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権限至上主義:世界がどうなろうと知ったことか  作者: biyaozhie


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17/17

陽光、そよ風、花の香り、そして散りゆく人々

同じ日のこと。


朝食を済ませた極天は、季平と一緒に家を出た。


陽光は適度に調整され、暖かな光が街へ降り注いでいる。


時折吹くそよ風が、ひどく心地いい。


二人は並んで街道を歩いていた。


季平が大きく伸びをする。


「極天、今日は仕事ないのか?」


「うん。用事がなければ行かなくていい」


季平は軽く頷き、二人はそのまま歩き続けた。


バス停を通りかかったところで、季平は二歩を一歩にして先に駆けていく。


停留所に設置されたスクリーンを操作しながら、振り返った。


「極天、今日はどの花の香りにする?」


極天がスクリーンの前まで行く。


そこにはいくつもの花の名前が表示されていた。


ジャスミン。


クチナシ。


キンモクセイ。


ユリ。


ラン。


……


季平は時刻を確認する。


「急げ、あと一分だ」


「もしかしたら、俺たちの一票が決定票になるかもしれないぞ」


「うん……じゃあ、ランで」


季平が「ラン」の項目をタップする。


すると画面が切り替わり、それまで選択画面の裏に隠されていた「棒グラフ」が表示された。


季平は笑う。


「今日は本当にランが一番多いな」


時刻がちょうど【8:00】になった。


街道の両側。


それまで何もなかった緑地帯の土から、何かが次々と顔を出していく。


小さな芽が点々と現れ、それがやがて一面へと広がっていく。


まるで地面に緑の絨毯が敷かれたように、ゆらゆらと揺れている。


よく見れば、土の中から伸びているのは無数の新芽だった。


それらは猛烈な勢いで成長し、あっという間に植物の姿へ変わっていく。


そして、すぐにそれがランだと分かるようになった。


ほどなくして蕾が膨らみ――


一斉に、花開く。


そのタイミングを見計らったかのように、そよ風が街を吹き抜けた。


清らかで上品なランの香りが、街全体を満たしていく。


極天は視線を戻した。


「兄さん」


「ん? どうした?」


「なあ……院長先生のところ、行かないか?」


季平の声が、一瞬だけ止まった。


「……ああ」


「行こう」


――――


極天と季平は交通機関を使わず、そのまま歩いて向かうことにした。


少し休みたくなったときは、「歩行エレベーター」に乗る。


地面と平行に伸び、街を横切っていくそのエレベーターが、二人を乗せたまましばらく「歩かせて」くれる。


途中、広場を通った。


そこはかなり広く、至るところで様々な催しが行われている。


巨大なホログラムロボット同士が戦っている。


かと思えば、灰白色のローブを身にまとい、高く尖った魔法帽を被った人間が、地面に魔法陣を展開している。


そして、墓地から骸骨が這い出してくる「魔法」を披露していた。


人々が次々と集まり、広場は大いに賑わっている。


「へえ……」


「歴史って、本当に繰り返すんだな」


季平は歩きながら、昔を思い出す。


「子供の頃は、ここも結構賑やかだったんだよ」


「でも情報端末が普及して、意識潜航まで再び一般化した頃は、こんなところに人なんてほとんどいなかった」


「みんな家にこもって、こっそり意識潜入ゲームに夢中になってたからな」


「ネットの友達に通信をかけても、出た瞬間に『EX――カリバー!』とか叫ぶ奴までいた」


「一時期、本当に現実とゲームの区別がつかなくなったんじゃないかと思ったよ」


極天は黙って話を聞いていた。


その脳裏にも、七歳を過ぎてからの子供時代の記憶が時折浮かんでいた。


季平が楽しそうに話し続けていた、そのとき。


【ただいま全品セール中!】


【オープン記念、大特価!】


「?」


「?」


二人は同時に足を止め、互いの顔を見る。


極天が口を開いた。


「兄さんも届いた?」


季平が頷く。


「ああ」


「どういうことだ?」


「ポップアップ広告、切ってなかったのか?」


極天は情報端末の設定画面を開く。


【パーソナライズド通知:OFF】


設定画面を閉じ、季平を見る。


「俺は切ってある」


数秒待つ。


「俺も切ってるぞ」


「……変だな」


二人は歩みを止めなかった。


しばらく進むと、ポップアップ広告はもう表示されなくなった。


二人は、どこかのろくでもない奴が情報端末会社を買収でもして、強制的に広告を流しているのだろうと考えた。


広場の中。


賑わう人々の間に、小さな「驚き」が一つ、また一つと静かに落ちていく。


「えっ!」


一人の女性が突然足を止め、口元を手で覆った。


隣にいた男が不思議そうに尋ねる。


「どうした、ダーリン?」


女性が振り返る。


目が輝いている。


「ねえ、あなた。さっき情報端末に、ショッピングモールのバッグが期間限定で五割引って出たの!」


彼女は男の腕に抱きつき、軽く揺さぶる。


「早く行こうよ。ね?」


男は少し迷った。


だが、すぐに頷く。


「分かった。君が楽しければいいよ」


二人は腕を組み、その場を離れていった。


似たような光景が、次々と起こる。


「ねえ、あっちのアクセサリー、割引されてる。早く!」


「あなた、早く来て!」


「お兄ちゃん最高~、ちゅっ!」


……


次々と男女が広場から散っていく。


広場の別の場所では。


のんびり散歩していた年配の夫婦が、突然言い争いを始めた。


「帰るぞ! 今すぐ村に戻る!」


爺さんはその場に立ったまま、妻に袖を引っ張られている。


「どうしたんだ、ばあさん」


「村で宇宙人の卵を配ってるんだよ!」


「行かん」


「もう何時代だと思ってるんだ。そんなもの欲しがってどうする」


老婆の顔が険しくなる。


そして、夫の腕をつねり、さらに引っ張る。


「一人多ければ、一人分多くもらえるだろ!」


爺さんの顔が痛みで引きつる。


「分かった分かった! そんなに引っ張るな!」


広場のあちこちで。


「何!? 自治体から生活支援が出た!?」


「兄弟、急げ! あっちで最新型の伴侶人形を展示してるぞ!」


「早く~! レストランの季節限定復刻メニューに間に合わなくなるよ~!」


「大型有人ロボットが港で販売開始だ! 兄弟たち、突撃だ!」


「そんなもん、デカい以外に何の役に立つんだ?」


「親不孝者め! 男のロマンをお前の尻に突っ込んでやる!」


「馮兄さん、限定版の実体ゲームストレージが発売されるみたいです。見に行きません?」


広場の端で、馮一語が足を止めた。


振り返る。


さっきまで大勢いた人々が、瞬く間に散っていく。


馮一語は呟いた。


「十分に暇なら、意外と面白いものがたくさん見つかるもんだな」


そう言うと、自分で首を横に振った。


「いや……人々が興味を持っていないだけなのかもしれない」


「目に入ったところで、どうなる?」


「一瞬だけ感じる違和感より、確実で明確な情報のほうが、人を惹きつけるんだろうな」


馮一語の隣では、少年が俯いたまま情報端末を操作している。


彼はもう一度、小さな声で呼びかけた。


「馮兄さん?」


返事はない。


顔を上げると、馮一語は何かを考えるようにぼんやりしていた。


少年は彼の腕を引っ張る。


「行きます?」


馮一語が我に返る。


「ああ。行こう」


……


広場から、人の姿がほとんど消えた。


カツ。


チリン――。


手首に赤い布を巻き、足首には二つの金の腕輪をつけた男が、足を止めた。


広場の中央に立つ。


そして顔を上げた。


視線の先には、青く、果てしなく広がる空。


――――


風が吹く。


葉が落ちる。


さらさらという音が響く。


柔らかく、どこか物悲しい歌声が、少しずつ耳元へ届いてくる。


「極天、言うなよ」


「ここ、墓地の雰囲気が結構いいな」


季平は頭を上げたまま、隣の極天へ顔を向ける。


「風が吹いて、落ち葉が舞って、そのうえ音楽まで流れてる」


二人は黄金色の落ち葉で覆われた小道を歩きながら、途切れ途切れに言葉を交わしていた。


そのとき。


極天の視界の端に、いくつかの光線が街へ落ちるのが見えた。


彼は振り返る。


「どうした、極天?」


季平も彼の視線を追う。


遠くに広がる街は、静まり返っていた。


「さっき……何かが何度か光ったような気がする」


そう言って、首を横に振る。


「たぶん、見間違いだ」


季平が近寄ってくる。


「目に何か入ったんじゃないか?」


そして極天の目元へ手を伸ばし、まぶたを開こうとする。


「ほら、吹いてやるよ」


極天は避けなかった。


「……何もないな」


「やっぱり見間違いだろ」


二人は再び歩き始めた。


やがて、一つの墓の前へ辿り着く。


――院長先生 李芳芯之墓


季平が前へ出る。


腰を屈め、持ってきた花を墓前へ供えた。


「母さん」


「俺と極天で、会いに来たよ」


そう言って、墓石へ顔を寄せる。


耳元で囁くように続けた。


「俺たち、ちゃんと生きてるから」


そして振り返り、極天を見る。


その目には、どこか生気がなかった。


再び墓へ向き直る。


まるで秘密話をするように、静かに呟いた。


「安心してくれ、母さん」


「俺がちゃんと極天の面倒を見るから」


季平が立ち上がり、場所を譲る。


極天はしばらく躊躇った。


やがて前へ進み、しゃがみ込む。


手にしていた花を、墓前へそっと置いた。


「院長先生。俺たち、会いに来ました」


その一言を口にしたあと、極天は何も言わなかった。


――ごめんなさい、母さん。


――あれが事故じゃないことは、分かってる。


――どう探しても、手がかりが見つからない。


――湮甦に入る以外に……


――俺には、本当にもう方法がないんだ。


――ごめんなさい……


長い時間が過ぎた。


二人はそれぞれの感情を整理するように静かに佇んだあと、墓前を後にした。


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