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第118話 青を選んだメイ

翌朝、メイは赤い家紋を黄色い布で隠して市場へ来た。


隠したつもりでも、腰の光は生まれつきの赤を漏らしている。店主たちは彼女の家を知っており、声をかけるたび「シエナの次女」と呼んだ。メイ本人の名より、工房と色が先に来る。


リュシアは試作の色帯を台へ並べた。


帯は身体を包まない。肩から斜めに掛け、肌との間へ細い骨輪を入れる。染料の色ではなく、帯へ流した魔力が表面の薄板を光らせるので、外せば生来の紋へ戻る。


「好きなのを選んで」とリュシア。


客たちは赤や金を取り、鏡代わりの鉱板へ自分を映した。普段と同じ色を、少し明るくする者が多い。


メイは一番端の青を取った。


市場のざわめきが一段下がる。


赤い家の娘が青をまとうのは、祭りの冗談なら許されても、平日の朝には挑発だった。青は学堂と記録官の色。赤の子が選べる道ではない。


シエナが低く呼ぶ。


「メイ」


「試すだけ」


帯を肩へ掛ける。生来の赤は消えず、その外側へ青が走った。混ざらず、二色が並ぶ。リュシアが狙った通りだった。


メイは鏡を見なかった。


そのまま青の石畳へ足を踏み入れる。


結人たちは後を追った。青区の門までは市場から百歩ほど。道の鉱板が帯の青へ反応し、通行音を鳴らす。メイは一度だけ振り返り、嬉しそうに笑った。


学堂の入口で、教師セレンが待っていた。


彼は昨日、南門でリュシアに命じられた青年トワの上司でもある。青い腰紋は薄く、年齢とともに白へ近づいていた。


「帯を外しなさい」


「青に見えませんか」


「見える。だから困る」


「授業を受けたいんです」


「出生簿が赤だ」


メイは持ってきた筆記板を胸へ抱えた。


「色を選べるなら、学ぶ場所も選べます」


「この門は色だけを見ているんじゃない。席数、師の責任、卒業後の配属まで繋がっている」


「だから生まれた日に全部決める?」


セレンは答えず、門を閉めた。


リュシアが前へ出る。昔なら、赤の家の権限で扉を開けさせたかもしれない。今もその言葉が喉まで上がった。結人には、彼女の肩がわずかに持ち上がるのが見えた。


メイが姉の腕を掴む。


「私の代わりに命じないで」


「中へ入りたいんでしょ」


「自分で入りたい」


メイは門前の石段へ座った。筆記板を膝へ置き、開いた窓から聞こえる講義へ耳を澄ます。


最初の授業は水質だった。上流の土、川底の金属、染料の沈み方。婚礼布に必要な知識ばかりだった。


結人は日差しを見て、布の日除けを作ろうとした。メイが首を振る。


「服はいらない」


「天幕なら」


「それはほしい」


身体へ着せず、門脇の杭へ小さな布を張る。赤区の職人が学堂前へ居座っていると噂が広がり、市場の子どもたちが一人、二人と集まった。灰区のトワも荷運びの途中で立ち止まり、日除けの外から板へ式を書き写した。


昼、セレンが窓を閉めた。


メイは立たない。


午後の授業は、教師が窓の近くで話した。声が外へ届くよう、少しだけ大きかった。


夕方、青い帯の光が弱くなる。メイは自分で留め具を外した。赤い紋が戻ると、周囲の子どもがため息をついた。


「魔力が切れた?」と結人。


「今日はここまで」


彼女は青帯を畳み、姉へ返さず鞄へ入れた。


セレンが門を開けたのは、授業が終わってからだった。入学は認めない。ただ、明日も窓を開けると告げる。


メイは礼を言わなかった。


代わりに、今日書き取った水質表をシエナ工房へ持ち帰った。母が一度も習えなかった青区の知識が、赤い染料庫の机へ初めて置かれた。


夜、シエナは誰もいない染料庫で水質表を開いた。読めない青区の記号には触れず、メイが丸を付けた排水口だけを、赤い染料で作業板へ写す。


翌朝、その排水口の下には新しい桶が置かれていた。母は何も言わず、青い表を机の一番上へ残した。

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