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大魔王様の文化革命

 早朝からの訓練、昼からの座学、そして夜間に付与魔法。


 あれ、俺って元の世界で暮らしてた時よりも更に勤勉になってるよな。別に大学をサボってた訳じゃないけど、大魔王なのにおかしい…よね?


 そんな疑問はさておいて、皆で囲む夕食は最高だった。

 まず鍋である。箸と取り皿を使って食べる方法を伝えて皆で食べた。勿論さらにメンバーを増やしてクレア、ラセーヌ、サファイアの三名の近衛兵も一緒になった。


 熱いステーキが食べたいと思いフォークも作成させた。流石に手づかみで焼いた肉を食べるのは苦しいものがある。

 食事は無礼講として回転テーブルを設置して大皿を皆で食べるという大胆な方法も取り入れた。

 王宮の工房では変わった物を作る大魔王と、職人気質の闇輝人(デュアルブ)が日々何かを作っては密談を交わすという噂まで流れていた。

 厨房では変わった料理を次々に発想する料理魔王なんて呼ばれている。

 いやだって、ピザとかハンバーグとか食べたくなったんだからしょうがないじゃない。


 食は文化だぜ?



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 のんびりと過ごしていたのは、魔界側(大陸の南部なわけだが)からの危険は一時無くなっているし、人間側も一応は戦争を仕掛けて来ない。そんな状況で2ヶ月が平穏に過ぎていたからだ。


 勿論、日々勤勉に務めた日本人根性の塊とも言える俺は、攻撃魔術以外は完璧とも言える成果を出していた。

 剣術? なにそれ美味しいの、俺のトラウマだよ。いや以前に比べればマシになったと思う。

 だが調子にのると叩きのめされるのは変わらなかった。


 そう、今もな、だが俺は今までの俺とは違うんだ。


「ヌォォォォォオ」


 三ヶ月、そう三ヶ月かけて俺は同じ剣術で対抗する事の無意味な事に気がついた。


 我が魂は日本男子、燃える大和魂が宿るのは日本刀なんだ。

 攻防一体を一本の刀で繰り広げる。遠心力や剣の重さで振り回す剣術は俺には合わないんだ。


 王家の工房へと向かい二振りの刀を作らせた。練習用と実戦用だ。


 最高品質の魔力鋼と金剛鋼、銀魔鋼を使って作られた刀だ。

 なにせ希少価値の高い鉱石は俺が爆散させた山から取れたのだ。

 今でもこの刀の作り方を説明した時の闇輝人(デュアルブ)の親方の顔が思い出せる。

 二人でニヤっと笑ったものだ。


 そして鋼魔蟲から取れる糸を編んだ俺の私服兼、戦闘服に付与魔法(エンチャント)した物を装備する戦闘方法を編み出した。

 鎧を纏った相手をするのだ。此方のスピードで翻弄する戦いは効果があった。

 少なくとも以前のように襤褸雑巾になる事はなくなったのだ。


 そう通常形態ならな…


 ヴィヴィとはいい勝負を繰り広げたさ。互いに魔術無しだから俺も成長した事が実感できる。


 だが本気を出したルルは変身状態で突っ込んできた。

 俺には変身状態は無い。いやある筈とは言われたが、そんな物は生まれる時において来たのだろう。


 こうなると速度マシマシ、筋力マシマシの攻撃を躱だけで精一杯だ。

 これで魔力を伴った肉体強化とかされたらどうなるのだろうか…

 嫌な映像しか浮かばない。


 攻撃の一切を捨てて防御を続ける。

 妖刀の方ならば打ち合う時に相手の剣を切り裂ける能力を付与してあるのだが、訓練用はただ強化されたに過ぎない。


 鍔迫り合いに持ち込んだら力で押し切られる。

 常に敵の攻撃を逸らす剣術で対応する。

 通常の状態ならこれで体勢を崩して攻撃に移れるのだ。

 しかし筋力マシマシのルルは剣が流れても踏ん張る。

 一か八かの賭けにでる。

 振り下ろしてくる剣を刀の根元で受けて体を踏み込み足払いを仕掛けた。

 剣術の稽古なので体技を使うのはどうかと思ったが、強烈な一撃を喰らうぐらいならと仕掛けてみた。

 これがあっさり決まって、ルルは尻餅をついた


「お見事です」

「いや済まない、剣術の稽古なのは理解していたが、

 勝つにはこれしか方法が思いつかなくてな」


 片手を差し出してルルを起き上がらせる。


「いえ、剣技として素晴らしい方法です。

 私達のように鎧を纏った者を相手に有効でしょう」


 おお、ルルから褒められると嬉しいな。

 というか初勝利じゃないか!

 やれば出来る子なんだ俺ってば。


「私の苦手とする魔王が同じような戦い方です

 私もまだまだですね」


 実際の所、正直この体が反則なだけだと思う。

 以前の俺は普通の大学生で強くも無かった。だがこの体は剣術にしても魔術にしても使えば使う程強くなっていく。それより60kgはある鎧を着こんであの速度で動いてるルル達の方がかなり凄まじいと思う、一つ間違えたら今日だって吹っ飛んでたのは俺だ。多分同じ戦い方をすればルルの方が強いはずだしな。

 今度鎧の軽量化について話し合ってみよう。

 毎日2冊の本を読み続けた俺の灰色頭脳は軽量化方法を知っている。ちょっと吃驚する方法で軽量化してやろうではないか、フゥッハッハッハ。


 それよりも今日からスケジュールを変えるんだった。俺はルルとヴィヴィを伴って訓練場を後にした。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「今日から訓練と魔術の時間を減らして視察に出る」


 朝食の時に皆に告げた内容だ。ここ最近は訓練の成果もある、工房に赴いたりして城の外にも興味が出てきたのだ。

 吸血鬼ヴァンパイア王国スイペン、山間の町とされていたが俺の破壊いや開拓によって王都は広がりを見せているのだ。

 大体中世ぐらいの文明のこの世界だ、魔術によってちょっと文化レベルに違いもあるけど領民の暮らしを豊かにするぐらいは出来るんじゃないかと思うんだ。


 まずはこの三ヶ月勉強してきた国内事情とやらをこの眼で確かめる。


 建物の多くは石もしくは煉瓦、もしくは木で出来ている。既にガラスは作られていて町並みだけを見れば、現在のヨーロッパの観光都市とさほど変わらなく見えるが、上下水道などが完備されていない。


 このままでは死病ペストの発生も考えられる。

 できれば日本ファンタジー基準であって欲しかった。


「想像したくは無かった…早急に改善だ!」


 改善点は多岐に渡った。


 衛生、治安、軍事、都市計画まで突っ込んだ。

 水洗式のトイレを導入するのは難しくとも道端を禁止して各家庭や商店などには大至急で汲み取り式に魔術処理を含めたトイレを設置させる計画を発動させた。王城で問題ないと思ってたのに、これは大問題だった。


 洒落にならないから!


 ハイヒールの逸話とか傘の逸話とかあったけどこれを見れば信じたくなる。


 恐るべし文化レベル格差。


 同時に王宮のトイレも改装させたのは言うまでもない。


 そして治安問題はなかなか大変だった。警察も消防もないのだ。騎士の見回りと兵隊による巡察が国の行ってる物で、他は町の自警団任せである。町の区画ごとに詰め所を作り軍と自警団から選抜した者から警邏隊を設立して治安維持活動と消防活動をさせる事にした。


 これまでは役職もなく命令によって動かしていた組織を行政毎に割り振っていき組織も作らせた。


 王を頂点としての三権分立である。さらに騎士団も組織化と細分化を図って軍として力を持たない体勢を作った。


 文明レベルを一気に向上させていくのだが、気を付けたのは支配構造を壊さない事だ。

 なにせ現代社会との違いは大きいし、民衆政治には向かない社会だ。善政をひいていればいいって訳じゃないが少なくとも寿命の無い種族が頂点にたって統治してるのだ。そして他国からの侵略もありえる。

 綺麗ごとを並べていれば国が侵略される。


 富国強兵、これこそが国を守るのに必要なことだろ。


 山から出た資源と広がった耕地を緑で埋め尽くす為に俺は頭をフル回転させた。


 水車によって揚水した水を水路に通して灌漑する事を伝え、農具の改善にも力を入れた。まさか小学校で向かった博物館見学が役に立つ日がくるなんてな、日本の教育はどこを目指していたのか不思議なものだ。

 まさか異世界で知識を動員させているだなんて思いもしないだろう。


 そんな日々を過ごしていた俺達の元に急報が届いた。

 ユイキス教による聖戦クルセイド軍の侵攻であった。

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