謁見する大魔王様
「それでは、最南端に位置する国は何処しょうか」
「「ハイ」」
「では、ルル」
「フフン、ガルトね」
「不十分です」
「では、ヒーロ様お答えを」
「獣魔族連合国家ガルト」
「正解です、ルルは答えられ無かった分デザートが減ります」
「そんなぁ」
現在、講師フークによる勉強会の真っ最中である。
このところ毎日のように訓練と勉強をしてる。
言葉が通じるのは良かったが、文字は全くもって理解不能なんだから覚える以外に方法がない。
地理、歴史、魔術、と必要な事もこうして講義をうけているんだけど、何故かルシールも一緒なんだよね。
俺が間違えたり解答できない場合は翌日の修行時間が延びるけど、ルシールはその日のデザートが目減りするらしい。
初日から適用されたこのルールによって襤褸雑巾になった俺が本気で勉強したのは言うまでもない。
今では完全に文字も理解して、日々予習に務めた結果が、先程の光景に繋がっているわけなのだ。
いやだって本気でやらないと死ぬ程辛い目にあうからね…
大学まで勉強してきた日本人舐めんな!
実際大魔王の能力による部分が大きいけどな……
そんな日々を過ごしていた大魔王達に使者到着の知らせが届いたのだ。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「それで、貴方がアメラ連邦国家よりの使者だと」
「はい、ルシフェル様、
第三王女ヴィヴィアン・ローズ・ド・アメラで御座います」
「ふむ、それで此方への用向きは何かな、
かの有名な【男装の戦姫】が使者で来るのだ、
それなりの用件であろう」
「実は、ユイキス教により先導された者共がおりまして、
スイペン国へと、攻撃があるやも知れませぬ」
「今までのような小競り合いではなく侵攻してくる。
という訳か…」
「国王である兄より万が一止めれなかった場合、
誠意の証として我を使者としました、
わが身なれば信用の証たるとは思いますが」
「確かに…王族としては敵対の意志が無いのだろうな」
事実上の最強戦力と言われる【男装の戦姫】を戦争の前に使者として差し出してくる。使者は建前で所謂人質として送ってきたのだ。
お勉強効果はきちんとでてますよ、フークー先生。
まあ玉座に座って威厳ある態度を取ってくれと言われているので、しかめっ面して腕を組んで踏ん反り返るという非常に態度の悪い演出中だ。
先程からヴィヴィアンがちらっと気にしているのは知っている。
王であるはずのルシフェルではなく別の人物が玉座で偉そうにしているのだから、気にならない筈が無い。
「ルシフェル様、一つお尋ねしても宜しいでしょうか」
「許そう」
「私はスイペン王はルシフェル様と教わり育ったのですが…」
「うむ、間違いではない、スイペン王はこのルシフェルである」
「では、其方の玉座に居られるお方は」
「フッフッフ、やはり気になるか」
「浅学の身なればご紹介頂けますでしょうか」
「よかろう、こちらのお方は…」
ここはアレしかないよな、うん。
決めるよ俺は!
「フゥッハッハッハハ!
我こそは大魔王ヒーロである」
「大魔王…大魔王!」
「ヒーロ様…まさに威厳ある名乗りで御座います」
「これは、失礼しました、大魔王降臨は噂であると…」
「よい、許す」
「態々喧伝する事では無いのでな、
ヴィヴィアン殿が驚かれても仕方なかろう
まあだが、できれば尊称をもって接して頂けるかな。
ヒーロ様は寛大だが我等魔界の盟主様である」
「失礼しました、大魔王様とは知らず御無礼を…」
「構わぬ、友好を願う王家の意向は汲み取ろう」
「ハッ、有り難う御座います。
出来ましたらこの事我が兄に知らせたいのですが」
「我は構わぬと思うが、ルシールよどうだ」
「そろそろ問題は無い頃合かと、
と言う訳でヴィヴィアン殿から連絡をされるが良い。
それで戦争が止まれば良いのだがな。
スイペン王国は戦を望まぬ。
今宵歓待の宴を開く故、また話そうではないか」
大変だよなあ、王族ってだけで使者で人質だもんな。
うん、優しくしてあげないといけないな。
可愛いからだろうと言われればその通りに決まってる、男だから仕方ないじゃないか。
可愛いは正義なんだよ!
ナイスバディのルルに、クールで知的なフク、そして男装のお姫様だぞ。
これで反応しなきゃ男でいる必要なんて無いだろうが!
だけど、人間の王族相手にどう接したらいいのか解らんな。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
大魔王、本当に降臨していたとは…
案内の侍女から説明をされたが、既に山を切り開きスイペン王国に力を貸していとか。それも単独で山を10個切り開き、大地を穿ち湖を作ったなど、恐ろしい話だ。やはり兄上の考えは正しかった。その昔、大魔王は一言で100万の軍勢を屠ったとも言われている。私の命を差し出してでも祖国を守らねばならぬ。
し、しかしだ、私はこれまで戦しか興味が無かった。どうすれば良いのだろうか。こんな事なら蝶よ花よと身を着飾っていた姉上達の如く手練手管を学んでおけば…
だが…この額の傷もさることながら私如きでは人質になるのが精一杯か…
案内された部屋で一人落ち込むヴィヴィアン。幼い頃より刺繍や詩文などを習うよりも剣術馬術に興味を持ち最強と言われる戦姫。女性らしくなど考えた事も無かった自身を恨む事など無かったのだ。
考えれば考える程魅力が無いと落ち込み、晩餐の呼び出しが来る頃には華やかなドレスも持たぬ自分を叩き殺したいとさえ思いながら軍服に袖を通して部屋を出たのであった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
ヴィヴィアンと夕食を共にするという事で普段着に着替えてから食堂へと足を運んだ。俺の心はグッと掴まれる感覚を味わった。
大魔王入室ともなれば先に席に着いていたものが起立する。
こ、これは!騎士姿も凛々しかったけど。
男装キター!
そしてドレス姿のナイスバディ!
執事服姿のクールビューティー!
そうか此処が天国か…
「ヒーロ様、ヒーロ様…」
「すまぬ、皆が余りにも美しくてな。
我が魂が喜びに満たされて時間が止まったようだ」
「フフフ、困りますわ」
「全く、困ったお方です」
「あ、え?私もですか」
「当然である」
当たり前ジャン?
これは天然系ってことかっ。好感度アップだよヴィヴィアン。
大魔王たるもの女性の評価は正しくしないといけない。
魔王と副官が郡を抜く美しさだったが、ヴィヴィアンもなかなかに素晴らしい逸材だ。
俺は素晴らしき美しさは守るべきだと思ってるからな。
にこやかな雰囲気で始まった会食でヴィヴィアンも満足そうだな。
美女3人に囲まれた生活か…
流石に前じゃあ考えられなかったな…
寝て起きたら大魔王だったなんて話をしたら、あいつらが聞いたら笑うだろうな。
比呂斗はふと来る前の世界に思いを馳せた




