↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
権限至上主義:世界がどうなろうと知ったことか  作者: biyaozhie


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/20

T3級・液体再構成型智械

「でも、あいつは無傷だ」


「それは、俺のせいじゃないだろ」


「繆隊長、責任転嫁はやめてください!」


「じゃあ、俺にどうしろっていうんだ?」


「あいつはT1を二機相手に、二ラウンドもやり合ったんですよ」


「俺、生体義体だぞ? どうやって勝てっていうんだ」


「全部、繆隊長が油断したせいです!」


「最初から機械義体に換装しておくべきだったんですよ!」


「はは。無理無理、勝てるわけないって」


向こうからは、怒りに震える荒い息だけが返ってきた。


繆隊長は一度、頭の中を整理する。


「『戴罪者』として考えれば、強度は基準を満たしているな」


パン、と手を叩く。


「なら、話は早い」


そう言うと、身を翻して仰向けになり、空を見上げた。


「『至勇絶』、T3液体型を降ろせ」


――――


宇宙。


意識連携調整局所属、部門級智脳――至勇絶が、命令への応答を開始する。


【申請を受理しました】


【身元認証中……】


【権限認証中……】


【使用許可を取得:T3級・液体再構成型・軍用智械】


【投送準備開始……】


軌道宇宙ステーション内部。


球形だったT3が、起動する。


二立方メートルの体積を持つT3は、軌道上の輸送コンテナを使わなかった。


自ら噛み合わせ機構を構築し、軌道設備へと接続する。


輸送開始。


T3の後方ではハッチが一枚、また一枚と閉じていく。


その一方で、前方のハッチが次々と素早く開いていく。


T3が加速する。


さらに加速。


軌道の輪郭が次第に見えなくなり、一本の線へと変わっていく。


周囲の船体もぼやけ、すべてが一つに繋がったように見える。


T3、射出。


その瞬間――


すべてが、再びゆっくりになったかのように見えた。


目の前の惑星が、どんどん大きくなっていく。


近づく。


さらに近づく。


機体温度が急上昇する。


機体の周囲に炎が燃え上がる。


T3は猛烈な速度で落下し、一筋の光となった。


だが、この形態を維持した時間は長くなかった。


地上の人間に気づかれる、その前に――


崩壊。


分散。


T3は水滴のような形状へと変化し、ひっそりと地上から五千五百メートルの高度へ到達する。


風を受ける面の形状を変え、速度を制御する。


タイミングを見計らいながら、さらに降下していく。


同時刻。


極天のいる都市の上空では、局地気象改変システムが至勇絶によって接収され、降雨の準備が進められていた。


雲が集まり、冷たい風が吹き抜ける。


――――


空中にいた繆隊長は減速し、広場から離れた商店街へと降り立った。


「俺は向こうには行かないぞ。さっき瞬殺されたばっかりだからな」


「星星楽のミルクティーでも買ってくる」


「ちょっと気持ちを落ち着けないとな」


通信越しに、苛立った女の声が響く。


「隊長!!」


ドン!


机を叩く音。


「サボるにしても、もう少しマシな言い訳を考えてください!」


繆隊長は慌てて通信を切り、ぶつぶつと呟いた。


「現場評価はもう終わってるんだ」


「後は智脳が片付けてくれるだろ」


「それにしても、程のやつは何をあんなに騒いでるんだ?」


繆隊長はミルクティーショップの前へ向かった。


ほどなくして、店員が愛想よくミルクティーを差し出す。


「お客様、星星楽でございます」


繆隊長は頷き、受け取った。


ずっと細められていた彼の目が、この瞬間だけわずかに開く。


視線がミルクティーの蓋に印刷された3Dコードへ向いた瞬間、情報端末が情報を読み取り、アニメーションを再生し始めた。


カップの口が立体的な夜空に覆われる。


そして、ゆっくりと流星雨が降り始めた。


封を剥がす。


銀河がカップの中へと流れ込み、その上を一葉の小舟がゆったりと進んでいく。


波紋が静かに広がる。


ドン。


繆隊長の左側の尻に、何かが勢いよくぶつかった。


余目で見ると、先ほどぶつかってきた男の子が、今にも転びそうになっている。


直前の衝撃でカップが揺れ、中のミルクティーが一部、空中へと飛び出した。


その液体は瞬く間に波しぶきへと変わり、夜空がその軌跡に沿って広がっていく。


カップの中にいた小舟は、一面に繋がった夜空の上を波しぶきを踏みながら、前方の二人へと向かっていく。


一瞬――


繆隊長の手が遊龍のように走り、足がそよ風のように動く。


手にしたカップがその口となり、飛び散った波しぶきと小舟をすべて飲み込む。


足元の埃が風の影を描き、茫然とした少年の身体を支える。


――画面が、停止する。


繆隊長は前へ伸ばした腕でミルクティーを持ち、後ろへ伸ばした足で少年を支えていた。


そして、危うくミルクティーを浴びるところだった男が、その場に立ち止まり、振り返る。


「どうした? 極天」


少しの間。


「……何でもない」


「さっきの人……何をしてるんだ?」


ぽつ。


ぽつ。


水滴が目の前から落ち、地面に弾ける。


一滴。


二滴。


街に、雨が降り始めた。


「うわっ! なんで雨が降ってきたんだ?」


季平は極天を引っ張り、足早に雨宿りできる場所を探す。


雨粒が広告ディスプレイへ落ち、細かな光の粒となって砕け散る。


通行人たちが空を見上げる。


空は灰白色。


雷鳴はない。


風も止まっている。


それでも、雨は次第に強くなっていく。


ぽつ、ぽつ。


やがて、商店街のミルクティーショップに設置された透明な雨よけシェードが、無数の細かな雨音で埋め尽くされる。


水の筋が縁を伝って流れ、いくつもの透明な珠のカーテンを作っていく。


歩く速度を上げる者。


上着を引き寄せる者。


街に灯る色とりどりの光が、濡れた路面の上で長い反射となって伸びていく。


赤。


青。


白。


――――


広場。


雨粒が半球状の光幕へ降り注ぐ。


その一部が、音もなく内部へと溶け込んでいく。


内部のドーム天井。


侵入した雨粒が集まり、凝縮する。


やがて――


巨大な銀白色の液体の塊が、蠢きながら形を成した。


その体積が増えなくなり、動きが止まった瞬間。


突然、見えない巨大な力に押し潰されたかのように平たく広がる。


ドームの天井一面へ均等に張り付き、その表面に幾重もの波紋が広がった。


その真下。


胴体と繋がっていない四肢が、T1の残骸の上に立っていた。


ただ静かに、そこにいる。


まるで何かを待っているかのように。


次の瞬間。


その両手が一瞬で持ち上がり、胸元を覆う。


そして――


あの液体の塊が、瞬間移動したかのように目の前へ現れた。


反応する暇すらない。


巨大な口が開き、鋸のような牙が姿を現す。


閉じる!


噛み砕く!


ドン――


すべてが終わった後になってようやく、重く鈍い衝撃音がドーム全体に炸裂した。


球体そのものが震える。


轟音が広場の外へと漏れ出し、都市の街路へと響き渡っていく。


――――


商店街。


雨上がりの空気には、わずかな冷たさが残っていた。


「極天、なんで急に雨が降ったんだ?」


季平は情報端末に表示された天気予報を確認する。


しばらくして。


「……今日、雨が降るなんて予定、どこにも出てないぞ」


極天は答えなかった。


ただ、少し離れた場所にいる、先ほど一緒に雨宿りをしていた細目の男を見つめている。


私服。


高性能機械義体。


湮甦?


意識連携調整局?


それとも……別の何か?


相手も極天の視線に気づいたらしい。


男は極天へ手を振り、まるで挨拶するような仕草を見せた。


……まあいい。


下手に考えすぎると、余計なことまで考えてしまう。


極天は頷き、相手へ返した。


「同僚か?」


季平も極天の視線を追う。


極天は首を横に振った。


「違う」


「知らない人だ」


「そうか。てっきり同僚かと思ったから、ちょっと知り合いになろうかと思ったんだけどな」


その時。


ドン――


広場の方向から、重く鈍い音が響いた。


季平が一瞬、動きを止める。


そして極天を見る。


「……何の音だ?」


「分からない。広場のほうから聞こえたみたいだ」


遠くの広場は、相変わらず半球状の光幕に覆われている。


内部の様子は見えない。


だが、その衝撃音は――


地面の底から響いてきた。


重い。


低い。


鈍い。


細目の男が手にしていた、飲みかけのミルクティーが空中で止まる。


彼はゆっくりと顔を上げ、広場の方向を見る。


細められた目。


その瞬間だけ、都市の喧騒が一拍遅れたように感じられた。


通行人が足を止める。


店員が手を止める。


食事をしていた者たちは、開いた口を閉じることすら忘れている。


誰もが無意識のうちに――


音の発生源へと視線を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。