第10話:誰と、誰——
『畜生はいいよな。何も考えずに生きてて』
誰——。
これは、僕の中にいるいつもの声じゃない。
『死ぬ恐怖をいちいち考えないんだろう。あんたらは、本能で生きてていいよな』
誰——。
騒がしい英雄たちの声じゃない。
なのに、心の底を撫でるように知っている気がする。
ひどく優しくて、同時に血が凍るほど冷酷な声。
……思い出せない。
『ただ、感情はあるよな。ならせめて、楽にするときは一瞬だ。俺がラクにしてやる』
誰——。
感情と記憶が混濁する。
どこまでが自分の記憶で、そして今見ているのが何の記憶なのか。
この感覚は、自分のものなのか。
ひどく他人事のように感じて。
それでも確かに、自分のものになっていく感覚があって。
『だからもう暴れるな。安心しろ。一匹残らず、あんたらは駆逐する』
誰——。
あなたは誰。
そして僕は…………ダレ?
視界に、濃密な影が差した。
足音もなく、生命の気配すら一切なく。
圧倒的な『死神』そのもののような男が、僕の目の前に見下ろすように立っていた。
その瞳に、慈悲の兆しなど微塵もない。
ただ、底なしの泥のように、暗く淀んでいるだけで。
——不意に、男の右手の指に、鈍く光る黒い指輪が見えた。
網膜に焼き付くソレだけが、吐き気がするほど生々しい。
あ。
やばい。
このままじゃやばい。
殺され——。
あ。
怖。
逃げ——。
あ、死。
——ゴビュン。
最後に聞いたのは、湿った重い音。
自分の頭蓋骨を、無慈悲に何かが貫通して弾け飛ぶ音だった。




