↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
権限至上主義:世界がどうなろうと知ったことか  作者: biyaozhie


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/17

帰還者

「聞こえていたら応答して。聞こえていたら応答して」


極天はわずかに眉を上げた。


そして意識を使い、頭の中に文字を打ち込む。


『あいつらは何者だ?』


『傭兵だよ』


『誰に雇われた? 何のために?』


『ちょっと待って。確認するね』


『うんうん、許可記録はないみたい』


『じゃあ、紅鈴に戦術爆撃でもしてもらう?』


極天がさらに問いかけようとした、その時だった。


機体が突然、小さく震えた。


同時に、船壁の赤い警告灯が点灯する。


だが、まるで誰かに握り潰されたかのように一瞬で消え、何事もなかったように正常へ戻った。


視界の右下に警告が表示される。


【警告、航路が逸脱しています】


小さな電流音が耳元で弾けた。


【緋紅鈴との通信が切断されました】


【再呼び出しを行いますか?】


極天が鼻をわずかに動かす。


微かな鉄錆の匂いがした。


黒いブーツが一足、視界に入る。


続いて、もう一足。


床に落ちたはずなのに、音がしない。


まるで音そのものがブーツに吸い込まれたかのようだった。


極天が顔を上げる。


そこにいたのは、先ほどの舌を出したマスクを被った男だった。


今度はマスクの表情が、ファスナーの絵柄に変わっている。


「兄弟、誰と話してたんだ?」


男は極天の隣に腰を下ろした。


「俺たちにも教えてくれよ」


「一緒に参加させてくれ」


極天の視線が素早く数人の間を走り、最後に操縦室へ向けられる。


「さっき機体が何度か揺れた。故障したのかもしれない」


「操縦室を見てくる」


そう言って、立ち上がる。


だが――


尻が座席から離れた瞬間、再び座席へと戻された。


マスク男の右手が、すでに極天の肩に乗っていた。


そのまま、押さえつけられている。


「兄弟、気流だよ」


「きっと気流の乱れだ」


「それに、湮甦の代物がそんな簡単に壊れるわけないだろ?」


極天は頷いた。


座席の下。


極天は左足をしっかりと踏み込み、右足をゆっくりと後ろへ引いた。


ふくらはぎの筋肉が張り詰める。


つま先が床を掴み、踵が徐々に浮き上がっていく。


男が続ける。


「そうだ、兄弟」


「お前、ずいぶん口が堅そうだな」


そう言いながら、左手を上げ、極天の胸を軽く数回叩く。


そして、極天の全身を上から下まで二度ほど眺めた。


「口が堅いのはいいことだ」


「俺は口の堅い奴が好きなんだよ」


言葉が終わると同時に、男のマスクに描かれたファスナーがゆっくりと閉じていく。


「秘密が漏れにくいからな」


わずかに間を置いて、


「どうだ?」


「兄ちゃんたちと一緒にやらないか?」


極天が答えるより先に、男が口を挟んだ。


「おっと――」


「返事は急がなくていい」


男は顔を上げ、機内の天井を見つめる。


まるで感慨にふけるように。


「知ってるか?」


「湮甦の目には、人間なんて映ってないんだ」


「俺たちとは違って――」


男は再び前を向いた。


「おい、お前ら二人も来い」


「新入りの兄弟に挨拶しろ」


向かいにいた二人が立ち上がる。


極天は小さく息を吐いた。


そして――


ドンッ!


突然、床を強く踏み鳴らした。


その音に、三人の視線が一斉に極天へ向く。


その瞬間。


極天の左手が腰元を素早く横切った。


そして、何気ない動作でマスク男の肩に置かれる。


手のひらの下に、小さな装置が隠された。


耳元から声が飛んでくる。


「どうした、兄弟?」


極天はわずかに首を振った。


「何でもない」


「ちょっと足が痺れただけだ」


「動かそうとしたら、力加減を間違えた」


マスク男は極天の手へ視線を落とした。


肩をわずかにすくめる。


だが、振り払おうとはしなかった。


その時だった。


先ほど立ち上がった向かいの二人が、何やら揉め始めた。


互いに押し合いながら、極天のほうへ近づいてくる。


後ろを歩いていた男が、前を歩く男の服を引っ張った。


「次はお前のボロ玩具、貸してくれよ」


前の男が振り返る。


「貸さねえ!」


「チッ――ケチくせえな!」


後ろの男が押す。


前の男は極天に背を向けたまま、よろめきながら後退してくる。


一歩。


二歩。


そして突然、身体が止まった。


次の瞬間――


男が勢いよく振り返る。


腕が振り抜かれ、その手に握られた刃物が冷たい光を放ちながら、極天の喉元へ迫った。


男が振り返った、その瞬間。


極天は腰に力を込め、身体を後ろへ反らした。


目を閉じる。


そして、先ほど装置を仕込んだ左手を掲げる。


【旅居爆震弾、起動】


ドンッ!!


三人の視界が、一瞬で真っ白に染まった。


キィィィン――


四人の頭の中に、耳鳴りだけが響き渡る。


極天が目を開く。


刃が、目の前を紙一重で通り過ぎていた。


左手へ視線を落とす。


皮膚が裂け、血が滲んでいる。


だが、痛みを気にしている暇はない。


極天は左手を鉤爪のように曲げ、マスク男の首を掴み上げた。


腰と脚に同時に力を込め、そのまま立ち上がる。


マスク男もなお、極天を必死に掴んで離さない。


極天は全身の筋肉を張り詰めさせ、マスク男を引きずるように一歩前へ出る。


その先には、ナイフを握った男。


男は視界が利かないまま、めちゃくちゃに刃を振り回している。


極天は身体を小さく動かし、次々と刃をかわす。


だが、その刃先が生み出した血痕は、極天の手の中にいるマスク男の顔へ次々と刻まれていく。


「ぐっ……!」


マスク男が痛みに顔を歪める。


そして、極天を抱えていた両腕を離し、顔を押さえた。


最後の一人は必死に目を開け、目の前の状況を把握しようとする。


しかし、すぐに痛みに耐えきれなくなり、再び目を固く閉じた。


歯を食いしばる。


それでも、これまでの経験と記憶だけを頼りに銃を抜く。


装填。


そして、極天がいると思われる方向へ腕を向けた。


極天はマスク男を蹴り飛ばす。


その勢いを利用し、同時に男の拳銃を抜き取った。


カチャッ。


装填音が響いた、その瞬間――


二つの銃口が同時に向けられた。


パンッ!


極天が一瞬早く引き金を引いた。


弾丸が相手の顔面を撃ち抜く。


身体が大きく仰け反る。


だが、まだ倒れない。


パンッ! パンッ!


三人の身体が床へ崩れ落ちた。


パンッ! パンッ! パンッ!


さらに数発の銃声が響き渡り――


ようやく機内が静寂に包まれた。


極天は数人の死体を見渡す。


その場に二秒ほど立ち尽くした。


頭の中に通信リンクを呼び出す。


【通信接続不能】


極天は通信リンクの画面を閉じる。


そして死体のそばへ歩み寄り、しゃがみ込んだ。


身体を探る。


拳銃。


弾薬。


注射器。


爆薬。


だが、目立った装置は見つからない。


極天の手が止まる。


……そうか。


通信リンクを切断できる装置なら、それなりの大きさがあるはずだ。


身体に携帯できるような代物ではない。


極天は一人の耳へ手を伸ばし、探る。


そして――


一粒の「小さな飴玉」のようなものを取り出した。


脳内通信を使う人間が、こんな原始的なものを耳に仕込んでいる。


妙に原点回帰している感じがする。


極天はその「飴玉」を耳へ入れ、耳を澄ませた。


静かだ。


外そうとした、その時――


「ハロー、ハロー」


「聞こえる? 極天」


「緋紅鈴?」


「そうそう」


「やっぱり、優秀な社員は違うね」


「迎えの人はもう向かってるよ」


「操縦室のクッションを持って、そこから飛び降りてね」


「……?」


「今の状況について説明する気はないのか?」


「それに、クッションって何のことだ?」


極天の視線が、手提げケースへ向く。


「宅配便だよ、宅配便」


「荷物はクッションの中」


「じゃあ、もう話してる時間ないから」


「その飛行艇はもういらないよ。早く飛び降りて」


「バイバイ」


ピッ。


短い電子音が鳴った。


それきり、緋紅鈴の声は聞こえなくなった。


「おい」


極天は何度か呼びかける。


返事はない。


操縦室へ目を向け、立ち上がる。


ザザッ――


耳の中からノイズが走った。


数秒の沈黙。


その後、聞き覚えのない男の声が響く。


「失敗したか?」


「……まあいい」


極天はしばらく黙って聞いていた。


男の声以外に、機械が稼働する微かな駆動音が聞こえる。


極天は淡々と尋ねた。


「近くにいるのか?」


向こうが一瞬、沈黙する。


やがて、少し意外そうな声が返ってきた。


「お前が急いでいなければ――」


「もしかしたら、直接会うこともできるかもしれないな」


「いや、いい」


「この三人、お前の部下だろ?」


「後で迎えに来てくれ」


極天は床に転がった三人へ視線を向ける。


「そうそう」


「こいつら、みんな寝てるから」


そう言って、耳から「飴玉」を取り出し、脇へ放り投げた。


極天は操縦室へ向かう。


医療箱を取り出し、左手の傷を簡単に包帯で巻いた。


その後、操縦席にある物理ボタンをいくつか操作し、航路の変更を試みる。


反応なし。


機載AIに話しかけても、返答はない。


極天はクッションを取り外した。


それを抱えたまま機内へ戻り、機体後部へ向かう。


船壁にあるスイッチを押す。


ウィィン――


貨物室のハッチがゆっくりと開いていく。


次の瞬間、冷たい風が一気に機内へ流れ込んだ。


極天の髪が激しく揺れる。


だが、その顔に表情はない。


ただ、外へ視線を向ける。


夜の闇の中。


眼下に森が広がっていた。


極天は手すりを掴み、二歩前へ進む。


そして、下を見る。


低空。


――たぶん、死にはしない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。