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キューブ  作者: 水野 閖
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025 戦利品

 戦いが終わり蝙蝠こうもり型のキューブ捜索も終わった翌日、負傷したエミリーの病室にジョナサンと蔭川が集まり、三人で向き合っていた。ベッドに付けられた机の上には指輪一つ、七体のキューブとカードが置かれている。


 『贈与の悪魔』Aランク、支配者。

 シュゴフ教の開祖スーザンのイソギンチャク型キューブ。戦闘には参加していなかった。戦闘向きではなかったのだろう。


 『贈与の大鬼』Bランク、眷属。

 短気でマッチョなジョンのキューブ。


 『贈与の番犬』Bランク、眷属。

 学友サミーのキューブ。ドーベルマンに似ている。

 これの位置特定能力で都心から離れたブルーマウンテンに隠れた蔭川の行方を探し出された。


 『贈与の双竜』Bランク、眷属。

 ササのキューブ。とても硬い。実質的に一番の強敵だった。


 『贈与の死人』Cランク、眷属。

 ライアンのキューブ。特に活躍なし。


 『贈与の蝙蝠』Dランク、眷属。

 ズーイのキューブ。サミーが死んだ後、聴覚を頼りに蔭川を探していた。戦闘はなかったが、Dランクという事は結構弱かったのかも。


 そして、蜘蛛型の守衛である。

 蔭川が持っているのと全く同じである。


「ようやく一息つけるようじゃな」

 ジョナサンは最初から最後まで朗らかな表情を崩さなかったので、発言に信憑性が全くない。胡散臭い台詞だ。

 今回の事もいつも飲むコーヒーに砂糖を多く入れ過ぎて面倒だったという位の実感しかないのではないかと、怪しむ蔭川の眼も細くなる。


「終わった、の?」

 負傷して入院していたエミリーには寝耳に水だったようだ。ブルーマウンテンまで攻め入ってきたシュゴフ教に負傷させられて数日しか経たない内に本部が壊滅して全て終わった。

 そんな短期間の決着だったので全治二か月の腕は当然まだまだ固定されたままだ。


「一応ね」

「後の憂いを絶つなら生き残った幹部も殺すべきじゃ。でも、そうはせんのじゃろ?」


「うん。もうキューブも能力もないのだから、一般人だ。僕が何かしたのを見られたわけでもない」

「それでもしっかり始末するべき」


「それはそうじゃな。でも、強固な牢獄に捕まったようでの。根絶やしにしようと思ったとしても、さすがに今は動けそうもないんじゃ」

 サボサの情報操作の賜物だが、国内で最も強固な牢獄に避難する事に成功していたのだ。

 ここへ忍び込んで暗殺するとなると、モート家としても見返りもなしに動く程の仕事ではない。腰を据えて挑む程の難易度なのだ。この件に関しては咄嗟の機転でそこまでの護りを固めたサボサの実力を褒めるべきだろう。


「そう……」

「さて、そうなると戦利品の分配じゃな」

 仲たがいが発生しやすい戦後の話し合いを切りだしてきた。


 親玉を含むキューブ使い四人を屠った蔭川、残り二人のキューブ使いを排除し後始末や情報提供したモート家。

 蔭川だけでは誰かに気取られる事なくキューブ持ちを殺すのは無理だった。

 モート家ではスーザンやササを倒すのは不可能で反撃に備える必要が後々出た可能性もあった。


「戦いへの貢献度は半々かな?」

「そうじゃな。協力すると言ったのは善意じゃから深く考えんでもよいがの」


「えっと、仮に半々にするとしても、問題がある」

「ほほう……」

 エミリーは静かに蔭川を眺めている。ジョナサンは変わらず朗らかな笑顔だ。

 親子揃って胸の内を読ませない仮面のような面持で、心理戦で敵に回したくない相手である。きっとポーカーが強い。


「スーザンが持ってたイソギンチャクみたいなキューブが親玉で、蜘蛛型以外の五体は眷属なんだ。つまり、手下って事」

「六体がセットという事じゃな。困ったの。」

 そのキューブ六体と比べたら、蜘蛛型キューブと指輪はゴミみたいなものである。

 ランクの差は激しすぎて本当に気持ち程度だ。蜘蛛型キューブは売値一ヨムの価値しかない。新品でも推定二ヨム程だ。対するAランクキューブの売値は百万ヨム以上、Bランクは十万ヨム以上である。


「他の分配方法は売却してお金を分けるのはありかも」

「しかしの、こんな世間に知られていない物を売るのは難しいじゃろうな」

「キューブを取引するお金にできるんだ」

「ほう」


 ジョナサンの眼が初めて鋭く光った。


 只ならぬ気配が部屋を包み蔭川を震わせた。もし不死身でなかったら、この場で暗殺されたかもしれないと考えさせられる程の威圧感だ。娘であるエミリーも一瞬びくついて身構えていた。

 しかし、それはすぐに霧散した。


「すまんの。恐ろしい情報に精神を揺さぶられてしもうた」

「一応言っておくけど、これは極秘情報だからね」

 蔭川は今だにぞくりと背中に嫌な恐怖感を感じていた。

 ジョナサンが自分の頭をぺちっと叩き、首を横に振った。


「すまんの。儂は何もいらん。くれると言うなら代わりにエミリーにやってくれ」

 そして、彼は足音もなくそよ風が流れるように病室から出て行った。

 蔭川とエミリーが目を合わせて安堵の息を吐く。


 柔らかい表情と雰囲気のはずなのに、さっきの威圧感が後を引いている。

 エミリーの頬は少し赤く染まった。


「んー。このキューブを売って、半額分のキューブを買って渡すのはどう?」

 お金をそのまま移動させる事はできない。一旦、キューブに換えて渡すしかないのだ。

 眷属以外で購入できるキューブは最高Eランクなので、量は揃うだろうが質は大幅に下がる。

 エミリーは指輪から冊子を出し、売物欄を眺めている。


「もらえるなら何でも嬉しい」

「よかった。あ、まずは売値だよね。そもそも売れるかも確認してないんだった」


 売って山分けと提案しておきながら売却不可なら、売ってどうするか話すなんて時間の無駄である。

 同じ支配者シリーズの影ヒコーキ君(チェーニ)は売却不可なのであり得ない話とも言い切れないのだ。


 ただし、違いもある。影ヒコーキ君(チェーニ)の場合は所有者かキューブのどちらかが破壊されれば死を共にする、言わば一蓮托生だ。スーザン達の場合は死んでもキューブは壊れず残っていた。それで、蔭川は売却不可などの縛りがないと勝手に推測していた。

 支配者のカードの所有者欄も空欄になっているのも大きな判断材料だ。


 蔭川は机の上に手を滑らせカードを取った。

「ブック。あ」


 蔭川の左眼の前に薄っぺらい冊子が出現した。ジョージが以前出したものと瓜二つのその冊子はエミリーにも誰にも秘密だったものだ。

 影ヒコーキ君(チェーニ)を使ってシュゴフ教壊滅させる時も目撃されないようにしていた蔭川だが、何らかのキューブ持ちである事は皆察しているので今さらである。


 気まずい顔の蔭川を見るエミリーの顔は微笑を浮かべていた。


「大丈夫。秘密は守ります」

 使命感がひしひしと伝わる笑顔である。

 普段から笑っても表情に殆ど変化のないエミリーの笑顔である。苦笑した蔭川は戦利品のカードをページめ、売却欄へと操作する。


「眷属は単体では売却できないみたいだな。支配者の方は単体で百万ヨム。うわっ、百万?」

 命約ブックに表示される蔭川の所持金は一桁である。

 購入できるAランクの眷属『絶対なる魔王』が五百万ヨムなのだから、同じAランクのカードの値段も突飛とっぴではない。


「眷属と一緒に売ると二百万二千五百ヨム。約二百万……」

 蔭川の口がだらしなく半開きになっている。

 二番目に高かったBランクの『絶対なる白竜』を二枚買ってもお釣りが返ってくる値段である。


「百万ヨムずつ」

 眷属シリーズを除く中で一番高額なキューブEランクの『ただの兵』八十ヨム。一人分の分け前でも一万二千五百体分である。


「そうだね。売るよ?」

「うん」


 蔭川の所持金が二百万ヨムを超えた。机の上のキューブとカードがふっと消失する。

 そして、購入欄へと指を動かす。


「うわ……。魔王までの距離が一気に……」

 蔭川の分け前でも『絶対なる魔王』の売値の二割分、今はエミリーの分け前も所持しているから四割分持っているのだ。


「魔王欲しいの?」

「それは欲しいよ」


 無表情で顔を向けるエミリーに蔭川は素直に答えた。スーザンのキューブの能力は不明のままだったが、キューブの性能はたとえFランクでも現代技術を上回っている。Bランクだって強力な能力を持っていた。強い戦力が欲しいのは当然だろう。


 そして、その戦力が自分の手下であれば尚更である。この時点ではまだ眷属への束縛力や上下関係を把握し切れていない蔭川だが知らないからこその興味もあった。食べた事のない料理を食べてみたいと思う欲求と同じ類だ。

 ただし、一度食べて飽きるかは別問題である。


「それなら、買おう」

 エミリーが決定事項を告げるように粛然と声にした。いや、いつも通りの声なのだろうが、そういう感覚を蔭川は覚えた。


「ん? いや、無理だよ。お金足りない」

「カード集めて売ればいい」

 今の所、カードを手に入れる方法は交渉か強奪によってキューブ持ちから手に入れるしかない。足りなければ奪えばいいという暴虐な理論だろうか。


 蔭川の顔は引きつってにやけ顔になった。内心と外面が合致していない誤解を受けやすい顔だ。

「それは、駄目だろう」

「駄目……?」


 やはり無表情のエミリーである。

 蔭川は言葉に詰まった。

 そういう無理やり奪う真似ばかりしていると敵も沢山できる。そうなると、いつか我が身を滅ぼしてしまう。


 では、エミリー達のように暗殺して敵を根絶やしにできれば問題はないのか。敵が出来なければ残虐の限りを尽くしていいのだろうか。

 蔭川は頭を横に振った。


「そもそも僕が魔王みたいな戦力が欲しいのは防衛力を高めて他人を気にしない生活をするためだ。戦いに追われる生活だと本末転倒だからな」

 蔭川は善悪を語るつもりは全くなかった。自分の為に他者をけり落とすのは自然の摂理でもある。


「うん」


 確かに魔王は欲しい。すごく欲しい。

 仮にエミリーが協力してくれるとしたら何とかなる気もする。蔭川は迷ってばかりだ。


「んー、たぶん、あれだね。本当は自信がないだけなのかも。えっと、戦利品分配しないとね」


 蔭川は自分の不甲斐なさにため息をついた。


「今は、いい。預かっておいて欲しい」

 表情が変わらないので何を考えているかわからない。


 大金を持っていたら狙われる可能性もある、かもしれない。その点、蔭川は不死身なので安全な保管庫でもある。暗殺一家と暮らしていても今のところ死ぬ方法が見つかっていないので、相当な守りだろう。


 彼からヨムを奪うには催眠術や交渉といった武力以外の手段を用いるしかない。逆に言えば、そういう内面に訴えかける行為に関しては、モート家や策略家にも付け入る勝機がある。


「……わかった」


 戦利品の分配は一応の決着がついた。

 因みに回収した指輪には『灰色の守衛・蜘蛛』と『一ヨム』入っていた。


 一方のジョナサンはキューブを強奪しに忍び寄っていた人物を縛り上げ、拷問と言う名の軽いお仕置きをしていた。

 暗殺の方が慣れていて楽なのに、わざわざお仕置きという軽い処置なのは今だに未遂であった事が理由ではなく、単に身内贔屓である。


 そう、まさに今、全身串刺しの刑で防音の壁に囲われた一室で声にならない声を上げているのはフィーナだった。

次回、シュゴフ教編ラスト『戻ってきた平穏』。

28日22:00頃記載予定。

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