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VRMMOでリアル恋愛を模索してみる。  作者: 棗 御月
誰かの心を知るオレンジの国
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再来の○○



 さらにもういくつかの情報をもらってから、おすすめされた宿に向かっていた。

 そして、この町を歩くと見えてるのは当然柑橘類の山。これほどまでに目に入り、また食していてなんでこの街の人たちは飽きないのだろうと心底気になった。もし自分がこの街に生まれていたら平気だったのだろうか?

 宿は思っていたより近くにあった。店主も紹介された旅人が来るのには慣れているようで、すぐに案内をしてくれる。恰幅のいい、優しいおばちゃんだった。

 宿の部屋で三人で集まってこれからの予定の確認をする。明確に敵の位置がわからない事には積極的な個性に出られない。よって、


「ずっと切った張ったとか旅のことばかりっていうのもなんだし、明日は情報収集と街を楽しむ日にしたいと思います」


「賛成ですっ!」


 ユリナが嬉しそうに小さく跳ねながら同意してくれた。実はフローラズ王国にいるうちからバレンシア国に来るのは予定していたのもあって、ユリナにはこの街の楽しみ気分が大きかったようだ。事前にどんな街か聞かせていたのもそれに影響しているに違いない。

 魔女の館に馬車の移動が最初に思っていたよりずっとハードになってしまったのは不測の事態とはいえ、本人すら自覚がないレベルの所で鬱憤が溜まっていたのかもしれない。

 何はともあれ、明日はたぶん一日中歩きどおしになる。早めに寝ておくに越したことはないだろう。


「にしても、このミカン美味しいね」


「まだ食べられそうですけど、もうそろそろにしておかないとですよね……」


 露店で帰りながら買ったいくつかを食べてみたのだが、これがどれも美味しかった。

 ミカンは基本的に甘く、程よい風味がとても美味だった。白い筋が再現されていたのには驚いたし、中心の方の筋を取った時に汁がにじんだ時には再現度に脱帽。

 オレンジはいかにもなものから駄菓子の雰囲気を感じるもの、とにかく多きいものまである。そのどれもが美味しかったし時には酸っぱさに顔をすぼめた。

 だが、たとえどんなに美味しくてもそろそろ加減というものがある。


「まあ、また空いた新しいの買って食べ歩きでもしたらいいんじゃない?」


「そうしましょう!」


 と、言うわけで。

 明日の予定も決まったことだし、早めに宿で睡眠をとることにした。部屋の明かりに使われている蝋燭の蝋に柑橘類の皮が入っているらしく、とても良い心地で寝ることができた。



◇ ◇ ◇



 翌日の朝。

 宿は一階の食堂で朝ご飯を食べて、適当に身だしなみや持ち物を検査したら出発。武器とかは最低限にして、代わりに所持金を多めに持っていく。宿のアイテム枠に預けておくことで、もしランダムイベントの盗難などが起こっても本当に重要なものは奪われなくなるのだ。

 一通りのチェックを終えて、宿の前に集合。そして、街の散策に乗り出した。隣にユリナ、一歩遅れたところに着いてくる由梨菜。なんだか贅沢な感じだ。

 そして目に入る物の数々。どれもが高いクオリティとオレンジ度だった。


「見てください、オレンジのアイスですよ!」


「皮いり、棒はミカンの木から。薫り高く仕上げました、だって。気になるなら買おうか?」


「お願いしますっ!」


 ユリナはさっきからずっとこんな感じでテンションが高い。とりあえずはメインの目的である情報収集を忘れないように、騎士の屯所や門に向かいつつ露店を見て回ることにした。露店には威勢のいい声をあげる人がたくさんいる。どれもが香りも相まってとても魅惑的だ。

 とりあえず、目についたものの中で一番気になったものを買ってみた。


「ミカン饅頭だって」


「綺麗な薄いオレンジ色ですね」


 外はは白餡をベースに作られている。その餡にミカンが使われているようで、果物が入っているタイプではないようだ。実はあんまり身が入っているやつが好きじゃないからこれは嬉しい。

 外はスベスベ、味はさわやか。こしあんにしてあるおかげで食感が気にならないのも美点だ。

 手触り、爽やかさに思わず惚れている間に口の中から溶けて消えていった。


「美味しかったです!」


「これは他の露店も期待だね。……店は選ばなきゃいけないけど」


 同じように美味しそうな物もあれば、なかにはミカン干しの酢漬けとかいうもはや何がしたいのかわからないものまである。意外にもまさか、ということが無いわけでは無いけど、あんまり冒険する気にもなれなかった。

 そこで次に目についたのが、こんな店。


「オレンジ占い?」


「聞いたこと無いなこれは。どうする? 時間もあるし、行ってもいいけど」


 古びた屋台の台の、本来なら壁になっているだろう所に紫のカーテンが掛かっている。普通なら店主の顔が見えるはずの所には誰もおらず、拳大の水晶が一つあるだけ。

 うさんくさー、と思ったのは仕方ないと思う。カーテンから覗く顔は、どう見ても少し大きめなだけの小人のお婆さんだったのだから。


「興味があるかい、坊主ども。安くしとくよ」


「この看板のラッキーアイテムもありますというのは?」


「占いに合うチャームのアイテムをくれてやるのさ。一日はずせない代わりに効果は保証するよ」


 運勢を占い、一日はずせない代わりに確かな力のあるアクセサリーアイテムをくれる。一日経てばそのアイテムの下位アイテムとして記念に残る類いのものだろう。

 一回の料金も安い。であれば、損は無しと見た。


「なら、三人分お願いします」


「ほっほ、よろしい。では、そこな男からじゃ」


 そう言いながら俺を指差した。どうやら占い順はお婆さんが決めるらしい。

 お婆さんは独りでに動き出した水晶を手に取り、中を覗き込みながら占いを紡ぐ。


「お前さんは……そうさねぇ。何か目指すもののために努力しているようだね。そのためにしている寄り道は決して悪いものではないだろう。だけど、その道だけに固執しないことが大切だよ」


「固執しない?」


「そうさ。寄り道が本来の目的になってはいけない。そこを履き違えるんじゃないよ。ほれ、ラッキーアイテムはこのモノクルだ。真贋を見通す目を持つんだよ」


 その言葉と共に、左目にモノクルが装着された。視界の見えやすさは変わらないから、度は入ってないはず。お婆さんの言うことから察するに、これで見ればその物が本物かどうかの是非がわかるのだろう。

 そんな風に分析とお試しをしていると、お婆さんは次にユリナを指差した。


「そこな嬢ちゃんは……そうさねぇ。快活さ、純粋さを持ち前の武器としてこれからもやっていけるだろう。それ故に、本心が自分でもわからない事があるはずだ。それが不安になることもあるだろう」


 そこで一拍呼吸をおく。


「それでも惑わされないこと。頼れる人がいることを忘れないでおくといい」


「はいっ!」


「元気でよろしい。ほれ、ラッキーアイテムはシュシュだ。髪も心もしっかり結んで、(ほど)けないようにしておくんだよ」


 ポンっという音と共にユリナの髪がポニーテールに結い上げられた。その尻尾の根元にはオレンジ色の可愛らしいシュシュがある。本人は見えないだろうから、と鏡を貸してあげた。

 お婆さんはオレンジを一口。そして最後に由梨菜を指差す。


「お前さんは……そうさな。もう少し自分を出したらいい。お前さんを大切にする人はきっとお前さんの思う以上に多くて、頼りがいのあるものだ。素直に、自分に正直に。そうするといい」


「はい」


「ほれ、ラッキーアイテムは猫耳(・ ・)だ」


「……はい?」


 ポン、という音と共に由梨菜の頭に猫耳が生えた。シャム猫のような、ピンとしたタイプのもの。由梨菜の驚きを表すようにピコピコと揺れている。

 そう、いつぞやぶりの猫耳。しかも少しオレンジ色の掛かった、ファンタジーバージョン。かなり似合っている。

 ユリナから鏡を返してもらって、今の姿を見せてみた。


「え、なんで生えてるんですかこれ」


「良かったね、今度はカチューシャじゃなくて生えてるみたいだよ」


「良くないですっ!」


 耳の毛をワサワサと逆立てている。多大な驚きと少しの怒りを込めてお婆さんに視線を向けるも、もう占いは終わったんだし帰りなという表情を返されるだけ。なんとも現金というか、商売っ気のない人だ。

 しかし、こう……何というか。目の前でケモミミが揺れていると手を伸ばしてしまうのが人間の本能であって。


「……」


「だ、だめです。お触り禁止です」


「そんなこと言わずに、少しだけでいいから。ね?」


 じりじりと距離を詰める。

 由梨菜も本気で禁止令を出しているのではなく、恥ずかしいからというのが本音のようだ。実際、ある程度の所で多少の諦めが入ったのか後ずさりは止めている。

 猫耳まであと六十センチ。


「触っていい?」


「す、少しだけですよ?」


 無事許可をいただいて、六十センチの距離を詰めていく。

 由梨菜は少しうつむいて、上目遣いで耳を差し出していた。


 そして、指先がケモミミに届いた瞬間に悟った。


「あー、最高の手触りだわこれ……」


 毛並み、手触り、温もり全てがパーフェクト。完全体猫耳ですわこれ。

 この夢のような耳が、撫でても揉んでもOKだなんて。


 結局、無駄にリアルな感触に耐えきれなくなった由梨菜が本格的に禁止令を出すまで触り続けていた。それほどまでにケモミミは最高だった。

 ちなみに、お祈りのアイテムなので一日消えないだけでなく隠すこともできないらしい。由梨菜は甲冑型の防具や帽子など、たくさんの頭装備を試しても隠れないことに気が付いたときはさすがに言葉を失っていた。

 



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