、それでいて女性らしい部分はその存在を大いに主張している。


 年齢は二十六歳。


 これだけ魅力的なのにいまだに独身だから、巷にはルーヴァス様の相手として勘違いされているらしい。


 勘違いと言うのは本人談で、どうやら周りは本当にそうなってほしいようだ。二人をくっつけるためにビアンカの任務はほとんどがルーヴァス様の近くばかりだった。それで、最近は秘書みたいな状態になっていたらしい。


 私は事前にそれをリゼから教えてもらっていた。


 ビアンカなら身分も問題ない。世継ぎの件も二人の子どもなら、どちらに似たとしても次期国王として十分威厳のある子が産まれそうだし。


 ルーヴァス様がいまだに愛妾を持っていなかったのは、王妃として迎えるカカルシアの姫に失礼だからというだけで、残念なことに別に私のことを待っていたわけではない。


 心待ちにしていたと言う言い回しも、王妃さえ嫁いで来てしまえば、あとは誰にも気兼ねせず愛妾を持つことができるからだったらしい。


「二十九歳まで待っていたなんて、ルーヴァス様はそんなところも誠実なのね」

「ルーヴァス王だけと言うわけではございませんが、確かに今までは二十歳前後でご結婚されていますからね」


「そうと決まれば今すぐ行くわよ」

「本当にいくのですか」

「ええ」


 そして私はビアンカとリゼを連れてルーヴァス様の執務室に向かった。お仕事の邪魔をして嫌われたくないから、あくまでも廊下で待つだけだ。


 扉の前で警護している近衛騎士が二人。


 そこから八メートルくらい離れた場所で女三人が立ち話をしているのが気になって仕方がないようだ。しょっちゅうこっちを見るので、仕方なくビアンカに私がルーヴァス様の出待ちをしているだけなので、無視してほしいと頼みにいってもらった。


 そしてそのことはルーヴァス様には内緒にしてほしいとも。


「リゼお薦めの焼き菓子を買収に使ったから大丈夫よね」

「それはどうでしょうか」

「一応、私からもお願いしておきました」


 ビアンカはこれはゲームだと説明したらしい。わたしが張り込んでこんなことをしていることにルーヴァス様がいつ気づくのか賭けをしてるのだと。


 それを邪魔するような無粋なことはしないでほしいと言ったら苦笑いされたそうだ。


 相手は近衛騎士だけど、私たちが危険人物なわけではないので、なんでもルーヴァス様に報告する必要もないはず……だよね?


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