祝福の街
サラディアに向かう街道を、黒い馬車が走っている。前部の御者台と後部の幌付き荷台に分かれたトレーラータイプの黒馬車には、タケシとカツミ、クニオとスセリが乗っている。
「なあ、神様やったら、馬車使わんでも行けるんちゃうん」
タケシがクニオを横目で睨む。
「だってタケシの馬車、乗ってみたかったんだもん。ね、スセリ」
意に介さないクニオ。
「ええ。道の駅にも寄るんでしょ。楽しみー」
スセリも全く動じない。
「狭いのに......」
「タケシ、諦め。クニオもスセリもミナセから出たことないんよ。うちらが頼んでるんやから」
「そうやけど」
「帰りはピュッと帰るよ。僕らも、あんまりギルド留守にできないし」
「休んでるんか」
「テラに頼んでるけどね」
「お土産いるな」
「うん。えっと」
紙切れを出した。
「キノコのカレーと、ジャムのセット、それから.....ミックスナッツ」
「まあええわ。それは俺が見繕う」
「やったー。僕らの分も?」
「はいはい。わかりました」
レオンとリシュアの結婚式。
タケシとカツミは、散々悩んだあげく、婚活ギルドの門を叩いた。
ーー小さな加護でいい。授けてやってくれないか。
神様は、普段ミナセから出ることはない。
テラが、王都のカイルに会いに行くのと、たまに、冒険者ギルドのスサノーとヤマトが、魔物討伐で出る程度。年に1度あるかないかだ。
「だって、タケシ達の娘と弟子でしょ。当然行かせて貰うよ」
と、クニオは快く引き受けてくれた。
街道は整備されていて、所々に道の駅や馬車基地がある。
普通の馬車旅なら4日かかっていた行程も、タケシの馬車の改良で夜間走行が可能になり、途中で馬を変えることで、どんどんスピードが上がった。
必死で飛ばして2日だったのが、楽に2日で行けて、休憩所や食事処まである。
もはや馬車旅は楽しめる旅になっていた。
道の駅にはクレスの他にも屋台が出ていて、串焼きやら春巻きやら、好きな物を買って食べる。
スセリとカツミが飲んでいるのは、ミナセサラディア間で今ヒットしている、タピスラドリンク。ピュアフローパウダーで作ったタピオカがサラディア産フルーツと豆乳に入っているのだ。
「カツミちゃん、これすっごくおいしい」
「豆乳はグレイスビーンズ使ってるんですよ」
「この頃は、ミナセでも豆腐やおあげさんも売ってるけど、グレイスビーンズのはやっぱり一味違うわね」
「カツミちゃん、今クレスって何店舗あるの?」
揚げ春巻きを齧りながら、クニオが聞いた。
「工房は10かな。で各工房から道の駅へ2店舗づつ出てる」
「すごーい」
「なんかいつの間にか増えちゃって」
「大変だね」
「そうでもないよ、こういう店舗は自由にさせてるの。オリジナルがある方が楽しいし」
「そっか」クニオが頷きながら、ふらっと立ち上がる。
目が、買い物中の美女に向いていた。
「クニオ!」スセリの声が凄む。
「相変わらずやね」
「......だって」
「だってじゃない!」
「タケシ、綺麗な街だね」
サラディアは、災害から約7年。すっかり街は整備され、新しい家が立ち並んでいる。当初建てられた小屋は、住人達が家を建て退去すると、改築され、宿や商店に変わっていた。
街路樹はまだ小さいが、鉢植えの花が並べられ、広めにとった馬車道に、彩りを添えている。
人通りの多い公園通りは、露天が立ち賑わっていた。
ゆっくりと黒馬車が通ると、自然と人が割れる。そのまま城趾公園に入って馬車が止まった。
タケシが降り立つと、「領主さまー」と声が掛かった。
そして、クニオとスセリが降り立つと、民衆から「おぉー」とどよめき。
クニオは、白装束に髪を耳の横で結わえた正装。スセリは巫女姿。
初めて見る「神様」に、住民達が手を合わす。
公園に設えた祭壇に進む。
レオンとリシュアが待っていた。
成人を迎えたリシュアは背も伸びて、少女の面影を残したまま、美しい娘になっていた。
純白のドレスに身を包み、髪に住民の子供達が作った花飾りを付けている。
レオンも白い礼服。だが.......
タケシが駆け寄ると、背中のハリセンを外した。
「もういらんやろ」レオンの目を見る。
頷いたレオンは、リシュアの手を取った。
クニオがゆっくりと祭壇の前へ進む。横に鈴を持ったスセリ。
その場の空気が、すぅーっと静まる。
両手を高く上げ天上に祈ると、ひざまずくレオンとリシュアに向き直った。
神はーー
その誓いをもってーー
契となすーー
シャリンシャリンシャリン
2人の頭上にスセリの鈴が鳴る。
リシュアの手を、レオンの大きな手が包みこんだ。
2人は花で飾られた馬車に乗り、街に出る。
寄り添い時折見つめ合う2人に、住民達の花びらのシャワーが降って、街は歓喜に包まれていく。
「タケシ、彼らは大丈夫だよ」
声をかけたクニオは、もう元のパーカーとジーンズ姿に戻っていた。
「そっか。うん」
目の先で、2人が沿道に手を振っていた。
「ね、お土産買ってー」
「お。そやな、行くか」
教会で、父母の墓前に結婚の報告をして、レオンとリシュアが帰って来た時には、もうクニオ達の姿は消えていた。
「お父さま、神様は?」
「土産持って帰ったで」
「お話したかったです」
レオンがリシュアの頭にポンと手を置いた。
「リシュア、クニオ様とは会わなくていいよ。リシュアは綺麗過ぎる」
「??」
「ハハ。それ言えとる。スセリにまた怒られるわ」
「??」
「レオン、これからお前はレオン=コンドウや」
「はい、師匠」
「師匠はもう終わりやろ」
「あ.........」
「お前は俺の息子や。ほんでこのサラディアを統治するんや」
「はい........父上」
レオンは真面目な顔でタケシを見ていた。
「父上!?」
横でカツミがプッっと吹き出す。
「しゃあないな。父上やわな」
「うぅー。なんや背中がモゾモゾするけど、まあええ。ローデリック、レオンに任せるからな」
「はい」とレオンを見るローデリック。
「レオン様。今後も厳しく参りますぞ」
「はい」
「はいではありません、もっと堂々として下さい」
「うむ。わかった」
胸を張って見せるレオンに、その場の空気がかえって和んだ。




