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キューブ  作者: 水野 閖
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018 嵐の予感

 七色の雛(ラードゥカ)と話して心細さもかなり和らいだ。

「雨が降りそうだな」


 月も星も見えない。

 雲っているのもあるが、人家を離れると光量こうりょうは随分減るらしい。

 ウィラビーにある自然保護区の林から住宅街までは百m単位で離れている。


「うわっ」

「どうしたの?」

 携帯の振動が蔭川の身体に伝わって大きく揺れた。

 一緒にいる七色の雛(ラードゥカ)が心配そうに声をかけている。


「いや、なんでもない。ありがとう。友達からの連絡みたい」

「そっか」


 他の人の気持ちをおもんぱかって、声色さえうまく扱えるようになりかかっている。

 エミリーの父が日本語を教えるのが相当上手いのか、七色の雛(ラードゥカ)の能力が高いのか。いや、両方だろうな、と蔭川は結論付けた。


「ちょっと携帯見てるね」

「わかった」

 そして、蔭川は携帯画面を弄りだす。

 蔭川に連絡してくる人は多くない。特に他の生徒と協力する大学の共同課題がある時期を除けば殆どの場合は一人しかいない。


『クラッチ?』

 久方ぶりに話す鈴蘭である。

 日本にいる蔭川の親友で携帯で連絡を取っている。


『久しぶり』

『指輪手に入れたよ』

 支配者のキューブ剣王 千を持つ大場博人と連絡先を交換したのだと、前回の会話で蔭川に教えていた。ネット上で自分のキューブ自慢をしているが、嘘つき扱いされて馬鹿にされていた少年である。


『カードやお金付きで?』

 キューブを手に入れた時におまけで手に入る指輪にはカード一枚とお金が入っている。

 カードからキューブを召喚してもいいし、売却してお金に替える事もできる。そのお金を使って新しいカードの購入が可能なのだ。ただし、キューブの売買に使われるのはヨムという通貨で、円やドル等この世界の金から両替によって手に入れる事は出来ない。つまり、一ヨムさえかなり貴重だ。


『そう。灰色の守衛・蟷螂かまきりってキューブと一ヨム入ってたよ。』

『おお、やったじゃん』


『うん。欲しい?』

 蔭川は戦力アップの為にヨム集めしていたのだ。しかし、現在はシュゴフ教相手でいっぱいいっぱいである。


『欲しい、けど、それは鈴蘭が持ってなよ』

『ん? へー、そっか』


『使ってみて何か発見があったら教えて欲しいなー』

 蔭川も灰色の守衛シリーズは二体持っているが、目立たず実験できる場所がないので一枚は召喚した後鞄の中に仕舞いっぱなしで、もう一枚はキューブ召喚すらしていない。つまり、扱い方や利点があまり分かっていないのだ。


『いいよ』

『そんで大場少年は結局どんな人だった?』


『んー、子どもだったよ。見せびらかしたくてしょうがなかったみたい』

『友達とキューブ使って遊んでたら、興奮も落ち着くような気もするけど』

『んー、なんか友達いないみたい。あと隻眼だったよ』

 蔭川がキューブの対価に支払ったのは百万円だ。未成年の大場自身がそんな大金を持っていたとは考えにくい。もしかしたら、人によって対価がちがうのだろうか。もしも、眼球はひとつ十万円ほどで買えるらしいので、キューブの対価だと仮定すると安い。そうだとしても、絶対売りたくはないが。


『そっか。いつ隻眼になったか聞いた?』

『いや、流石に訊けないよ。でも、あんまり気にしてないみたいだったよ』

『そっかぁ』


 ・・・


「終わった」

 鈴蘭との話に夢中になっていた蔭川が背後からの声に息を飲む。

 振り返ると暗闇に紛れてエミリーが立っていた。ヘルメットは手に持っている。


 シュゴフ教の根城からの逃亡の後始末をし終えたらしい。


 エミリーの隠蔽工作の出来に疑いの目を向ける方が正しいのかもしれないが、蔭川はきっと問題ないだろうと信頼していた。根城への突入から逃亡までの一連の動きが完全に素人のものではなかったからだ。そもそも助けられておいて、仕事の出来不出来に口を出すほど面の皮は厚くない。


「ありがと」

 かさかさと葉っぱがこすれる音が聞える。虫もいるのかと思うとおぞましい。

 肌寒いと腕を擦りながら、蔭川は疑問を解消すべく口を開けた。


「そういえば、エミリーってなんであそこにいたの?」

「貴方が心配だったので」

 心配だったので、ストーキングしていたのだろうか?完全装備で追跡されてたのか?銃まで持ってたよね。

 この話題を続けるのに一抹の不安がよぎった蔭川は方向転換することにした。


「そ、そっか。エミリーって強いんだね」

「はい。暗殺術の免許皆伝をもらっています」

 何なの? 裏組織の一員なの? と蔭川は脳内で叫び走り回った。いや、海中に潜らせてある影ヒコーキ君(チェーニ)を高速移動させた。そして、(サメ)に激突して殺してしまった所で我に返る。

 エミリーの正体が少しわかった気がした蔭川である。


「そうなんだ。あー、えっと……」

「はい」


「こんな事になっちゃったから、今後どうなるんだろう。スーザンたちはどうするのかな?」

 喧嘩別れみたいになったが、サミーもいるので仲直りできるのか。

 或は、怒ったジョンあたりが攻撃を仕掛けてくるのか。

 それとも、互いに距離をとって無関係に戻れるか。


「わかりません」

「そうだよね」


 蔭川は項垂れた。

 仲直りできるなら、それで情報交換するのが最善だろう。次善としては互いに無干渉状態にできる事だが、あの唯我独尊という字がぴったりのジョンや同級生のサミーがいるので無理だろう。ジョンにはいつか闇討ちでもされそうだ。


「んー、困ったね」

「殺しますか?」


 蔭川は目を見張った。

 確かにジョンには消えてもらった方が嬉しいのは事実だ。でも、そんな事で殺していいのだろうか。駄目ときっぱり言い切れない蔭川だった。


「そうですか」

 エミリーが勝手に気持ちを察しているようだった。

 蔭川は両手を前に出して慌てる。変な勘違いされてはたまらない。


「いや、待って。確かに危害を加えられそうになったら話は別だけど、仲直りできるならそうしたい」

「わかりました」

 ふぅっと息を吐き蔭川は安堵する。


 ・・・


 ひゅーひゅーと強い風が吹き荒れ、灰色の空からは今にも雨が降りそう。

 シュゴフ教の根城。

 窓ガラスも電球も元通りになっており、机の上には手つかずの鶏からあげが鎮座ちんざしている。床にはスーザン、ササ、ジョン、そしてサミーが横たわる。一面にガラスの破片があったはずの廊下も元通りになっている。


 例外はスーザンの周りだけで、少しだけガラス片が残っている。その周りを頭が二つある竜が警戒していた。


「ん、んん」


 サミーが眼を覚まし、顔を顰め、頭を振って周囲を確認した。昨夜ドアの前にいたジョンは椅子に座って寝ている。ササも同様に鶏のから揚げの側で頭を机に預けていた。


「昨日、要君を呼んだはずじゃ……」

 サミーはトイレに向かい顔を洗った。そして、髪を整える。

 屈伸運動して身体を少し柔らかくしてから、椅子に座った。サミーの手に握られた携帯の液晶画面には十三時と映し出されている。


「このまま帰るわけにもいかないよな。どうし、うわっ」

 机に突っ伏しているジョンの眼が開いていた。

 だいたいいつも五月蠅うるさいジョンが起きているのに威圧感も出さずにじっとしている。


「おいっ」

「どうかしたのか?」

 頭を机の上に乗せたまま大声を出すジョンにサミーは静かに答えた。

 声が目覚ましになり、スーザンが起きたらしい。まだ状況がわからず、ぼーとしている。


「おめぇ、一体どうなってやがる」

 上半身を起こし、左右に首を捻っている。

 変な体勢で寝ていたので少し辛そうだ。


「さぁ、よくわからないな」

「おいっ、てめ」


「おはよう、ジョン、サミー」

 拳を机に置いて立ち上がったジョンと少し身構えたサミーにスーザンが声をかけた。

 ジョンはしかめっ面で舌打ちし、顔を背けている。


「おはようございます、スーザンさん」

 スーザンは窓や天井の電球を眺めて納得いかない顔をしている。

 そして、その様子を見守るサミーやジョンは疑問を共有していると安堵した。


「やっぱり割れてたはずだよね?」

「え?そうよね?」

「おめぇが夜連れてきてたひょろい男のせいじゃねえぇのか!?」

「んー、どういう事だろう? 要君帰ったのかなぁ」

 ジョンは苦痛を露わにした自分の顔を右手で覆っている。

 何時の間に起きたのかササは無言でスーザンを下から上まで真剣に見つめていた。

 そして、スーザンの顔に付着したガラス片を見つけ、指をさす。


「ん?ああ、ガラスの欠片がついてたみたいじゃね」

「やっぱり昨夜の事は現実だったのか?」

 狐に化かされたように混乱する一行だったが、疑問を解消する手がかりは一つしかない。

 話の焦点も唯一の手がかりである蔭川に移るのは仕方なかった。


「サミーの友達とやらと話してみるのがいいかもしれんね」

「そうだな。連絡入れてみるよ」

 携帯を弄り耳に当てた。三十秒ほど待っても電話には反応がない。

 さらにサミーは携帯を弄り、メッセージを残した。すぐのすぐに返事がないと分かり方を落とすサミー。


「まぁ、同じ大学なんじゃけん。すぐ会えるが」

「いや、もう試験前だから大学で会えるのは数週間先なんだ」

「馬鹿かっ! てめぇの鼻使えばいいだろうが!」

 ジョンは両手の拳を自分の太ももに殴りつけた。理解不能の現象に相当イライラしているらしい。


「んー、すぐに探さなくても返事待ったらいいんじゃない?」

「いや、あいつにはすぐに探して何しやがったのか吐かせてやるっ」

「探すなら一人で行くよ」

 ジョンはきょとんとした。

 彼が蔭川と遭遇していい事は何もないだろうとサミーはわかっている。


「はぁ? てめぇに聞いてねぇんだよ」

 どうあってもジョンはついていく心積もりらしい。

 眼が血走っている。


「ちょ、ちょっと待つんよ。わかった、じゃあ、とりあえず探してもらうとして、その後は穏便に話を聞く事にしよ?」

 すぐにでもサミーを掴みかかろうかと立ち上がったジョンにスーザンが提案した。

 ここらへんが幹部間の意見を擦り合わせた落としどころだろう。


「わかったよ」

「わかりゃあいんだよ。行くぞっ。さっさと案内しやがれっ」


 こうして、サミーとジョンは蔭川捜索に出かけるのだった……。

読んでくれてありがとうございます。


次回『嵐の前の静けさ』

25日昼12:00記載です!

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