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「ハズレ精霊の飼い主」と馬鹿にされた整備士の娘ですが、機体の悲鳴が聞こえるので、貴族の皆様より上手く操れますよ?  作者: 秋澄しえる


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第54話「新人」

(Side:リーシャ・ヴァレンティア)


 新しい制服の袖を通す瞬間って、なんでこうも背筋が伸びるんだろう。


 鏡に映る自分を見る。


 ミラボー騎士団の正式な制服。深い紺色を基調とした、機能的だけど少しだけ装飾のあるジャケット。


 似合ってるかな?


 髪を短く切ったせいか、なんだか少しだけ大人びて見える気もする。


「ほう、馬子にも衣装じゃな」


 私の肩に乗ったセラフィが、意地悪そうに風を吹かせて前髪を乱してくる。


「もう!せっかくセットしたのに!」


 私はセラフィを指でつんつんと突きながら、こみ上げてくる笑みを抑えきれなかった。


 今日から、私はミラボー騎士団のミディだ。


 学生気分じゃない。この街を守る、本物の「盾」になるんだ。



 ミラボー騎士団本部、大会議室。


 厳粛な空気の中、新入団員の入団式が行われていた。


 といっても、今年の採用人数は少ない。私と、エミリアを含めて数名だけ。


 私は、わざとエミリアの隣に並んだ。


 エミリアは緊張でカチコチになっていて、隣に誰が並んだかも気づいていないみたい。


 式が始まり、団長が入場してくる。


 ロルフのおっちゃん…じゃない、ガリアード団長だ。


 騎士団の制服を纏ったその姿は、いつもの親しみやすいおっちゃんではなく、歴戦の指揮官の威厳に満ちている。


 団長の視線が、私たち新人の列を一巡し、私と目が合った瞬間、ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。


 そして、名前の読み上げが始まる。


「エミリア・ノーヴェ!」


「は、はいっ!」


 エミリアが裏返った声で返事をする。可愛い。


 そして、次。


「リーシャ・ヴァレンティア!」


「はいっ!」


 私が元気よく返事をすると、隣から「えっ?」という空気が漏れた。


 エミリアが、信じられないものを見る目で私を凝視している。


「あ、あれ!?リーシャ!?」


 式中だっていうのに、素っ頓狂な声を上げちゃうエミリア。


 私は彼女に向かって、ピースサインを送った。


「えへへ、私も一緒なんだ!照れくさくて言えなかったけどね!」


「うそ、進路のこと内緒にしてたのって…!」


「驚かせようと思ってさ!あ、あとね、ロルフのおっちゃん…じゃなくて、ガリアード団長から、私たち二人には、他の団員とは違うことをしてもらうと言われてて…」


「二人とも静かにしろ!最初からこれじゃ先が思いやられるぞ!」


 壇上から、雷のような怒号が飛んできた。


 ビリビリと空気が震える。


 私たちは反射的に直立不動になった。


「は、はいっ!申し訳ありません!」


「はいっ!」


 会場の先輩騎士たちから、クスクスと忍び笑いが漏れる。


 うう、初日から怒られちゃった。でも、なんだか嬉しい。この場所に、エミリアと一緒に立てていることが。


 団長は咳払いを一つして、居住まいを正した。


「皆も知っているだろうが、この二人は二年前から我々騎士団の訓練についてきた!だから、力量なども知っていると思うが、あくまで騎士団員としては新人だ!新人として扱うように!」


 団長の声が、会場の隅々まで響き渡る。


 先輩たちの視線が、温かいものから、認めるような厳しさを含んだものに変わる。


 そう、私たちは「お客さん」じゃない。今日からは仲間であり、ライバルだ。


「ただし!二人にはこれから、領内警備や訓練といった通常職務とともに、騎士団内で様々なこともしてもらう!シヴァルリィの技術研究などもだ!」


 会場がざわめいた。


 新人に技術研究?


 異例中の異例だ。


 でも、私は団長の意図を理解していた。そして、その意味を、団員のみなさんもわかっていてうなづいている。


 あの「軍隊」に勝つためだ。既存の枠組みに囚われていては、あの壁は越えられない。


「だから、通常の小隊に編入するのではなく、特殊分隊として動いてもらう!クオルリア!」


「はい!」


 凛とした声と共に、列の最前列にいた女性騎士が一歩前に出た。


 クオルリア小隊長。


 ミラボー騎士団の中で珍しい、全員女性で構成された「クオルリア小隊」の隊長だ。


 二年前、あの国境の地獄から団長と共に生還した、数少ない生き残りでもある。


「警備や訓練時は、おまえの小隊と行動を共にさせる。必要なことは教えてやれ!任せたぞ!」


「はい!承知いたしました」


 クオルリア隊長が振り返り、私たちを見てニッと口角を上げた。


 その笑顔は、上官というより、厳しい姉のような親しみに満ちていた。



 入団式が終わると、クオルリア隊長が近づいてきた。


 後ろには、小隊のメンバーである三人の女性騎士も一緒だ。彼女たちもまた、国境の激戦を知る歴戦のミディたち。


「やっと制服を着たわね。似合ってるじゃない」


「クオルリア隊長!ありがとうございます!」


「ふふ、おめでとう。この二年間、あなたたちが泥だらけになって訓練していたのを見てきたから、なんだか感慨深いわ」


 隊長は私の肩をポンと叩いた。


 その手は、優しかった。


「でも、ここからは甘くないわよ。特殊分隊とはいえ、警備任務では私たちの背中を預けることになるんだから」


「はい!足手まといにはなりません!」


「ええ、知ってるわ。あなたたちが『あの日』、街を守るためにどれだけ戦ったか。…そして、私たちが国境で何を見たか、あなたたちも知っている」


 隊長の目が、一瞬だけ鋭くなる。


 そこには、生き残った者同士にしかわからない、暗い炎が宿っていた。


 ガルドラムという絶望。


 それを共有しているからこそ、私たちは二年間、共に走り続けてこられたんだ。


「午後からの警備任務、よろしくね。準備しておきなさい」


「はい!」


 クオルリア隊長に敬礼をしてから、エミリアが小声でささやいてきた。


「ふぅ…これからよろしくね、エミリア」


「もう、水臭いなぁ。でも、一緒で本当に良かった。リーシャがいないと、私、不安で押しつぶされそうだったもん」


 エミリアが私の肩に寄りかかってくる。


 私たちは顔を見合わせて笑った。



 午後、クオルリア隊長が小隊の人たちに私たちを紹介してくれた。


 といっても、みんな見知った人たち。それでもこういうことは必要なことなんだということはわかってる。けじめって必要だよね。


「今日から当小隊と行動を共にする、リーシャとエミリアよ。ヴェリアルの機種転換の時や訓練ですでに知ってはいるけど、これからは同じ騎士団の仲間よ。みんなよろしくしてあげてね」


「はいっ!」


「セリュンは特に注意ね。彼女たちは新人なんだから、ヴェリアルの説明の時みたいに『エミリア先生』なんて呼んじゃダメよ?」


「あ、そっか!はい!」


 そういやそんなこともあったなぁ。セラフィが笑ってる。どうせ、私のダメダメっぷりを思い出したに違いない。


「じゃあ、早速だけど業務の説明をするわ」


 クオルリア隊長は、壁に貼られたミラボー領の地図を指し棒で叩いた。


「私たちの主な任務は、領内の巡回警備と治安維持。特に重点を置いているのが、ここ。新しくできた『海鳴り岬港』からミラボーへ続く街道よ」


 地図上の赤いライン。


 バルドール市の支援で整備された、ミラボーの新たな動脈だ。


「物流が増えたことで、それを狙う盗賊や、質の悪い傭兵崩れが流入してきているの。彼らを取り締まり、商人や旅人の安全を確保するのが、私たちの仕事」


 盗賊や傭兵崩れ。


 ガルドラムのような正規軍ではないけれど、市民にとっては脅威だ。


 平和を守る仕事。


 地味かもしれないけれど、とても大切な任務。


「それと、もう一つ」


 クオルリア隊長が、私をじっと見た。


「あなたたちは、二年前の『あの戦い』を経験しているわね」


「…はい」


「実戦経験があることは評価するわ。でも、それはあくまで『生き延びるための戦い』だったはず。私たちがするのは『守るための戦い』。その違いを、身体で覚えてもらうわ」


 守るための戦い。


 その言葉の重みが、胸にストンと落ちた。


 二年前、私たちは必死だった。


 自分の命と、街を守ることで精一杯で、なりふり構っていられなかった。


 でも、騎士団は違う。


 被害を最小限に抑え、敵を制圧し、法律に基づいて処罰する。


 そこには、情熱だけじゃない、冷徹な規律が必要なんだ。


「さあ、説明は終わり。では、警備任務にでます。ヴェリアル搭乗!セリュンはサポートでついてきて。パミュラとフィルサは街中の巡回警備をよろしく!」


「はいっ!」



 街道の警備任務は思っていたより大変だった。


 ヴェリアルで移動しながら、自分たちと相対速度のまったく異なる人たちや周囲のいたうところをみていかなくちゃならない。


「なぁ、小娘。この任務、意外とタメになるかもしれんぞ?」


「え、なんで?」


「おぬしがこれまでシヴァルリィに乗って見てきたのは、シヴァルリィばかりだ。つまり、目の置き所が、大きいものが基準だった。だが、この任務なら、人、馬、馬車、風景の違和感、とにかくいろんなものを見ねばならん。これを続けていれば、今までは見えなかったものが見えるようになるかもしれん」


 最初は、セラフィに、なにを言われているかよくわからなかった。でも、言われてみるとそうかも。街道を走る馬車の御者さんの表情が、ちゃんと見えた時に理解した。


「…ほんとだ。言いたいことがちょっとわかった気がする」


 隊長に通信をつなぐ。


『隊長、確認なのですが、馬車を停めて確認する場合ってありますか?』


『あるわよ。なにかあった?』


『今、脇を通った馬車が、私たちのヴェリアルを見た瞬間に、顔を伏せて速度を落としたのが気になって』


『なんですって!?確認しましょう!』


 クオルリア隊長は、そう言うなり反転して、目標の馬車のすぐ側に移動した。行動の意図を理解したセリュンさんが、すぐさま馬車の後方に立ったので、私は馬車の前に立った。残りの一方にはエミリアが立ち、馬車を完全に包囲した形になった。


 外部スピーカーから隊長の声が聞こえる。


『ミラボー騎士団です。そこの馬車!積み荷を確認します!』


 その言葉が終わらないうちに、御者さんは馬車を降り、走り出した!


 しかし、隊長がその逃走を許さなかった。素早く御者の正面に左手を開き、完全にではないけど捕まえてた。え!?なんでそんなに柔らかい操作ができるの!?


 男は離せ―!と、わめいているけどみんな無視。その間にセリュンさんが手早く馬車の中の荷物を確認してた。早い!いつのまに!?


『隊長!高純度フラクタル鉱です!刻印なし!密輸品ですかね』


 ちょうどその時、街道を巡回していた警備隊が馬でやってきた。


 隊長は警備隊の人に事情を説明し、馬車と御者を引き渡した。


 呆気にとられている間に全部終わっちゃった。


『リーシャ、お手柄よ。よくわかったわね』


 隊長は褒めてくれたけど、それよりも隊長とセリュンさんの手際の良さがすごかった。


 特に隊長の手の操作と加減。考えてみたら私は、剣を力いっぱい握りしめたことしかない。そっかあんなこともできるのか。



 騎士団本部に戻ってもやることがいっぱい。団長に報告をして、警備の引継ぎをして、報告書を書いて…大変すぎる。


「リーシャ、エミリア。今日はもうあがって。初日だし疲れたでしょ?今日はもうお家に帰ってゆっくりしなさい。そして、明日またよろしくね」


「…はい、ありがとうございます」


 私とエミリアは、ふらふらになりながら挨拶をして本部を後にした。


「リーシャ、ごめん!今日は用事があるから先に帰るね!また明日!」


 エミリアはそういうと足早に帰っていった。


 すごいスピード!あれ?エミリアの疲れはどこいった?


 私も家に帰るんだけど、その前に、自然と格納庫に足が向いた。


「なんじゃ小娘。今日もか?」


「うん、少しだけね」


 この二年間ずっとしてること。ヴェリアルのコックピットシートに座り、機体を起動させることなく目を閉じる。


 目を閉じると浮かんでくるのは、二人のミディの動きであり、シヴァルリィの動き。今だに鮮明に覚えている。


「またあの二人のことか。ジェラールとガルドラムのあやつ」


「え!?なんでわかったの!?」


「わからない方がおかしいわ。おぬしが軽くあしらわれた二人じゃろうが」


 セラフィがいかにも楽しそうに笑ってる。


 そう、私はあの二人に簡単にあしらわれた。


 単純にスピードだけなら私の方が上だった。それは間違いない。


 でも、すべての動きの先を読まれたように、私の攻撃は空を斬り、相手からは的確に当てられた。何千回、何万回考えてもわからない。何が違うんだろう。


 私もいつか、あの二人の目線にたどり着けるのだろうか。


 焦りもあるけど、不安の方が強い。


 …でも、いつか!いつになるかまったくわからないけど…勝ってやる!


 絶対に軽くあしらって不適な笑みをうかべてやるんだ!

今後のプロットを大幅に見直しますので、しばらく休載します。

ブックマークしてお待ちいただけると幸いです。

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